総合仕事と介護の「両立支援」を考える 手遅れになる前に、企業はどんな対策を講じておくべきなのか
企業の中核を担う40代、50代を中心に、介護を理由とした離職が増えている。高齢化社会の到来、共働き世帯や未婚率の増加などから、現在は介護問題が顕在化していない企業でも、潜在的なリスクは計り知れないものがある。周知のように、介護は「いつ始まり、いつまで続くのか」が分からない。手遅れになる前に、企業としての基本方針を示し、何らかの対策を講じておくことが、組織経営(人事マネジメント)の観点からも極めて重要だ。「前編」では、仕事と介護の両立の現状と、両立のために企業はどんな対応を行っていけばいいのかについて解説する。
「介護離職」の現状とは
◆介護問題は、40代、50代のキャリアに大きな影響を与える
「ある日突然、優秀な従業員が離職してしまうかもしれない……」。高齢化が進み、介護への対応が大きな社会問題となっている日本では、このような危機感を持っている人事担当者が少なくない。事実、「仕事と介護の両立に関する労働者調査」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング/2013年)を見ると、40代・50代の正社員では、介護の問題に直面した時に仕事を「続けられない」とする回答が28.4%となっており、3割近くの人に介護問題による潜在的な離職リスクのあることがわかる(図表1)
■図表1:介護に直面した場合の就業継続見込み(40代・50代正社員を対象)(%)
| 続けられると思う | 36.9 |
| わからない | 34.6 |
| 続けられないと思う | 28.4 |
*出所:「仕事と介護の両立に関する労働者調査」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング/2013年)
また、「就業構造基本調査」(総務省/2012年)によれば、2005年10月から2012年9月までに家族の介護・看護のために前職を離職した人は48万6900人(男性9万7900人、女性38万9000人)に達している。そして、実際に介護をしている人(557万4000人)のうち、40代が13.9%、50代が29.6%を占めていることからも、企業の中枢を担う40代・50代のキャリアに大きな影響が出てくる恐れがあることがわかる。今後は、高齢化により要介護者が増えると予想され、離職者のさらなる増加が懸念される。
◆共働き世帯増加の中、介護離職を未然に防ぐ必要性が高まる
現在、従業員の半数以上が「40代超え」「共働き世帯」となっている企業が増えている。この問題は大変深刻だ。2025年には約三人に一人が65歳以上になるという超高齢社会への危機感だけではなく、共働き従業員の増加が、これからの介護問題への対応をいっそう深刻なものにする可能性があるからだ。
日本では既に「家庭にいる誰かが介護を担う時代」は終わりを告げている。親の年齢が上がるに従って介護の確率も上がるが、少子化が進む今後は、夫婦二人で親を三人、四人介護するケースも珍しくなくなるだろう。そうすると今のままでは、相応の仕事・ポジションにいる従業員が突然、介護問題で会社を去っていくことが避けられない。このような社会構造の中で、いかに介護離職を未然に防ぐかは、企業にとって喫緊の課題と言える。職場の介護問題が一気に、そして大量に顕在化してからでは手のほどこしようがない。今まさに、そのための施策が強く求められているのである。
このような状況下、厚生労働省でも2014年8月に労働者が仕事と介護を両立できる環境の実現と、介護離職を防止するための取り組みに向けた社会的気運の醸成を狙いとした「トモニン」マークを導入し、その対策を進めている。労働者人口の減少が叫ばれる中、優秀な人材の確保、労働生産性の向上などの観点からも、介護は単に一企業だけではなく、社会的な課題なのだ。
仕事と介護の両立の実態
◆半数の企業に、介護に関して相談できる仕組みがない
ところが、これだけ仕事と介護の両立支援が大きな問題となっているにもかかわらず、どのように対策を進めていけばいいのか、企業も手探り状態とにあるのが現状だ。そこで、労務行政研究所が2014年に実施した「介護に関するアンケート」の結果から、これまで実際に介護をした人が、どのように仕事と介護を両立してきたのかを分析し、今後の取り組みの方向について考えてみたい。
まず、介護を理由とした退職があったかどうかを見ると、「退職した」が6.8%、「退職しなかった」が93.2%となっている。介護を理由に、これまで多くの時間とコストをかけて育ててきた従業員が辞めてしまうことは、組織運営上の痛手である。また、本人にとっても働く意欲があるのに辞めざる得ないことは、双方にとって大きな損失だ(図表2)
では、介護を理由に退職した人が、会社を辞めたきっかけは何だったのか。最も多かったのが「介護に時間が割かれ、時間的余裕がなかった」で、57.1%と過半数を占めている。次いで、「上司の無理解」「職場全体の雰囲気」が同率(23.8%)で続く。介護で辞めずに継続して働くには、柔軟な勤務体制とともに、会社や上司の理解・支援が重要であることがわかる(図表3)
相談窓口や面談の機会など、介護に関して相談できる仕組みが会社にあるかどうかを聞いた質問に対しては、「特にない」との回答が50.8%と半数を占めている。仕組みとして多かったのは「直属の上司との面談」(28.5%)、「自己申告制度」(23.0%)である。仕事と介護の両立を図るには、組織的な取り組みとして仕事配分の見直しや仕事量の調整などが必要になる。またその際、介護をしているという現実を、会社や上司に伝える仕組みがあり、活用できる状態になっていることも重要である。その点から見ると、そもそも半数で相談できる仕組みがないという状況は、非常に心もとないと言えるだろう(図表4)
■図表2:介護を理由とした退職(%)
| 退職した | 6.8 |
| 退職しなかった | 93.2 |
■図表3:介護を理由に退職した人の会社を辞めたきっかけ(複数回答)(%)
| 介護に時間が割かれ、時間的余裕がなかった | 57.1 |
| 上司の無理解 | 23.8 |
| 職場全体の雰囲気 | 23.8 |
| 同僚の無理解 | 19.0 |
| 会社に介護に関する制度はあったが、使いづらかった | 19.0 |
| 会社に介護に関する制度がなかった(周知されていない) | 19.0 |
| 介護に関して、引っ越しが必要になり、通勤ができなくなった | 19.0 |
| 経営トップの無理解 | 9.5 |
| もともと辞めたい気持ちがあった | 4.8 |
| 退職を勧められた | 4.8 |
| その他 | 9.5 |
■図表4:会社における介護に関して相談できる仕組み(相談窓口や面談の機会)の有無(%)
(複数回答)
| 直属の上司との面談 | 28.5 |
| 自己申告制度 | 23.0 |
| 人事や総務などの部署による面談 | 10.7 |
| 会社に設けられた専門の相談窓口 | 5.8 |
| 会社が契約した外部の相談窓口 | 2.6 |
| その他 | 1.0 |
| 特にない | 50.8 |
◆プライベートな問題のため、会社に知られないまま抱え込むことに
図表4で、何らかの介護に関する相談する仕組みがあると回答した人に、実際に相談したかどうかを聞くと、「相談した」は58.6%で、「相談しなかった」が41.4%。「相談しなかった」人に対して、相談しなかった理由を聞くと、最も多かったのは「なんとかやりくりすれば、自分自身で解決できると考えたため」で、57.1%と6割近くを占めた。
介護はプライベートな問題ということもあり、要介護者の状態次第では自分自身で解決できるという意識が働き、会社に知られないまま従業員が抱え込むことになっている実態が、まさに浮き彫りとなっている。事実、「相談することによって、解雇や退職勧奨される可能性があると考えたため」(9.5%)、「相談することによって、昇進・昇格や人事考課に影響が出ると考えたため」(6.3%)など、処遇に関する理由を挙げる人は1割に満たないのである。逆に言えば、会社側からの介護問題に対する積極的な対応・支援策が不足しているということである(図表5)
■図表5:会社や上司へ相談しなかった理由(%)(複数回答)
| なんとかやりくりすれば、自分自身で解決できると考えたため | 57.1 |
| 相談したところで、的確なアドバイスが得られそうにないと考えたため | 20.6 |
| 職場での人員配置や業務分担が難しく、周囲に迷惑をかけられないため | 17.5 |
| 相談することによって、業務配分に影響が出ると考えたため | 11.1 |
| 介護していることを会社に知られたくないため | 11.1 |
| 会社や上司に相談すること自体思いつかなかったため | 11.1 |
| 相談することによって、解雇や退職勧奨される可能性があると考えたため | 9.5 |
| 相談することによって、昇進・昇格や人事考課に影響が出ると考えたため | 6.3 |
| その他 | 1.6 |
*出所「介護に関するアンケート」(労務行政研究所/2014年)
仕事と介護の両立に向けて、何をすべきか
◆「会社の制度や情報などの提供はない」が7割に
介護問題に対して、会社はどのようなことを行っているのか。会社が提供する介護に関する情報の内容を聞くと、そもそも「介護に関する会社の精度や情報などの提供はない(提供されているか知らない)」が70.2%に達している。本人が認識していないケースもあるだろうが、7割が「提供はない」と回答している実態は、看過できないものと言えるだろう。情報提供している内容を見ても、「会社独自のパンフレットやリーフレットを提供している」(9.4%)、「社内のイントラネットで紹介している」(8.7%)などであり、全て1割以下にとどまっている(図表6)
■図表6:会社が提供している介護に関する情報の内容(%)(複数回答)
| 会社独自の介護に関するパンフレットやリーフレットを提供している | 9.4 |
| 社内のイントラネットで紹介している | 8.7 |
| 公的機関や健康保険組合からの介護に関するパンフレットやリーフレットを紹介している | 8.1 |
| 社内報で紹介している | 7.8 |
| 介護に関する制度を人事や総務の担当者が説明する機会がある | 6.1 |
| ライフプランセミナーなど特定層を対象としたセミナーを通じて説明している | 4.5 |
| 介護を行う際に利用できる制度を上司から説明する機会がある | 2.9 |
| 会社主催の介護に関する研修や講演会がある | 1.9 |
| 介護経験者の体験談を聞く機会がある | 1.6 |
| 社外の介護支援サービス業者と契約して、情報提供している | 1.3 |
| その他 | 0.3 |
| 介護に関する会社の制度や情報の提供はない(提供されているか知らない) | 70.2 |
◆まずは従業員の介護に対するニーズを把握することから始まる
では、介護に際して「実際に利用した制度」と、「利用してみて役立ったと感じた制度」は何だったのか。結果を見ると、実際に利用した制度、利用してみて役立ったと感じた制度ともに、「年次有給制度」が4割前後と最も多かった。次いで、「半日年休」が2割前後で続いている。また、全体的に見ても、休暇や労働時間に関する施策が上位を占めている。介護に必要な時間に合わせて、勤務時間をコントロールしたり、柔軟に休めたりできることが、介護特有の多様なニーズにマッチすることがわかる(図表7)
アンケートでは、仕事と介護を両立するために会社に対して要望するものについて、上位5項目を聞いているが、その中で1位に着目すると、「仕事と介護のための従業員ニーズを把握してほしい」が最も多く、24.3%。次いで、「年休を取得しやすくしてほしい」(14.6%)、「介護のための特別休暇を導入してほしい」(9.4%)となっている。まずは従業員の介護に対するニーズを把握することが第一であり、その結果を踏まえて休暇制度の整備を行うことがポイントである。さらに、会社組織として対応する場合、相談体制の整備、不利益の取り扱いなどにも、注力する必要があるだろう(図表8)
■図表7:介護に際して実際に利用した制度(複数回答)と、利用してみて役立ったと感じた制度
(3項目回答)(%)
| 実際に利用した制度 | 利用してみて役立ったと感じた制度 | |
| 年次有給休暇 | 41.4 | 35.0 |
| 半日年休 | 23.0 | 15.5 |
| 時間単位年休 | 11.7 | 7.4 |
| 介護年休 | 10.0 | 7.8 |
| 時間外労働の制限・免除 | 8.4 | 4.9 |
| 時間制度を短くする制度(短時間勤務制度) | 8.4 | 6.1 |
| 介護休業制度 | 6.8 | 4.9 |
| 始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ(時差出勤制度) | 4.9 | 3.2 |
| 介護の場合に利用できるフレックスタイム制度 | 4.5 | 3.2 |
| 介護の場合に利用できる失効年休の積立保存制度 | 3.6 | 1.3 |
| 休日労働の制限・免除 | 2.9 | 0.3 |
| 勤務日数を少なくする制度 | 2.9 | 1.9 |
| 深夜労働の制限・免除 | 2.3 | 0.6 |
| 福利厚生のサービスのメニューとして介護サービスを提供 | 1.9 | 0.6 |
| 在宅勤務制度 | 1.9 | 1.3 |
| 介護に要する経費(サービス利用料)の援助 | 1.3 | 0.6 |
| サテライトオフィスなど在宅以外の勤務場所の設定 | 1.3 | 0.6 |
| 介護が必要となった場合の一時金の支給 | 1.0 | 0.3 |
| 介護を理由に退職した人の再雇用制度 | 0.3 | 0.0 |
■図表8:仕事と介護の両立のために会社に対する要望(%)(5項目回答)*1位のみ記載
| 仕事と介護の両立のための従業員ニーズを把握してほしい | 24.3 |
| 年休を取得しやすくしてほしい | 14.6 |
| 介護のための特別休暇を導入してほしい | 9.4 |
| 人事や総務の担当部署に相談窓口・担当者を設置して個別相談ができるようにしてほしい | 6.1 |
| 介護休業の期間を法の定めを上回る内容にしてほしい | 4.9 |
| 上司に面談等で介護の相談に乗ってほしい | 4.5 |
| 介護休業期間中も賃金を支給してほしい | 4.5 |
| 始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げをする時差出勤制度を導入してほしい | 2.9 |
| 介護に関する講演や研修など情報提供をしてほしい | 2.6 |
| 介護休暇の期間を法の定めを上回る内容にしてほしい | 2.6 |
| 勤務時間を短くする制度(短時間勤務制度)を導入してほしい | 2.3 |
| 介護を関して制度を利用したことで人事考課が不利にならないようにしてほしい | 1.9 |
| 介護に関して制度を利用したことで昇進・昇格に影響しないようにしてほしい | 1.9 |
| 介護中に職場の上司や人事担当者と情報交換できる機会を設けてほしい | 1.6 |
| 勤務日数を少なくする制度を導入してほしい | 1.6 |
| 社内において介護経験者本人からの体験を聞く場や、同じような状況の社員が情報交換する場を設定してほしい | 1.3 |
| 介護に関しても失効年休の積立保存制度を利用できるようにしてほしい | 0.6 |
| 社外の介護支援サービス業者と契約して情報提供や相談・カウンセリングのサービスを提供してほしい | 0.6 |
| その他 | 0.6 |
◆「なぜ、会社が従業員の介護を支援するのか」という基本方針を明確に伝える
職場には、さまざまなバックグラウンドや価値観を持つ従業員が働いており、介護に関しても従業員からの要望は実に多様になっている。その際に大切なのは、「なぜ、会社が従業員の介護を支援するのか」という基本方針を明確に伝えることである。これを打ち出さないことには、対策も付け焼刃的なものになってしまう。人材難の時代にあって、会社を支えてくれるベテランの従業員や優秀な社員が仕事と介護の合間で悩んだ末に、退職してしまうことがどれだけの損失となるか。それを考えると、基本方針を明確に伝えるという努力やそのための情報提供は、決して惜しくはないはずだ。
近年、会社にとって必要な人材を採用するために、1対1のダイレクトリクルーティングの重要性が増している。それと同様に、介護問題においても、会社にとって必要な人材が辞めることなく活躍できるよう、一人ひとりの介護に対するニーズを把握し、対策を講じていくダイレクトサポートという視点が大切になってくるように思う。
以上、「前編」では介護の仕事の両立に向けて、企業はどのような取り組みを行っていけばいいのか、その方向性について見てきた。「後編」では、事例を交えながら、両立支援に関する具体的な方法を紹介する。