「働きやすさ」を追求すると、キャリアも会社もダメになる

総合「働きやすさ」を追求すると、キャリアも会社もダメになる

大変切ない現実ですが、日本で働く人たちの会社や仕事に対する満足度は、世界的にみても極端に低いという調査結果が後を絶ちません。また日本は労働時間が長く、休みもまともにとれていないのに、生産性は先進諸国の中でも頭抜けて低い状態から抜け出せていません。

ここを問題視する政府や大企業は、長時間労働の是正や、休日の増加、有給消化率の向上、賃上げなどに取り組んでいます。人手不足もあいまって、仕事と家庭を両立させて女性やシニアなど多様な人材が働き続けられるために、在宅勤務、産休・育休・介護休暇の拡充などの動きも盛んです。今、この国では、官民あげて、「働きやすさ」を高めることに躍起になっている状態といえます。

しかし。それで、働く人たちの満足度は上がるのでしょうか。もしあなたが今の会社や仕事に閉塞感やモチベーションの低下を感じているなら、労働時間が減り、在宅勤務ができて、給料があがれば、問題は解決すると思いますか?

私たちは「人を大切に育て活かす社会づくり」への貢献を社志に、FeelWorksを2008年に創業以来、8年半で300社近い企業・団体の「人が育つ現場」づくりを手掛けてきました。弊社のコンサルタントや人材育成プロデューサーなどは、研修やコンサルティングを通じて、働く人たちの本音や気持ちを聴き、人と組織の成長を応援し続けてきました。

こうした活動を通して、私は確信しています。働く人たちの仕事の満足度が高まらない最大の理由は、「働きがい」を得られていないことです。今、この国で働く人たちが本当に求めているのは「働きがい」なのです。

「働きがい」とは、デジタル大辞泉によると、「働くことによって得られる結果や喜び・働くだけの価値」です。「働」という字の意味は「人のために動く」と解釈できます。「働く」ことは、「傍(はた)を楽にする」という説もあります。そう考えていくと、「働きがい」は、「人のために動く喜びを感じられる」ということだと思います。

自分の持ち味や強みを活かして懸命に働き、お客様に喜んでもらえ感謝されること。仲間とともに失敗を悔しがり、ともに困難を乗り越えて成功を喜び合うこと。その積み重ねが、より善い社会を創ることにつながっていると実感できること。子どもたちに胸を張って誇れる仕事であること……。現代の働く社会に求められているのは、こうした「働きがい」なのです。

もちろん、「働きやすさ」やお金も仕事の不満を減らす一因にはなりますが、満足を高める決定打にはならないのです。確かに、一定レベルまでは「働きやすさ」は必要です。しかし、限度を超えると、働く個人は能力を十分に発揮できないぬるま湯環境に浸り、仕事にマンネリ感を覚え、手ごたえや成長実感を持てず、キャリアは低迷しかねません。

実際、私たちが支援している企業でも、育休明けに負荷の低い仕事を担当することになりモチベーションを下げてしまった女性や、ここ一番というときに早く帰ることを強要されて仕事に打ち込めない物足りなさを感じる中堅層や、ワークライフバランスを当然の権利とする部下に手を焼く管理職が続出しています。

企業経営の視点に立っても、従業員が仕事もそこそこに定時に帰ることを第一とし、給与アップや休暇取得など待遇改善ばかりを求めるようになってしまったら、生産性向上どころか、業績低迷、さらには倒産の危機すら訪れかねません。

例えば、育児など家庭の事情で働き方に制約のある従業員にも遅番や休日勤務などを求めるようになった資生堂では、それまで女性が働きやすい企業というイメージから一転したとして批判を浴び、”資生堂ショック”と呼ばれる社会現象にまでなりました。

また従業員を大切にする経営を評価され公的な表彰を受けた中堅企業の経営者は、こんな本音を漏らしてくれました。

「ES(従業員満足)を高めるために良かれと思って、働きやすい環境を整えてきたが、若手を中心にそれらを当然の権利として、CS(顧客満足)を二の次にしてしまう傾向が出てきている。どうしたものか頭が痛い」

これらは、「働きがい」を軽視し、「働きやすさ」ばかりを底上げしてしまったゆえの悲劇です。「働きやすさ」を追求すると、個人のキャリアも会社もダメになってしまうのです。

「働きがい」は古くて新しい概念です。現代では、どちらかというと、「働きがい」を重視する企業はブラック企業と同様に扱われるきらいすらあります。もちろん不当な就労環境で人を疲弊させるだけの不健全な働きがいを求める企業は論外ですが、個人の満足と成長につながる健全な働きがいこそが、今、企業に求められているのです。

全国津々浦々、大企業から中小企業まで多くの経営者・人事責任者と会うなかで、短期的にはよかれと思った人事施策が、中長期的には現場で働く人たちの働きがいをそいでしまったと実感しています。

また、いったん崩壊してしまった職場を立て直すのは並大抵なことではないことも痛感しています。にも関わらず、相変わらず政府や多くの企業が働きやすさや賃上げばかりに目を向ける現状に強い危機感を持ち、私はこの度『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(KKベストセラーズ)を上梓しました。

本書では、官民あげて、働きやすさばかりを追求することで、個人の権利意識、他責が増幅され、企業経営、社会の発展が行き詰まる近未来に警鐘を鳴らしました。また、私たちが見てきた働きがいあふれるチームへの立て直しの方向性や方法を、事例満載でお話ししています。

「働きやすさ」は、あくまで「働きがい」のための補足でしかないのです。「働きがい」実現のために、「働きやすさ」があるにすぎないという真理に一人でも多くの人に気付いてほしいと考えています。

「働く」ことを常にテーマとして追い続けて、著者デビュー12年目、21冊目の本となります。この小さな一冊が、この国中のあらゆる職場が「働きがいあふれるチーム」に生まれ変わる一助となり、この国の働く未来を健全化させる一助になることを願っています。