総合雇用改革の「牛歩」 大物集めて処方箋探る
「脱時間給」制度や不当解雇の金銭解決といった雇用改革がなかなか前に進まない。そんななか、塩崎恭久厚生労働相が新たな有識者会議を立ち上げ、労働政策の立案から実現に至るプロセスを見直す議論を始めた。「牛歩」と揶揄(やゆ)されてきた厚労省の審議会などのスピードアップが実現すれば、政権が掲げる働き方改革の追い風にもなる。ただ、スピード化を阻む壁を取り払うのは至難の業だ。
新しい有識者会議のメンバーには経団連副会長の中西宏明日立製作所会長や古賀伸明前連合会長、大田弘子元経済財政相らが名を連ねる。厚労相の肝煎りだけあって、厚労省の通常の審議会より一回り「大物」を集めた。
■議論開始から法案成立まで「3ラウンド」
メーンテーマは、改革メニューを法律に反映する作業を担う「労働政策審議会」の刷新だ。まずは「いろいろな働き方をする人たちの声を反映させる」(塩崎厚労相)ため、委員の人選見直しに着手する。
現在の労政審は労使各10人と学者などの公益委員10人の計30人構成だが、連合傘下の正社員中心の組合代表者や大企業の幹部が労使の大半を占める。このため、非正規労働者や高齢者の意見を代弁できる人なども入れて、多様な働き方に対応できるようにする方針だ。
ここまでが有識者会議の表向きのミッションだが、その要綱にはひっそりと「機動的な政策決定を行うことが不可欠だ」と記されている。これこそがもう一つの重要テーマである政策決定のスピードアップだ。
厚労省内の議論は時間や手間がかかることから、長年にわたり、政府の内外から「牛歩」と皮肉られてきた。特に、法改正が伴う重要な労働政策の場合、議論のスタートから関連法案の成立までは「3ラウンド」要するといわれる。「研究会・検討会」→「労政審」→「国会」というステップだ。
2017年から始まる介護休業の分割取得や介護の際の残業免除などの新ルールの場合、議論は14年11月にスタートした。有識者による研究会が論点を整理し、8カ月かけて報告書を作成。次に労政審の下にある雇用均等分科会が3カ月かけて、法案づくりに向けた建議をまとめた。国会審議を経てようやく法案が成立したのは16年3月末。施行はさらに先の17年1月となる。
比較的スムーズに進んだこのケースでも、議論開始から施行までは2年2カ月を要した。労使が対立するテーマでは一段と時間がかかる。裁判で不当と判断された解雇の金銭解決制度の場合、15年10月に検討会が立ち上がったが、議論は膠着して、まだ「第1ラウンド」から抜け出せていない。
■国会・厚労委の見直しも必要

一つの事を決めるのに数年もかけていては時代の変化に対応できないという声は強い。「官邸主導」に軸足を置く竹中平蔵東洋大教授は、かつて産業競争力会議で「労政審を通さないといけないなら、議論は全く前に進まない」と嘆いたことがある。今回の有識者会議の委員の1人も、連合が民進党の支持団体であることを念頭に「労使と与野党が何度も同じケンカをする仕組みだ。労政審が必要かどうかを含めプロセスの合理化が必要」と改革に意欲を見せる。
ただ、厚労省内の交通整理が済めば、それで牛歩から脱せるというわけではない。
時間でなく成果に賃金を払う「脱時間給」制度。国内の経済界から期待が強い同制度の議論は、実は第1ラウンドを省略し、官邸主導で編んだ「日本再興戦略」を労政審が受ける形で議論をスタートさせた。
約9カ月で法案提出にこぎ着けたが、それから約1年半たっても成立していない。労働者派遣法などの他の労働関係法案に審議時間をとられたのに加え、参院選前に野党の強い抵抗を避けたいという与党の思惑も重なった。重要法案を複数抱える国会の厚生労働委員会の見直しも同時に進めなければ、雇用改革のスピードアップは約束されない。
もっとも、足元の厚労省の官僚の間でも「研究会で議論の粗ごなしをして、労政審で本格議論する。それぞれの会議体には意味がある」など、議論プロセスの見直しに懐疑的な声が強い。塩崎厚労相の周辺からは「中途半端な改革案にはしない」との声も漏れるが、長年続く“脱牛歩”への道は容易でない。
