総合イノベーションを起こすための人材採用とリテンション
採用ノウハウは10年かけて培った
会社を設立してから12年目になります。受託型の創薬支援から創薬にビジネスモデルを切り替え、自社で新薬候補の探索から販売を手がける垂直統合型の事業展開を目指す段階へと成長しました。創薬支援、新薬候補の探索、発見した新薬候補の臨床開発、それぞれに異なる才能が求められ、その時々のベストをつくして人材の採用をしてきました。
失敗もあれば成功もありました。会社が求める人材を確保すればすべて良しとはいきませんし、採用される人にとっても才能を発揮できる場でなければいけません。ただ自戒も含めて言えることは、会社の成功も失敗も人材次第であるということです。

例えばシニアポジションの場合には、採用プロセスにかなりの時間をかけます。慎重に優秀な人を採用したつもりでも、採用してから半年、1年経っても能力を発揮できないことも時にはあります。そういった場合はコーチングなどさまざまな改善プログラムを行うのですが、それでも成果につながらなければ話し合いの上やめてもらうこともあります。
その人の能力がいくら優れていても、たまたま我々の職場環境では力を発揮することができなかったことも少なくありません。その人がより良いキャリアを築くためにも、一日も早く新しい環境に移ることは重要ですから、会社としてもそれを応援しなくてはなりません。存分に力を発揮できないと思えば、何らかのやめるきっかけを探し、我々が勧告する前に去る人もいます。それとは逆に、会社としてはもっといてほしいのに、より良い条件の会社に移っていってしまう場合も、もちろんあります。
辞めた社員に「働きやすい職場」と言ってもらえるか
とりわけ重要なのは人材のリテンションです。どうすれば優秀な人材が在籍し続けてくれるのか。優秀な部下が次々とやめていく場合には上司の管理能力に問題がないかどうかに注意を払います。 チームメンバーである部下たちが気持ちよく存分に働ける職場環境をつくることが、私が最も神経を使うところです。
退社した人たちに「あの会社は働きやすい職場だった」と、口コミで広めてもらえることは、終身雇用制がないアメリカでは人材獲得に大変重要です。どんな理由であれ、やめていく社員にはなるべく良い条件で次の職に移れるように出来る限り応援することにしています。そうすることで「キャリアアップにつながる会社」という評判が高まって、前向きで向上心のある優秀な人材がアキュセラを選ぶようになると考えています。もちろん、類似のプログラムで競合他社に行くケースについては採用時の契約である程度制限しているので、ここでの話には当てはまりませんが。
在籍し続けるか否かを早い段階で見極めることが大切だという理由は、前職における会社への貢献や功績が採用の評価に大きく影響するからです。前の会社に長く勤めていたわりにはそれを説明できるほどの実績がなければマイナスになりますし、たとえ勤続期間が短くても、相当の理由があればたまたま職場が合わなかったのだと納得してもらいやすいでしょう。ただ、早々と辞めてしまってばかりいる場合は協調性がないと判断されることもあるので、馴染めなければ辞めれば済むという単純な話ではないことはお察しいただけると思います。
面接時に大笑いする候補者

面接は、採用しようとする人材が話す通りの専門的な能力や知識を本当に備えているのか、あるいは、必要十分な経験を本当に積んでいるのかを慎重に見極めるプロセスです。これと同じくらい慎重に見極めるようにしているのが、会社のカルチャーに合うかどうかです。面接を受けにくる候補者も自分の人生をかけているので、自分に合っている職場なのか、上司や仲間の人柄はいいのかなどを吟味するのと同じようにわれわれも気をつけています。そういった点を考慮していくと、いくらアメリカは人材の流動性が高くて、優秀な人材を確保しやすい環境だといっても、本当に自分たちの会社に合う人材を見つけるのは至難の業なのです。
ここで思い出した面接でのエピソードを1つ紹介したいと思います。会社設立から数年が経ち、面接中に何度も大笑いをする人物に出会いました。私がアメリカの文化に慣れていないからだとしても、面接中に大声で笑うのは不真面目に見えるし、歓迎できないということを、その人物に意を決して伝えたのです。「この会社は自由に笑うことも許されないのか!」と、その人物は怒ってしまったので、もう次の面接には来ないのではないかと思いました。
ところが、彼ははっきり言ってくれて良かった、よいアドバイスだったと感謝してくれたのです。面接を重ね、その人物には入社してもらうことになりました。面接の機会は限られていますから、言いにくいことこそ、その場ではっきり伝えることが結果的にはお互いにとってプラスに働くのだと学んだ出来事でした。今ではもっとも信頼できる古参の社員の一人になりましたし、良い思い出です。
「共通の価値観」と「多様性」のバランス
面接では、専門性や実績のほか、採用する人材のコア・コンピテンシーを評価しています。これが共通の評価項目であり価値観であることを入社前の段階で候補者に理解をしてもらうので、のちのち何かが違うといったズレもうまれません。

会社設立当初、良い人材だと思って即断で採用をしたら、大変な思いをする羽目になったこともあります。同じ失敗をしないように面接期間を長くしたら、長くなりすぎて他社からのオファーを受けてしまうなど然るべきタイミングに採用できなかったこともあります。こういう試行錯誤の末、今のプロセスに落ち着きました。 じっくりと時間をかけて考え抜いたコア・コンピテンシーだからこそ、社員みんなが覚えやすいように社名のアルファベット(ACUCELA)にあてはめるという工夫をしたわけです。
A = Adaptive 適応力
C = Curiosity 好奇心
U = Unique 独創性
C = Collaborative 協調性
E = Excellence エクセレンス(いい加減ではなく、絶えず最高の結果を求める態度)
L = Long-Term 長期的な視点
A = Accountability 高い責任感
毎年、このコア・コンピテンシーを基に人事査定を行い、適応力という点でどういうことをこの一年で実践したのか、どんな新しいことに挑戦して、その結果、何を学んだのかなど、それぞれを何段階かで評価しています。
たとえシニアなポジションの社員でも、その人が何を知っていて、何を新たに学ぶ姿勢でいるのかは必ず聞くことにしています。逆に、自分は経験が豊かで専門的な知識も深いから、どんなことも難なくやり遂げることができると自負する人物は要注意だと考えます。できることと、できないことを認識して、できないことは新たに学ぶことをいとわない、好奇心が旺盛な人材を、我々は求めているからです。
共通の価値観さえ共有できていれば、それ以外は年齢も、性別も、教育の背景などもなるべく多様であるほうが、イノベーションを起こすためには良いと考えています。