イケアが人事改革、パートをみんな正社員に

総合イケアが人事改革、パートをみんな正社員に

育児や介護など家庭の事情で、キャリアが途絶えては個人にとっても会社にとっても損失だ。家具小売り世界最大手イケアの日本法人、イケア・ジャパン(千葉県船橋市)は従業員がライフステージにあわせて働き方を選べるように人事制度を9月に刷新した。パートを原則正社員にしたほか、賃金や人事制度を平等にした。待遇の差をなくし、社員に等しく成長を期待する。

■半年更新が無期限になった雇用期間

9月1日、イケアでは「パート従業員」という単語がなくなった。国内に約3400人いる従業員はそろって「コワーカー(ともに働く人)」という呼び方になった。

 

パート従業員から正社員に変わったことで、接客にも力が入る(千葉県船橋市の店舗)
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パート従業員から正社員に変わったことで、接客にも力が入る(千葉県船橋市の店舗)

新しい人事制度では、従業員の7割にあたる約2400人のパート従業員を「短時間正社員」とし、フルタイムで働く正社員と同じ人事制度や福利厚生を適用する。これまで半年ごとに更新していた雇用期間は無期限になった。

職位や仕事の内容が同じなら、フルタイムの正社員の賃金を時給換算し、同一の賃金幅にした。パートだった従業員は給与水準が上がる。貢献度によっては、フルタイムの正社員のように昇格や昇給のチャンスもある。

「契約期間をなくして安心して長期的な関係を築き、イケアとともに成長してもらいたい。将来社長を目指すことも可能だ」。日本法人トップのピーター・リストは、制度導入の背景をこう話す。

パートだった従業員は、育児や介護など家庭の事情で長時間働けないケースが多い。そこで1週間の勤務時間を12~24時間、25~38時間、39時間(フルタイム)の3つから選べるようにした。さらにパートのように家庭や個人の予定に合わせて、週ごとに勤務時間を柔軟に変えられる制度にした。これなら、子育てが一段落したらフルタイムに伸ばし、介護が必要になったら勤務時間を短くするといった柔軟な働き方ができる。

千葉県船橋市の店舗で2006年の開業当初から働いている栗原佳代は制度変更に伴い、パート従業員から短時間正社員に変わった。担当する売り場は以前と同じだが、時給は3割上がった。「会社がこれだけのことをしてくれるのだから、今まで以上にがんばって仕事で返さないと」と気を引き締める。

8年前にイケアで働き始めたころは子供が幼稚園と小学校に通っている間の週12時間の契約だったが、子供が成長して手がかからなくなったこともあり、今春から週30時間程度に勤務時間を延ばした。「イケアで売っているものをすべて売れるようになるのが目標」として、他の売り場や部署を経験したいという。

イケアが大幅に人事制度を見直したのは、柔軟に働ける仕組みを求める意見が従業員から上がったためだ。2年にわたって制度設計を進めてきた人事本部長の泉川玲香は「どんどん大きな仕事をして上に一直線に昇進していくだけではなく、ライフステージに合わせて勤務時間や仕事の負荷を選べる仕組みを実現したかった」と話す。

 

働き方も柔軟に選べるようになった(東京都立川市の店舗)
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働き方も柔軟に選べるようになった(東京都立川市の店舗)

育児など家族に時間を割く必要がある時は勤務時間を短くし、子どもが自立したらフルタイムに戻す。アクセルを踏んだり緩めたりすることができる仕組みが必要だと考えた。

■世帯収入の壁、会社負担で乗り越える

これまでもイケアは会社の横に保育所を作るなど、社員が働きやすい環境づくりに力を入れてきた。「幅広い年齢の顧客をもてなすには多様性のある集団にして発想を豊かにしなくては」(リスト)という考えのもと、女性管理職比率は4割に達している。人事異動も柔軟で、海外も含めて異動や退職でポストが空いたら公募するシステムがある一方、転勤したくない人はしなくてもいい。「コワーカーが自分自身でキャリア(の選択権)を握っている」(泉川)のがイケア流だ。

今春から従業員に新制度の導入に向けた説明を進めてきたが、現場の反応は様々。フルタイムで働く正社員からパートのみの待遇改善に不満の声はほとんど上がらなかった。

一方で、パート従業員からは「今のままがいい」という意見もあった。収入が増えると配偶者控除が縮小されたり、配偶者の社会保険の扶養から外れて自ら社会保険料を負担する必要があったりして、結果的に世帯収入が減る可能性があるためだ。そこで保険料は半額を会社が払い、自己負担分は給与の上昇分で吸収できるようにした。

全員を正社員にするという前代未聞の取り組みのため、大学生のパート従業員からは「将来就職活動をする時に、新卒扱いにしてもらえるのか?」という不安の声も上がった。全従業員と個別に面談し、こうした質問に答えたり、詳細な条件を説明したりして不安を取り除いてきた。

人件費負担は数億円増えるもようだ。それでも「これはコストではなく投資。従業員が(こうしたシステムを活用して)成長すれば、イケアのビジネスも成長する」(リスト)と話す。

正社員が増えるのを機に、経営側は従業員の雇用を守るためにも事業の成長が求められる。「もし業績が悪化して従業員数を維持できなくなった場合は、社長から順に辞めることになる」(泉川)との覚悟だ。

従業員側にとっても、仕事のパフォーマンスに対する評価などで給与の水準が決まるため、生産性を高めて会社の期待に応えなければならない。泉川は「制度を作るのは簡単だが、従業員の意識は一晩では変わらない。真の効果を引き出すにはこれからが勝負」と話す。