「早く帰れ」が働き方改革とは言えない理由

総合「早く帰れ」が働き方改革とは言えない理由

「働き方改革」が注目を集めている。長時間労働を見直そうと、「残業削減」を前面に打ち出した「働き方改革」を進める企業が増えているが、日々仕事に追われている社員からすれば、戸惑うことも多い。さらに「生産性を上げるように」などと言われても、疲弊感は募るばかりだ。このままでは「百害あって一利なし」である。なぜそこまで「働き方改革」が求められているのか? ダメな「働き方改革」と正しい「働き方改革」の違いを分かつものとは何なのか?

言葉の浸透とは裏腹に
本当の改革は数少ない

昨今では政府の後押しもあって、ビジネス雑誌で特集が組まれたり、セミナーが多数開催されたりするなど、「働き方改革」という言葉は広く世の中に浸透している。2016年9月に始まった「働き方改革実現会議」は、安倍首相が自ら議長を務め、経団連や連合などのトップが参加。初会合の際に、以下の九つのテーマが提示された。

1.同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
2.賃金引上げと労働生産性の向上
3.時間外労働の上限規制のあり方など長時間労働の是正
4.雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定させない教育の問題
5.テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方
6.働き方に中立な社会保障制度・税制など、女性・若者が活躍しやすい環境整備
7.高齢者の就業促進
8.病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立
9.外国人材の受け入れの問題

特に「3.長時間労働の是正」は、昨年、大手企業の新入社員の「過労自殺問題」がマスメディアで大きく取り上げられたこともあり、企業として喫緊に対応しなくてはならないテーマとして大きな注目を集めている。

しかし、「働き方改革」を単に「労働時間短縮」「残業代削減」と捉え、「テレワーク」「AI」などのIT投資へと矮小化しているようではいけない。これらはプロセスであり、ツールである。結果として、企業や働く人が抱える「課題」が解決されなければ、意味がないのだ。

残業がなくなるだけでは
「働き方改革」とは言えない

職場の様子はどのように変わってきたのか。「働き方改革を進める」と宣言しているが、実際は社員に「早く帰るように」と言っているだけ、という企業は少なくない。そのままでは、社員のやる気がダウンし、人材不足や売上ダウンに陥ってしまうことになるだろう。

例えば、「20時に全社で消灯。パソコンは強制終了」というルールを導入している企業がある。毎晩、人事のスタッフが各職場を見回り、「早く帰ってください」と社員に声をかけるが、結局はカフェでサービス残業をしたり、自宅へ仕事を持ち帰ったりする社員が増えているだけ。社員からすれば、やらなくてはならない仕事があるから残業をしているのに、「割増賃金」も付かないならばモチベーションがダウンするばかりだ。

「職務記述書(ジョブディスクリプション)を明確にすることで、無駄な仕事をなくし、残業を禁止する」という対応を取る企業もある。無駄な仕事をなくすのはいいことだが、社員が自分自身の仕事だけをやるようになった結果、周囲との会話がなくなり、コミュニケーションのないギスギスした職場になりかねない。このままでは、チームとして新規提案をしようというチャレンジ精神もなくなっていくだろう。残業がなくなるだけでは、本当の「働き方改革」とは言えない。

「好きで働きたい人は構わない」と例外を認める企業もあるが、例外を認めると、なし崩し的になるのが世の常。特に、古いタイプの上司は遅くまで残って働いている部下を評価しがちだが、実際にそうなれば、他の社員も「長時間労働した方が評価される」と認識するようになる。これでは、ダラダラ残業の頃へと逆戻りだ。このようにダメな「働き方改革」は、「長時間労働是正」ばかりを目的化してしていて、何のために「働き方改革」をするのかを見失っている。

正しい働き方改革は
見せかけでは通用しない

正しい「働き方改革」とは、例えば「社員全員が幸せを感じられる」「多様な社員が、多様な働き方を実現できる」「能力のある人材が押し寄せる会社になる」「絶えずイノベーションを起こす会社になる」など、個々の会社の「ミッション」「ビジョン」を実現するために、経営と社員が本気で取り組む、まさに「経営改革」である。制度・施策に捉われてしまいがちな見せかけの改革ではなく、経営戦略として本気の「働き方改革」の姿を示すことが極めて重要だ。

正しい「働き方改革」へ積極的に取り組んでいる企業では、トップ自らが育児や介護などを実体験したことで働き方を見直すようになった、というケースが多い。強い危機感を覚えた経営者が自らリーダーシップを発揮し、推進に当たっていることも少なくない。「働き方改革」を強力に推進していくには、トップ以下、改革推進部門の「このままでいけない」という意識改革と覚悟が問われるのだ。

「働き方改革」を成功させるには、「グランドデザイン」を描き、それを社内に示していくことが大切だ。そうすることで、社員からの理解と協力を得られるようになる。「働き方改革」のグランドデザインの例を五つ挙げたいと思う。

●トップの明確な方針(指針)

トップが「働き方改革」という抽象的な達成目標に対する明確な方針(指針)を示す。自社特有の課題を組み込み、会社・社員にどのようになってほしいのか、最終的にどのような競争力に結び付けるかなど、具体的に表現に落とし込み、全社員が共感できる方針(指針)を明示する。

●働き方実態の見える化

基本方針(指針)を実現するために、長時間労働や年休取得など、自社の働き方の実態を具体的な数字で把握することによって、組織内で共有・評価を行う。そこから、さまざまな問題点・課題を明らかにする。

●施策検討

働き方の見直し施策を、各職場で検討する。例えば長時間労働の削減のためには、職場内コミュニケーション(報連相)の方法から人事労務制度の改定まで、さまざまな対応が考えられる。これら施策を、各職場に埋没させず、全社的に共有・展開していく。

●体制作り

基本方針(指針)やノウハウ・ツールに関して、職場の垣根を越えて浸透させる機能・役割を担う体制を作る。また、浸透させるだけにとどまらず、各職場の改善支援や指導などに踏み込んで、活動する。

●意識改革

職場に新しい働き方を理解・浸透させ、意識改革を促す。合わせて、改革活動のプロセスと結果を、働き方改革担当部門(人事部門、経営企画部門、専門プロジェクトなど)が適正に評価、フィードバックする。これによって、現場管理職の自律的な改革活動の促進と定着を図る。

次回は、正しい「働き方改革」を推進するためのイメージを持ってもらうために、具体的な事例を紹介する。