総合顧客を感動させるサービスは従業員の「内発的動機」から生まれる マニュアルのないスターバックスは、なぜエンゲージメントを高められるのか(後編)

スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社 人事本部 人事部 部長
学生アルバイトも目標設定を行い、4ヵ月に一度の人事考課でレビュー
―― 顧客のために能動的に行動できるパートナーを、どのように育成しているのでしょうか。
スターバックスでは「OUR MISSION」として、「人々の心を豊かで活力あるものにするために―― ひとりのお客さま、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティーから」と掲げています。さらにそのミッションを達成するための行動指針として「OUR VALUES」を定めています。新しく入社するパートナーには、まずこれらのミッション・バリューに共感してもらえるよう働きかけています。
といっても、ミッションやバリューのすべてに共感する必要はありません。特に採用時点では、「私はミッションやバリューのここが好き」といったように、一部でもいいので共感してもらえればいいと思っています。
まず考えてもらうのが、将来の目標や理想の人物像など、その人が将来なりたい姿。学生アルバイトの方も多いので、必ずしも「スターバックスでどうなりたいか」という目標である必要はありません。たとえば、将来就きたい仕事などをあげる方もいます。それを実現するために、スターバックスでの仕事を通じて何を身につけたいかを考え、「個人の成長目標」を決めていきます。
加えて、パートナーの「パフォーマンスに関する目標」も設定します。スターバックスの各店舗では、ストアマネジャーがミッションとバリューをもとに、「地域でこんな存在になりたい」という思いを込めた店舗ビジョンを掲げています。それを実現するためにはどのような行動をとればいいのかを言語化するのです。
こうして設定した目標のもと、4ヵ月ごとの人事考課の際に、振り返りを行います。
―― アルバイトの学生などに対して、明確な人事考課やレビューを行うのは、他社にはあまりない例ですね。
例えばスターバックスのバリスタは、マルチタスクが求められる大変な仕事です。率直に言って、他に時給の高い、割の良いアルバイトはいくらでもあります。それでも、スターバックスで働きたいと言ってもらえる方が多いのは、上司や同僚からのフィードバックを通じて成長を実感できる機会が多いことがあげられます。学生の頃にこうした経験を積むことで自己理解につながり、就職活動が順調に進む方も多いようです。
スターバックスでアルバイトを経験した学生が、就職活動の際に選考を受けに来てくれることも少なくありません。あるいは、新卒で別の企業に就職しても、第二新卒としてスターバックスに戻って来てくれるケースもあります。こうした方が多いのは、ミッションやバリューに共感して行動し、それを適正に評価される仕組みがあるからだと考えています。
社員だけでなく、アルバイトリーダーも育成担当
―― パートナーの育成にために、店舗での実際の業務にあたる際にも、コーチングやフィードバックを行っているそうですね。

▲五種類のGreen Apron Cardはバリューを
体現した行動をしたパートナーに渡される
たとえば、パートナーの行動がお客さまにとって最善とは思えなかった場合、その行動を「悪い」と言ったり、叱ったりはしません。「お客さまはどう思ったか」「どうすればもっと良かったか」を自分自身で考えられるよう、問いかけを行います。コーチングとフィードバックを繰り返し、一つひとつの行動の意味を理解していくことで、常にどうすればお客さまに喜んでもらえるかを考えられるようになります。こうしたコーチングやフィードバックは、ストアマネジャーだけでなく、アルバイトリーダーやパートナー同士でも行っています。
互いにフィードバックし合うための仕組みづくりも行っています。バリューに沿った素晴らしい行動をしたパートナーは、「Green Apron Card」と呼ばれる5種類のカードにメッセージを書いて手渡されるのです。新人は、このカードをもらうことで、自分のとった行動が賞賛されるものであったと理解でき、バリューを体現するにはどのような行動をとればいいのかがわかります。また、カードをもらう喜びによって、店舗への帰属意識も強くなります。
―― 一般的に飲食業態ではギリギリの人材配置を行っているところも多く、店舗スタッフとじっくり向き合ったり、互いにフィードバックしたりする時間を確保することが難しいことも多いようです。スターバックスではどのような体制でこれを可能にしているのでしょうか。

1店舗あたりの社員数は2名ほど。多くの場合、シフトは早番・中番・遅番の三つに分けられるので、コーチングやフィードバックを社員だけで行うことはできません。手の届かない範囲は、時間帯責任者を務めるアルバイトリーダーに携わってもらっています。その上で、4ヵ月に一度の人事考課をストアマネジャーとアシスタントストアマネジャーで担当するという体制です。
内発的動機を引き出すには、ツールやプログラムも重要ですが、最終的にはやはり「人と人との対話」が鍵になります。こうした「対話」によるマネジメントには、スターバックスでも今後、さらに力を入れていきたいと考えています。
「自分の言葉」でアウトプットしてもらうためのマネジメントスキル
―― 「対話」による動機づけを行うには、マネジメントする側の力量も必要になりますね。
内発的動機を引き出すためのマネジメントスキルを伸ばすことも、欠かせないポイントだと思っています。入社してすぐに自分のビジョンやパフォーマンス目標をすらすら書ける人はいませんから、ロールモデルとなるような人を見てもらったり、参考になる考え方を知ってもらったりしながら対話して、自分の思いから出た言葉を引き出していく必要があります。
「スタバのフラペチーノが好き」と言って応募してくれる人はたくさんいます。もちろん、スターバックスのファンであるということはとても大切なことです。さらにそれをパートナーの仕事に生かしてもらうためには、「なぜ好きなのか」「どうして好きになったのか」といった、「好き」の根っこにある思いを対話で引き出していく必要があります。そうするとやがて自分の言葉としてアウトプットできるようになり、思いが醸成されてきます。
―― 今後、スターバックスとパートナーのつながりをさらに強化するため、どのようなことに取り組んでいきますか。
実は現在、スターバックスでは新しいパフォーマンスマネジメントの仕組みを浸透させようとしています。これも「対話」のアプローチによって、これまで以上に一人ひとりのパートナーとしっかり向き合えるようにすることが目的です。スターバックスには「マニュアル」がほとんどありませんが、職務に見合った行動とは何かを定義している「ガイド」はあります。ただ、これまでの人事考課では、このガイドに沿ってふさわしい行動ができたかできなかったかを振り返ることが多かったのが実状でした。今後は、どのようにミッション&バリューに沿って行動していたのか、というプロセスに重きを置き、それを個人目標とつなげて達成できたのかどうかを対話していきます。あくまでも個人の成長を軸としてパフォーマンスをレビューするという新しい取り組みですが、これが内発的動機付けの強化につながることを期待しています。
―― 従業員のエンゲージメント向上に取り組むには、何が重要だと思われますか。
スターバックスがエンゲージメントを向上させる取り組みを行えるのは、個人の成長を応援する企業文化が浸透しているからです。スターバックスでは、個人が「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」という三つの条件を満たせるようにサポートを行うことが、スターバックスの経営においても非常に重要なことだと考えています。
「自己受容」とは、自分に存在価値があると気づくこと。自分が必要とされていると感じられれば、それがスターバックスにいる理由になります。「他者信頼」は、自分はもっとできるかもしれないと期待し、行動すること。パートナーたちの自発的な行動も、こうした思いから生まれます。最後の「他者貢献」が、自分も周囲の人へ影響を与えたいと思い、行動すること。その行動が、仲間をつくり、変化をもたらし、誰かの一日に幸せを与えます。
こうした「人を大切にしたい」「感情的な絆を大切にしたい」という価値観があるからこそ、一人ひとりのパートナーとの関わりを深め、内発的動機を引き出し、エンゲージメントを高めていくことができるのです。今後は、これをさらに進化させた、スターバックスの企業文化をより強固なものにしていきたいと考えています。
(取材は2017年7月24日、東京・目黒区のスターバックス コーヒー ジャパン本社にて)