総合人材獲得競争時代の生き残り策–ミレニアル世代とどうつきあうか
前回は、AIやロボティクスの登場によりわれわれの働き方の変革が余儀なくされている状況を俯瞰し、SMAC技術の活用を通じた生産性や創造性を高める働き方を紹介した。
今回は、今後、労働力の中核を質と量の双方でけん引していくことが予想される「ミレニアル世代」に着目して、企業の競争力を高める人材マネジメントについて述べたい。
ミレニアル世代とは?
ミレニアル世代は、1982年以降に出生し、現在就労人口の中核を占める世代のことを指す。物心ついた頃にはインターネットが普及しており、モバイルテクノロジやSNSの活用を当たり前のものとして育った世代である。
本年、一世を風靡したPokemon GOも、SMAC(ソーシャル、モバイル、アナリティクス、クラウド)技術を駆使することによって独特な世界観を構築したこともあるが、スマートフォンやタブレットを当たり前のように使いこなすこの世代の特徴をうまく捉えたことが、自然に受け入れられ世界中で爆発的なブームとなった大きな要因ともいえる。余談だが、筆者の1人は、東南アジアに拠点を構えているが、当地におけるPokemon GOの人気は日本をしのぐものがあり、現地メンバーとの会話のきっかけとして抜群に機能している。
デロイト ミレニアル年次調査の結果でみる世代の傾向
このような背景を持つ世代の特性についてデロイトは、彼らの企業や仕事に対する価値観に関する定点観測を「ミレニアルサーベイ」として定期的に行っている。
最新の調査結果をごく簡単にお伝えすると、ミレニアル世代の実に3分の2以上が、2020年までに現在の仕事から離職しているだろうと回答している。10年後に現在の会社に在籍しているだろうと回答したものはわずか16%に過ぎない(図1)。会社に対する忠誠心が低い傾向は、日本でもほぼ同じであり、5年後に離職するだろうと回答した人数は、全体の半数を上回った。

このような、ミレニアル世代の特徴として、会社に対する忠誠心は低い一方で、従業員を中心とした価値観の提供を企業に求めていることが特徴といえそうだ(図2)。

したがって、ミレニアル世代を活用する上では、発想の転換が必要になる。下記は一例だが、大胆な転換が求められることがよくわかる。
ポイント(1)「顧客」のように従業員を捉える
従業員から選ばれる会社をめざし、満足度を向上するために、従業員視点で会社の在り方や従業員へのコミュニケーションの仕方を見直す。
ポイント(2)従業員の自発性を喚起させる
好きな仕事をさせ、挑戦できる環境を構築する。
ポイント(3)やりがいを感じられる処遇制度を整備する
「評価のための評価」でなく、より高い成果を追求する中で、個人の成長を実感でき、納得のいく処遇を得られる制度を構築する。繰り返しになるが、ミレニアル世代を活躍させるためには、いかに従業員と企業が「ともに成長する」関係をつくるかが重要だ。従業員の忠誠心に期待することができない以上、企業で気持ちよく活躍してもらうための環境づくりが鍵になるといえる。
ミレニアル世代に対応した新しい人材マネジメントのあり方–パフォーマンスマネジメントの潮流
このようなミレニアル世代を活用していくために重要となるのが、彼らが成長実感を得られるような環境・仕組みを作りである。
これまでのパフォーマンスマネジメント(いわゆる人事評価のこと)というと、昇給・昇格を判断するためにレーティングによって評点・序列付けすることが主目的であり、従業員の成長のための制度とは言い難かった。しかし、近年、特に欧米系のグローバル先進企業を中心にパフォーマンスマネジメントの様相に変化が生じている。
その代表格がGEの方針の転換であろう。GEは、「従来の仕組みでは、部下と前年の振り返りをし、レーティングを決定するまでの1~3月の間は上司と部下の対話量は増えるが、その他の期間は減る。これを平準化し、年中、オンタイムでコミュニケーションを取る方が明らかに社員を成長させる」として、近年、上司・部下の頻繁なコミュニケーションを元に昇格・昇給を決定するPerformance Developmentの仕組みを導入した。
上司と部下の対話量を増やし、目標設定からフィードバックまでのサイクルを早めることで、各従業員の成長を促すことが狙いである。
ミレニアル世代の特徴で見たように、近年のパフォーマンスマネジメントでは、より短サイクル・継続的なフィードバック、そしてデータに基づく評価(評価者のさじ加減による評価からの脱却)が重視されている(図3)。

デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)でも同様に、これまで膨大な時間と労力を投入して行ってきたパフォーマンスマネジメントを改め、GEと同様、コミュニケーションを中心とした仕組みに移行した。従来の評価に投入されるエネルギーに比して、人材育成という得ることのできるはずの対価が、あまりにも少なかったのがその理由だ。
「チェックイン」~フィードバックの高速化
パフォーマンスマネジメントの見直しの、目玉の取り組みの1つが「チェックイン」だ。チェックインは、パフォーマンスに関する上司・部下の頻繁なコミュニケーションを指す(図4)。

チェックインの狙いは、週あるいは隔週単位で、その期間の部下の良かった点・改善が必要な点について、「成長」にフォーカスして高い頻度で、お互いに話し合うことで、実際の業務のスピード感に合わせた、育成の加速化を実現することにある。
従来の年に1回~数回あるかないか、それも評価結果を伝えることに終始しがちな形式的なフィードバック面談では得られなかった「成長実感」を、この仕組みで従業員一人ひとりが感じられるようになることを目指している。
「パフォーマンスマネジメント」をアプリで実現
画面にログインするのが手間、保存に時間がかかる、書くことが多いうえに難しい。いわゆる従来型の「評価制度」を前提とする人事システムに、多くの方が一度はこのような感想を持ったことがあるのではなかろうか。新しいパフォーマンスマネジメントには、よりアクセスしやすく、より手軽にコミュニケーションをとれるようなシステムが重要であり、そこで注目を集めているのがスマートフォン上で操作から入力までを完結できるアプリである。
DTCは、クライアント先への常駐の多いコンサルタントの仕事の仕方を踏まえ、いつでもどこでもクイックにチェックインができるように、スマートフォンアプリを開発。自社内の実験活動に着手している(図5)。

このアプリは、ユーザーに気軽にチェックインに取り組んでもらえるように、人事システムにありがちの「固さ」を取り除き、ユーザー目線に立脚した使い勝手とデザインを採用している。日本では馴染みの薄いチェックインを、アプリを入り口に浸透させることが目的だ。
このアプリを介してチェックインで交わされるフィードバックのデータを蓄積、従業員の実際の成長との因果関係を分析することで「良いフィードバック」の抽出が可能となる。
また、チェックインを切り口に、退職や健康といった人事データと絡めて分析することで、リテンションやワークスタイルの施策につなげることも期待できる。例えば近年、一部の先進企業で従業員の年代や階層、報酬や過去の評価・異動歴や労働時間といった様々なデータを分析して休職や退職リスクを分析する手法への注目が高まっているが、チェックインを通じて従業員から得られる鮮度・頻度の高い情報は、分析の精度を大いに高めることが見込まれている。
「チェックイン」のような新しい仕組みを入れる際には現場の抵抗を招くことが多いが、アプリの手軽さやシンプルさはユーザーとしての興味を惹き、抵抗を和らげることにも一役買う。シンプルさは、同時に現場の既存の取組みとの融合を図りやすくする面もある。
OJTとしてのさまざまなコミュニケーションの一部をアプリ上で促すことができれば、高い頻度での育成コミュニケーションとその内容のデータ化が実現する。それはまさに、パフォーマンスマネジメントの目指すべき姿のひとつである。
結び
ミレニアル世代の登場により、企業の人材施策は大きく変わりつつある。「雇う」・「雇われる」関係から、よりフラットに企業と従業員が高めあえる関係をお互いに模索し、取り組む機会を作り続けることが求められる。次号以降は、実際にSMAC技術を活用して人事機能の高度化を図ろうとしている企業や、その実現を支援している企業の取り組みを紹介したい。