総合広がる人手不足 トヨタでさえ足りない(ルポ迫真)
「仕事は持久力がいりますが寮は無料。特別手当が10万円出ますし、社員への登用制度もあります」。トヨタ自動車が愛知県内で今月開いた期間従業員の選考会。担当者は20代の男性に待遇などを説いた。「繰り返し作業はつらいかも。でも給与は魅力的だ」。友人に誘われたという男性は満足げに会場を後にした。
「現場ですぐに働ける社員を5人派遣していただきたい」。4月、愛知県の中堅部品会社にトヨタから手紙が届いた。自社とグループの工場で働く人の応援派遣要請だ。「採用で圧倒的に強いトヨタでさえ足りないのか。うちに出せる余裕はとてもない」(同社役員)と、5月の回答期限直前に断りの連絡を入れた。
トヨタの部品会社への派遣要請は約10年ぶり。全体で2千人の人員確保の計画が示されていた。消費増税後の需要が想像以上に強いことが背景にある。4月の1日当たり国内生産は約1万2千台の年初計画に対し実績は1万3400台に上振れ。通常は期間従業員の増員や工場間の人の融通で対応するが、あるトヨタ幹部は「他産業との採用競争が激しく、人繰りは厳しい」と打ち明ける。
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物流需要の拡大にわくトラック業界は厚遇を競う。7月2日までの入職者限定、合計17万円支給――。いすゞ自動車の従業員募集サイトにこんな文字が躍る。月給ではない。仕事に就いてくれた人への手当てだ。3カ月の勤務で21万円の「慰労金」までつく。
2009年度に106万台まで減ったトラック生産は13年度、133万台強に回復。だが一段の増産には人手が足りず、日野自動車は期間従業員の日給を6月から9500~1万円と500円上げた。
景気回復を映し、4月の有効求人倍率(季節調整値)は1.08倍と17カ月連続で改善、06年7月以来の水準となった。中でも新規求人数(原数値)で製造業は前年同月比23.2%増と伸びが目立ち、人手不足の印象の強い建設業、飲食店の10%前後を上回る。
「こんなに求職者は集まらない」。スタッフサービス・ホールディングス子会社で製造業務派遣のテクノ・サービス(東京・千代田)の担当者はこぼす。14年1~3月期の求人数は前年同期比26%増。自動車から電機、住宅資材まで幅広く派遣要請が舞い込み「中小企業から再開の申し出も多い」。人手不足の玉突きがものづくりに広がり、上向いてきた企業活動の制約になりかねない。
航空機産業では人材の確保・育成に企業の壁を越えて取り組む議論が始まった。三菱重工業や川崎重工業、富士重工業などが参加し名古屋市で2月25日開いた「航空機産業支援機能高度化委員会」。中部航空宇宙産業技術センター専務理事の松岡隆(64)は「各工程の基本技術だけでも統一できれば応用しやすい。人材の流動化につながるのでは」と議論の要点を説明する。
各社は米ボーイング787の増産や国産小型ジェット機「MRJ」の実機生産を控え活況だが、集積する中部地区は「自動車産業などと比べ担い手を確保しにくい」(三菱重工)。委員会では各社で異なる基礎技能の標準化などについて意見を交換。繁閑に応じ人が企業を移りやすい仕組みづくりを視野にいれる。
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福島県新地町。金属研磨加工の相馬ブレードの仮設工場では、従業員が航空機エンジンに使う部品を黙々と削りこむ。IHIの相馬事業所(同県相馬市)向けだ。
旅客機の需要増で受注量は震災前の2.5倍になり、22人だった従業員は37人に増えた。だがパート従業員の定着率は悪い。近隣のファミリーレストランの時給1200円に対し、同社は850円。会長の藤田修(67)は「せっかく技術を教えても積み木が崩れるように他へ簡単に流れてしまう」と嘆く。ものづくりの基盤が揺らぐ。
大手牛丼チェーンの人手不足による店舗の一時閉鎖が注目を集めた外食では、完全閉店に踏み込む企業も出始めた。東京・秋葉原駅周辺。会社員らでにぎわった大手居酒屋が6月にかけ相次いで閉まる。「和民」秋葉原昭和通駅前店と「庄や」秋葉原東口店だ。
1店当たり従業員を増やすためワタミは今年度60店の閉鎖を計画、秋葉原もその一つだ。ワタミ社長の桑原豊(56)は「働き手も集めにくい店舗が大量にあっても、成長できない」と話す。
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人手不足は地域や業種を超えて広がり始めた。何が起き、企業はどう対処しようとしているのか。(敬称略)
