総合社員を「単身赴任」させるのは人事部の怠慢だ 八木洋介LIXIL副社長が語るワーク・ルールズ
世界20言語・地域で発売され、日本でも話題作となっている『ワーク・ルールズ!』。グーグル社の人事トップ(上級副社長)であるラズロ・ボック氏が同社の人事労務制度や採用基準、働き方に関する文化、メンタリティに至るまで余すところなく著し、ベストセラーになっています。
『ワーク・ルールズ!』でアイデアコンテスト
――『ワーク・ルールズ!』をもとに、LIXILの人事でアイデアコンテンストが行われたようですね。
そうなのです。たまたま『ワーク・ルールズ!』が発売されたばかりのときに拝読しましたが、これは「人事全員に読んでもらいたい」と強く思いまして。そこで、LIXILの人事部門全員分ということで250冊ほど購入して、配布したのです。
――すごい数ですね。なぜ、この本にひかれたのでしょうか?
『ワーク・ルールズ!』は、これまでの人事とはまったく違った柔軟な考え方で、現状を変えていく様子が書かれています。そのなかで、「人事の仕事は人の管理ではない」と言っていることが、まず印象的でした。
今、世界中の人事は、人を管理する「ヒューマンリソース・マネジメント」ではなく、人の活力を活かしていく「オーガニゼーショナル・デベロップメント」へ動いています。しかし日本の人事は、相変わらず管理志向のままです。
たとえば、キャリアひとつを取ってみても、本人の自由はなく、ほとんど会社が決めています。だから、日本は単身赴任が多い。「日本人は単身赴任が好きなのか?」と言ったら、そんなわけはない。会社が動けと言うから、単身赴任になっている。
これでは、やる気は出ません。キャリアのオーナーは自分自身であるべきで、人事は「社員のやる気」を引き出さなければなりません。
この本には、「やる気を引き出すノウハウ」がいっぱい詰まっています。250人の人事がこれを読むことで、「言われたことをやる人事ではなく、考えて、提案をして、前に向かっていく人事」になってほしかったのです。
――それが皆さんに配布されたきっかけなのですね。
そうです。ただ、読んでもらうだけではなく、実践に活かしてほしい。そういった背景から『ワーク・ルールズ!』を読んで学んだことを会社に結びつけて、アイデアを提案してもらうことを発案したのです。
これは変な言い方ですが、この本を会社で読む人はいなかったのです。アイデアの提案書を書くのは業務の一環だから、業務時間中にやって構わないのですが、みんな家に帰ってとか通勤を利用して本を読んだ。勉強しようという意欲が、この本によって起こったようにも感じました。
しかも、読み物としても面白いので、読書の面白さを感じたり、読んだことを自分の会社に結びつけて提案することが楽しい、と多くの人たちが感じてくれたのでないかと思います。
社内コンテストで考えるきっかけを作る
――アイデアコンテストでは、具体的にどのようなアイデアを募集したのでしょうか?
この本をもとにしながら、人事として「やったほうが良いこと(10個以上)」と「やめるべきこと(5個以上)」を考えて提案してもらいました。
集計すると、合計で4000近くにもなりました。たとえば、社員の良いことを内部報告して、称賛や感謝を伝える制度や、失敗を恐れずに失敗から学ぶための「失敗アワード」などのアイデアが出ました。
入社数年の若手社員が主導して事務局を作ってアイデアを回収し、選考会を何度も行いました。そして、50個まで絞った段階で全体投票を行い、10個から最終選考で金・銀・銅の賞を表彰しました。
半分遊び心を持ちながら勉強してほしいと思ったので、コンテストの1等は、プラチナ賞ということで、バルセロナ旅行にしました。ちょうどLIXIL人事トップのグローバル会議があるので、そこで発表してもらい、ついでに家族も連れて、観光もしてもらえたら、と考えました。そうしたら、かなりモチベーションを上げてくれたようです(笑)。
正直なところ、出てきたアイデアに奇抜なものやアッと驚くものは、そんなにはなかったように思います。ただ、私は一生懸命読んで考えてくれた社員の気持ちがうれしいですし、非常に大きな人事の学びであり、変革のワンステップに役立ちました。
ここで出てきたアイデアをもとに、どう具体化させ、実践していくべきか。日程を決めて、できることから始めようと思っています。
――課題図書を指定して読んでもらったり、研修をしたりするのは、いろんな企業でよく聞きますが、こうした半分イベント感覚で本を読んでもらうという試みは、LIXILではよくなさっているのでしょうか?
いや、本を読んできてもらってコンテストというのは、今回が初めてです。また良い本があれば、企画してみたいとは思っています。費用といっても、『ワーク・ルールズ!』が1部2000円として、250冊で50万円です。研修などと比べても、非常にリーズナブルに社員が学ぶ機会を作れたと自負しています。
――ほかにも何か、こうした社内の声を吸い上げるイベントを開催しているのでしょうか?
数年前ですが、グローバル化を考える論文コンテストを行いました。私たちがグローバル化を考えるときに、ただ単にトップがメッセージを伝えるのではなく、自分が何を考えているかを自分で手を挙げてもらうことは大事だと思いました。
というのも、私がLIXILに移ってきたときに、「待ちの姿勢が多いなぁ」と思ったのです。特にグローバル化に関しては、英語を話せる人もあまりいないし、ずっとドメスティックでやってきた。
ご存じのように、LIXILがどんどんグローバル化していくタイミングでした。私が入社した2012年は、LIXILグループの約1兆3000億円の売り上げのうち、海外は約500億円ぐらいでした。今はそれが約5600億円にまで拡大しています。
そんなときに、みんなに「自分にとってのグローバル化とは何だろう?」ということを考えてもらおう、と企画したのです。結果的に400人ほどの応募があり、すばらしい論文が多く集まりました。
イベントで社員を刺激する
――ほかにも、社員参加型の面白そうなイベントをされているのですか?
たとえば、会社でいま何が起こっていて、どこの方向に向かっているのかということを、3カ月に1回、すべてのマネージャーがすべての部下に対して語る「LIXILよくしる」ミーティングを部署ごとに行っています。
それと、展示会の会場を活用した「Look and Talk」というイベントも開催しました。商品の展示会は、通常朝から夕方5時くらいまでですが、何千人と集まれる会場を24時間借りているのに5時に終わっている。この空き時間を有効活用しようと。
「Look and Talk」のLookは、社員の人たちに自分たちが作った商品、デザインした商品がどんなふうにお客様に伝えられているのかを見てもらうもの。実際にお客様に商品を紹介している人たちが、社員に対して同じ説明をしていくような形にしました。現場を自身の目で見られるわけです。
その後に社長以下トップが全員集まって、どんな質問にも答えるタウンホール・ミーティングが「Talk」です。最初はみんなおっかなびっくりなんですが、パッと手を挙げて、たとえば、社長兼CEOだった藤森義明(現・相談役)にもいろいろなことを聞くわけです。
「うちの会社は商品をたくさん作っていますが、社長はどれが一番好きですか?」とか。藤森は「タイルが一番好きなんだけど、もう少し儲けてほしいんだよなぁ」「やっぱり儲けてくれないと、いくらオレが好きだと言ってもダメなんだよね」と、そこにメッセージを入れて対話をします。
私は、質問してくれた人にLIXILのタオルを「ありがとう」と言って、首にかけて握手をする。そういうことをやることで、「発言していいんだ」「意見をいっていいんだ」「自分がこの会社を良くしていくんだ」という気持ちになってほしかったのです。
それから、「家族参観日」を設けて、ご家族に社員が頑張っているところを見てもらい、○○さんはどんなに大切な仕事をしているのか、私たちがご家族にお伝えする、という行事もあります。こういうのはブランド化することが大切なので、ネーミングにはこだわっています。
こういった施策は全部、「キャリアは自分のものと思ってほしい」とか「もっと個人を刺激することで成長してほしい」という考えに基づいています。そして、「あなたたちがこの会社のことを好きなら、皆さん自身でこの会社を変えればいい」というメッセージにつながっています。