アトラエが新規上場 これからどうなる?

総合アトラエが新規上場 これからどうなる?

今回の記事は、公認会計士 眞山 徳人氏により寄稿いただきました。
眞山氏は公認会計士として各種コンサルティング業務を行う傍ら、書籍やコラム等を通じ、会計やビジネスの世界を分かりやすく紐解いて解説することを信条とした活動をされています。 眞山氏の著書、「江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本」では、難解な会計の世界を分かりやすく解説しています。

2016年5月13日、アトラエの上場が承認されました。上場日は2016年6月15日。
今回は、そもそも「上場」とは何なのか?というところの説明をしながら、新たに上場企業の仲間入りを果たしたアトラエの事業を数字の面から分析してみたいと思います。

そもそも、上場とは?

上場という言葉の意味を考えるときに避けて通れないのが「株式会社」の仕組みです。
株式会社の特徴は、事業に必要なお金の集め方にあります。株式会社では、いろいろな人から資金を集め、その代わりに、資金を提供した人が部分的にその会社の所有者になることができるわけです。

「いろいろな人」と書きましたが、実際には日本の株式会社のほとんどは、家族や友人などでお金を出し合うことで立ち上げられています。
しかし、それではなかなか企業が大きくなることはできません。大きな設備を導入したり、あるいはたくさんの人を雇ったりして事業を拡大するためには、世の中のたくさんの人からお金を集めることが必要になってきます。

しかし、「さあ、皆さん!うちの株、買っていってよ」と言っても、見ず知らずの人が素性の分からない会社の株を買うとは考えにくい。
そこで、会社の行っているビジネスにどのような特長があり、どのような将来性があるのかや、その会社の仕組みがどのくらい整っているか・・・など、様々な観点から第三者がチェックを行い、「この会社なら株を買っても大丈夫ですよ」というお墨付きを与えることが必要になります。

大雑把に言えばこれが「上場」。お墨付きを与えるのは、実際にその会社の株式の売買を仲介することになる証券会社と、決算数値などを外部からチェックする役割を担っている監査法人です。

上場に当たって提出される書類の一つ「Ⅰの部」

上場している会社は、今では四半期(=3か月)ごとに決算数値を外部に公表しています。
実は、新規に上場する会社は、上場会社とほぼ同等の資料を取りまとめて、証券取引所に提出しています。それが「新規上場申請のための有価証券報告書」、通称「Ⅰの部」と言います。

今回上場するアトラエも、もちろんこのⅠの部を作成、提出しています。それによると、最近5か年の決算数値はこのようになっています。

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売上高はまさに右肩上がりになっていますが、これこそが新規上場を果たせるようなベンチャー企業の財務数値の特徴です。

市場にとって新しいアイテムであったり、今までほったらかしにされていたニーズに応えるサービスを提供する会社が急成長し、一気に上場を果たすという動きは、特にIT業界に非常に多くなっています。
IT業界は実物を作って売る業種と比べて、大量生産や大量販売がしやすいため、あっという間に売り上げが大きくなる可能性を秘めているためです。

確かに、アトラエの「過去の」決算数値を見ると、右肩上がりで目覚ましい成長を遂げているように見えますが、だからと言って、次の年度以降も同じようなトレンドで売り上げが伸び続けるのか?というと、そうとは限らないですよね。未来のことは、まだ誰にでもわからないのです。

では、アトラエは今までの企業と何が違うのか

未来のことを確実に予測することは不可能でも、ある程度の予想を立てることは、可能ではあります。

アトラエの行っているサービスに「賞味期限」がある場合、アトラエが何か新しいビジネスを見つけ出さない限りは、今まで以上の売り上げを計上することは難しいでしょう。

例えば、建築業界に人材を派遣することを専門にしている会社があるとします。その会社にとって、最も深刻な賞味期限といえば、2020年開催予定の東京五輪でしょう。五輪が始まるまでは、たくさんの建築需要が生じます。現に、競技場や鉄道、ホテルや観光施設など、実にいろいろな場所で五輪に間に合わせるための建築工事が始まっています。だからこのような業界では、いま業績は右肩上がりなのですが・・・2020年を過ぎるとどうなるでしょうか?想像できますよね。

このような賞味期限切れを起こさないために考えられる方法は、2つあります。

・そもそも、賞味期限がすぐに訪れないようなビジネスを行うこと
・賞味期限が切れる前に、新しいビジネスを育てて大きくしておくこと。

究極的には、賞味期限が永遠に来ないビジネスは「ない」と言っていいでしょう。だからこそ、上記の2つの方法は、常に組み合わせで考える必要があります。

では、アトラエが提供しているサービスの賞味期限はどのように判断できるのか。そして、新しいビジネスを育てる余力をアトラエは有しているのか?先ほど紹介したⅠの部の「事業の内容」を見てみると、いろいろなことが分かります。
そもそも、いまアトラエが行っているサービスはどのようなものなのでしょうか。

(1) 成功報酬型求人メディアGreen 当社の主力サービスである成功報酬型求人メディアGreenは、ビッグデータ解析等のテクノロジーを駆使することによって、求職者と求人企業の最適なマッチングを実現するプラットフォームです。

…ということで、アトラエの主力事業は、求人メディアにあることが分かります。このような事業を行っている会社はほかにもたくさんあるということは、今までの記事をご覧になった方ならよくご存知だろうと思いますが、Greenのサービスには、どうやら他社とは異なる特徴があるようです。
Ⅰの部を見ると、

・成功報酬型のビジネスモデルであること
・ビッグデータを活用していること
・IT、Web業界をターゲットとしていること

この3つを特徴として掲げています。
成功報酬型のビジネスモデルは確かに新しいものです。
一般的には求人広告は一定額の広告費を支払うことになっていますが、アトラエではそれを成功報酬型、つまり人材を得られたときに支払ってもらおうというビジネスモデルを作っています(初期設定費がまったくかからないわけではないですが)。

また、ビッグデータの活用などはまさに時流をとらえたものです。膨大なデータをもとに、求職者にとって最適な求人情報をリコメンドしてあげることによって、効率的に人と企業をつないであげることができます。

このようなビジネスを、主にIT・Web業界で展開することにより、他社とは異なる価値を提供できる素地が、アトラエにはある、と言えます。

しかし一方で、ビッグデータなどの技術に立脚したサービスは、それだけで「賞味期限」が短いのでは?という印象を与える可能性もあります。
次々と現れる新技術は、既存の技術を相対的に陳腐化させていってしまいます。

というわけで、アトラエも他社と同様に、賞味期限がやってくる前に次々と新しいビジネスを生み出していく必要があるのですが…実はそれも、Ⅰの部にしっかり記載があるのです。それが、この2つ。

タレントマイニングサービス「TalentBase」

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ビジネスパーソンのプロフィールやアクションデータをデータベースとして保有するもの。これがあることにより、求人企業が「こんな人がいないかなぁ」と思ったら、求人票を出すことなく、直接条件に該当する人にアプローチをかけることができるようになる。

ビジネスパーソンのマッチングサービス「yenta」

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上記のデータベースを活用し、個人と個人をつなぐサービスとしてスマホアプリを提供している。毎日昼の12時になると、AIが10人の登録者のプロフィールを紹介してくれる(自分のプロフィールも、他の誰かに届いている)。
そのプロフィールを見て「興味あり」「興味なし」とスワイプするだけで、お互いに興味を持ったビジネスパーソン同士をマッチングして、メッセージのやりとりを経てランチタイムなどを利用した情報交換などの交流をすることができる。

下線を引いたところに注目すると、アトラエの新規事業はすでに、既存企業の賞味期限を克服できるファクターを十分に備えていることがうかがえます。
ここまで右肩上がりで推移している業績も、当面のGreenのサービスと、新たに育ちつつある2つの新規事業が組み合わさることで、より安定した推移を見せてくる可能性は、確かに十分高いでしょう。

今回上場が承認され、今まで以上に資金調達をしやすくなるアトラエ。今後さらに新しいサービスが次々と現れてくるかもしれません。楽しみにしたいと思います。