総合地方と東京の「就活格差」の現実とは? 地方のミカタ 岩本洋樹 代表に聞く
新卒の就職活動は、毎年ニュースになるほど苛烈。しかし、その就職活動においても、大都市圏と地方ではかなりの温度差があるようだ。特に企業の本社が多く、情報収集も容易な東京では、学生同士が激しい争いを繰り広げている。そこへ地方の学生が参入していくには、距離や時間、費用など、多くのハードルを乗り越えなければならない。こうした就職活動の格差を減らし、地方の優秀な人材と東京の企業を結ぶ支援をしているのが「地方のミカタ」だ。代表取締役をつとめる岩本 洋樹氏に話を聞いた。
地方のミカタの代表取締役をつとめる岩本氏が地方学生の就職活動支援を始めたきっかけは、自身の就職活動で感じた大変さだった。当時京都の大学院生だった岩本氏は、就職活動のために東京と京都を往復する生活をしていた。格安の夜行バスなどを使っても、就職活動に本気になればなるほど交通費や滞在費はかさんでいく。
「周囲を見てみると、同じように悩んでいる学生が多くいました。そこで2012年末に学生団体を立ち上げて、都内にシェアハウスを開設したのです。そこで地方から来る就活生のサポートを始めたのですが、次第にそちらにのめりこんでしまって……。結局大学院も就職活動もやめて、就活生のサポートに専念することにしました」(岩本氏)
なんだか本末転倒なようだが、実際に自身で課題を感じたからこそ強い意志をもって取り組もうと考えたのだろう。その後シェアハウスを増やし、2014年5月には法人化、同年6月に「地方のミカタ」へと社名変更をしている。滞在だけではなく、より幅広いサポートを提供していきたいという思いを込めた社名だという。
これまでシェアハウスの運営を中心としてきた地方のミカタだが、2016年に入ってからその活動範囲を次々に広げている。そのひとつが東京新宿駅近くにある「地方のミカタ 就活カフェ」のオープンだ。
多くの就活生が交通費を抑えるために夜行バスを多用する。使ったことがある方はご存知と思うが、これらのバスは早朝に東京に到着するよう運行されている。
ビジネスマンならそのまま出勤すればいいが、就活生にはその時間の居場所がない。到着して周囲を見回しても24時間営業のファストフード店かコンビニしか営業しておらず、地の利のない就活生にとっては荷物をおいて休む場所を探すのさえ困難なのが実態だ。
「夜行バスで新宿に到着した就活生に、休める場所を提供したい。そのために開いたのが就活カフェです。夜行バスの到着時間に合わせて営業時間は朝6時から23時まで。利用料金は1回100円で、コーヒーとライスはお代わり自由です」(岩本氏)
カフェでは、無料のWi-Fiが使え、全席に電源を完備。荷物を預けて自由に出入りすることができる。仮に日帰りなら、夜行バスで朝、新宿に着いて、就活カフェで荷物を預けてご飯を食べ、日中は企業説明会や面接、帰りの夜行バスの時間まで就活中の仲間と情報交換をしながらコーヒーを飲んで過ごせるというわけだ。
これで1日100円とは、就活生がうらやましくなる価格設定である。オープンした2月には盛大なセレモニーも開催された。
春が訪れこれから就活を始める就活生が、先輩と情報交換できるイベント「地方のミカタ 超入社式」も催された。2016年卒の新社会人と就活を本格化させつつある2017年卒の就活生が参加し、地方就活生として工夫したポイントなど現実的な情報交換を行なっていた。
2016年になって地方のミカタが取り組み始めたもうひとつのプロジェクトが、Webサービス「地方のミカタ キャリア」だ。就活生向けのWebサービスは既に多数あるが、地方就活に特化したダイレクトリクルーティングサービスは地方のミカタ キャリアの他にない。こちらも2月にリリースされている。
「地方にいながら東京の企業にエントリでき、Webで事前の説明会を受講できるようにしています。東京に行く回数と滞在時間を最小限にすることで、地方就活生の負担をできるだけ小さくしたいと考えています」(岩本氏)
地方のミカタは、これまでも格安でシェアハウスを運営してきた。今後はカフェなど、さらに多くの選択肢を就活生に提供できる存在になりたいと岩本氏は語る。しかしそのためには、企業の協力が欠かせない。地方のミカタが、企業に与えるメリットとはいったいどこにあるのだろうか。
「東京の大学生は早くから情報収集を始め、数十から百を超える企業にエントリして就活に取り組んでいます。この中から優秀な学生を自社で採用するのは、企業にとっても至難の業なのです。それなら地方から優秀な学生を採用したほうがいいと考える企業は少なくありません。そうした企業と地方就活生のマッチングをビジネス化し、そこで得た利益を就活生に還元していくことを目指しています」(岩本氏)
企業は地方のミカタ キャリアに登録することで、地方在住の就活生とつながることができる。しかも、地方のミカタのサービスを見つけ、積極的に東京に出てこようという意識の高い学生とつながることができるため、東京で数多くの就活生を相手に説明会を開くよりも効率がいいのだという。先述の超入社式に設けられていた企業ブースで話をうかがったところ、次のような話を聞くことができた。
「地方にも優秀な学生はいますが、こちらから全国各地にアプローチするのは現実的ではありません。こうしたサービスを利用すれば、ある程度フィルタリングされた意識の高い学生と出会えるし、東京の学生に比べてエントリする社数も少ないので、内定を反故にされることもほとんどありません」(企業採用担当者)
岩本氏の言葉を借りるなら、「東京の就活市場は既にレッドオーシャン化しており、地方に広がるブルーオーシャンに目を向けるべき」ときが来ている。そのことに、採用担当者も気づき、地方からの就活生に目を向け始めている。
岩本氏の話を聞いていて終始気になったのは、地方のミカタは「だれのミカタなのだろうか」という疑問だ。地方の優秀な学生が東京の有名企業や有望なベンチャー企業とつながることができれば、その学生のミカタになれることには違いない。優秀な学生を採用できた企業のミカタでもあるだろう。
しかし、優秀な人材を東京に集中させるのは地方の衰退を招くのではないか。それが昨今の地方創生の流れに逆行するように感じ、同社の取り組みはあくまで「地方就活生」のミカタであり、「地方」のミカタではないのではないかという思いが頭から離れなかった。ところが、地方のミカタ 超入社式を取材する中で、複数の学生から次のような話を聞いて考えを改めた。
「就活で東京に出てくるだけでも、地元とのスピード感の違いなどを感じます。東京で就職できれば、地元企業で働くよりも多くのことを早く吸収できると期待しています。でも、いつかは地元に帰りたいですね。地元にはないものを東京で吸収して、地元のために役立つような人間になりたいと思っています」(超入社式参加者)
地方の活性化には、外から見る目が欠かせない。その広い視野を養うためにも、一度東京に出ることは大きな意義があるのだろう。可愛い子には旅をさせよのことわざにあるように、広い世の中を知り多くの経験をすることが、人間の成長には必要だ。
地方のミカタを通じて東京で就職した人材の中から、地方を興す人材が生まれる日も来るかもしれない。そう考えてみれば、優秀な人材を埋もれさせることなくその能力を開花させるチャンスを与えてくれるこれらの取り組みは、やはり「地方のミカタ」なのだ。