総合人が日本一集まる街・福岡の「タグ付け」戦法 原点は反骨心、高島市長の”異色”地方自治
014年に国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」に指定され、開業率が政令市でトップを誇る福岡市。現在、人口増加数・増加率ともに政令市でナンバーワンという勢いのある福岡市を率いるのが、高島宗一郎市長(41)だ。エネルギッシュな語り口で、市政から自身の思いまで本音を語ってくれた。
「今に見ていろ」という反骨心が原動力に
――つい先日、福岡は日本で人口が5番目に多い政令指定都市になったと発表されました。しかも若年層が増えている。勢いを感じます。
昨年10月に実施された国勢調査の速報ですね。この5年間に7万5000人増え、153万8500人になりました。それ以降も増え続けています。これだけの方に「定住の地」として選んでいただけるのは大変喜ばしく、これから九州や日本に対して福岡市が果たしていくべき役割を考えると、身が引き締まる思いです。
――“福岡の朝の顔”として情報番組のキャスターを務めていた高島さん。36歳で当選されたときは、若い市長として話題になりました。
2010年の市長選には8人が乱立していました。現職市長もいる中で、市民は行政経験ゼロの私を選んでくださった。これぞ、まさに福岡がイノベ-ティブな街という一つの象徴だと思います。
――就任当時は、かなり苦労されたのでは?
実は、かなり悔しい思いを抱えていました。当選はしたものの、地元経済界をはじめ多くの方々に「あんな若い奴に市長なんてできるわけがない。しかもキャスター上がりに政治なんて無理」と陰で言われていましたので。わざと「市長いくつですか?」と年齢を聞かれて、「はー、うちの息子より若いな」と冷ややかに言われたり……。いつも顔では笑いながら「今に見ていろ」と思っていました。
だから私がいちばんこだわったのは結果。福岡はベンチャーだ、スタートアップだといつも言っていますが、ある意味私自身がスタートアップなのです。信頼や実績がなかったので、結果を出してわかってもらうしかない。「見返してやる」という反骨心が大きな原動力になりました。
――でも、市民は高島さんを選んだ。どうしてでしょう?
皆さんはそれまでの積み上げではなく、飛躍的に現状を変えることを私に求めていると理解しました。私の強みはそれまでの経緯にとらわれず、シンプルに物事を考えられること。就任直後、まずは何より経済を元気にすることが街の活気につながると考え、福岡の特性を分析して、1年目に短期、中期、長期の成長戦略を描きました。
すぐに効果を見込める短期的成長戦略としては、「交流人口増」を掲げました。福岡市民の9割は第3次産業に従事しているという特徴的な産業構造がありますので、交流人口を増やすことが街の活気につながります。
そして中期的戦略が「知識創造型産業の振興」。福岡には一級河川がないため、大規模な製造業の立地に適していない。となれば、IT、ゲーム、映像、音楽などの知識創造型産業を集積させ振興していこうと。
さらに長期的戦略としては、「支店経済からの脱却」です。安定的にここで就職して暮らしてもらうために、本社機能を誘致する。これはほかの自治体でもやっていますが、福岡はそれに加えてスタートアップを支援し、福岡の地で本社を生んでいく取り組みをするわけです。
これまでの「角を取る」地方自治では、立ちゆかない
――成長戦略を明確に定めたのですね。
民間の組織なら当たり前ですが、実は自治体にとってはやりにくいことなんです。今の3つの戦略を発表すると、例えば農業や工業に携わる方から「自分たちに関係ないのか」などとご批判を受ける。でも、交流人口増を狙った観光やMICE(国際会議、学術会議、展示会などのイベント)は非常にすそ野の広い産業で、人が来て、移動し、宿泊し、飲食し、購入することなどが、あらゆる産業に経済効果をもたらします。
これまで自治体が取ってきた施策は、広くまんべんなく「角を取って丸くする」ことでした。でも今、地方にとって大切なのはむしろその逆で、「とがりを出す」、そして「タグ付けする」ことだと考えています。
今、盛んに「地方創生」と言われていますが、これはまさにタグ付けすることでしょう。福岡市だけですべてのニーズに応えることはできなくて、各地域で何ができるというタグが付いていると、皆が自分の希望に合うところを選べる。誰もが自分の生き方を選択する時代に応えられる自治体になれるのです。先の3つの戦略で「とがり」を持ってやってきたからこそ、今の福岡があると感じています。
――1年目に立てた3つの戦略を、今も軸としているのですね。
もっと言うと、選挙に出ると決めて最初に街頭演説をしたときから、「アジアのリーダー都市を目指す」「アジアから人やモノを呼び込んでくる」と訴えていました。この方針はずっとブレていません。
――東京に対して、福岡の強みはどこにあるのでしょうか?
東京には集積のメリットがある一方で、福岡はビジネスコストが安く、クオリティオブライフが非常に高いという強みがあります。コストが安いということは「トライ&エラーを繰り返せる街」という言い方もできる。さほどおカネをかけなくても、充実した食があり、心豊かな暮らしができる。東京に対しては、これまでもその「タグ」を積極的に発信してきました。
――海外でも積極的に活動されて、2014年には都市の幸福に貢献した市長を称えるWorld Mayorにノミネートされました。世界でトップセールスをする狙いは。
日本では今後、人口減少に伴いマーケットが縮小する。対外的に存在感のない街は間違いなく生き残れず、外に目を向けなければならないという長期的な視点がまずあります。
次に、九州という視点で見たとき、陸海空の玄関、つまり駅や港、空港がすべて半径2.5km圏内に集積する、世界的にも珍しいコンパクトシティなんです。九州のハブである福岡の存在感を高めることが、九州の発展にも大きく寄与していくことになるわけです。
現状として、海外では東京・大阪・京都・広島・長崎くらいしか知られていない。遠慮して、いいことやっていれば知ってもらえるというのは日本だけの感覚であって、海外では誰もが我先にと前へ出ます。発信をしないと、存在しないのと同じ。ですから、私は国内はもちろん、できるだけ国際的な場にも出て、福岡の存在をアピールしています。
国際舞台では「若さ」がアドバンテージに
きちんと発信すれば、福岡には世界に誇るべきものがたくさんある。例えば、世界トップレベルの漏水率の低さや、「福岡方式」という世界に普及するゴミ処理技術があったり。世界都市フォーラムがイタリアのナポリで開かれたとき、休憩時間にルワンダのキガリ市の市長さんが来られて、「福岡方式を取り入れてから街がとてもきれいになった」と、うれしそうに話してくれました。
国際会議に出ると出席者は高齢の男性ばかりで、私の若さが際立ちます。私が話を始めただけでざわめきが起こり、皆顔を上げて聞いてくれる。そして前職で鍛えた、圧倒的プレゼン力で追い打ちをかける(笑)。地元では若さや元キャスターという立場ゆえに悔しい思いをしたけれど、今は逆に、国際会議の場では、他人に真似できない強みになっています。
ここに歴代の市長のお顔が並んでいます(と、市長応接室にズラリと飾られた肖像画を見回す)。年齢を重ねられて落ち着きのある先輩方の後に私の顔が並ぶのは、違和感があるでしょ? でもこれから50年後100年後にこの並びを見たとき、時代はここで変わったとわかってもらえるはず。
これだけグローバルな時代に生きているので、先人が培ってきた素晴らしい福岡を世界に発信することで福岡の存在感を高めたい。それがひいてはグローバルなマーケットを拓き、九州全体にも大きく寄与していけると思っています。
――この5年で、うまくいかなかった部分はどこでしょう?
まずはとにかく交流人口を増やすために、観光プロモーションを展開して、国際会議やスポーツ大会を誘致して、Wi-Fiを全国に先駆けて整備して。人を呼ぶためのあらゆる仕掛けを講じてきました。
その結果、福岡はどうなったか。国内外からたくさんの方にお越しいただき、今はホテルが足りない、オフィスビルが足りない、コンベンションのための施設が取れない……。毎年数十件お断りしていて、年間最大で190億円もの経済損失がある。空港では1本だけの滑走路が日本一の混雑具合で、新しい国際線を受け入れることが難しい。こんな状況に陥っているのです。
これは意図したことでもあるのですが、成長戦略で需要を生み出したものの、次に起きたのは供給力不足。これまでの想定をはるかに超える役割を、福岡市は果たさなければいけない。次のステージへ向かうときが来た、これが今スローガンに掲げる「FUKUOKA NEXT」。都市の供給力をつけ次のステージへ進むチャレンジです。
具体的には、滑走路を増設する、展示場を整備する、クルーズ船の2隻同時着岸を可能にするなど港湾機能を強化する。さらに自動運転やエネルギーマネジメント、ICTなどを活用し、高齢社会を見据えたスマートシティのロールモデルを創る。こうして都市機能の強化、更新を図ります。
それからね、これ、本当は言いたくないんですが、超世界的な企業が福岡に拠点を置きたいという話をお断りした例がありました。すごくいい話だったんですよ。でも、ワンフロアで、それだけの従業員が入るオフィスが欲しいという希望に沿えなかった。
こういった絶好の機会を絶対に逃さないためにも、福岡の中心・天神エリアにおいて、10年間で30棟のビルの建替えを促進し、新たな空間と雇用を創出するプロジェクト「天神ビッグバン」を進行させています。
行政が行使すべきは「規制を緩和する権限」
――どうやって進めるのでしょうか?
行政がおカネを使って課題解決するというのは、もう時代遅れ。プロジェクトのカギは「規制緩和」です。
福岡市は国家戦略特区に指定されています。特区で勝ち取った航空法の高さ制限の特例承認によって天神地区ではおよそ2フロア分高くビルを建築することができるようになりました。この緩和と福岡市独自の容積率の緩和、さらには、一定の規模を上回るビルに課せられた駐車場を設置する義務、これを緩和して設置を免除したり、設置場所を都心の周辺部にすることを認める、こうした規制の緩和を組み合わせ建て替えを誘導する。
そうすれば床面積が増え、これまでは駐車場にしなければならなかった1階や地下に賃料を取ってテナントを入れられるようになり、かつ耐震強度も増す。オーナーとしては建て替えによって大きなメリットを得られるのです。
ただ新しいビルができるだけではつまらないので、人が歩いて楽しい街を目指します。公開空地があって、週末にはいろんなイベントがあって、緑やベンチがあって。そんな潤いのある、ドラマが生まれるような街にしていくって、素敵ですよね。これも行政がおカネを出すのではなくて、「こんな緑にしたら、こういう公開空地を作ったら、これだけ規制の緩和を追加」というふうに誘導していく。
要は、行政が持つ「規制する権限」ではなく、「規制を緩和する権限」を使って民間活力を引き出すのです。早くニーズに応えられるように10年というリミットを設け、スピード感を持って進めていきます。
――福岡市のトップとして、高島さんがリーダーシップを発揮するために心がけていることは?

リーダーシップを取っていく上では心臓の強さが肝心。覚悟という言い方もできますね。大都市ですし、福岡は154万人が暮らす大きな都市ですし、人それぞれいろんな意見があり、批判があるのは当然です。でも、8、9割が賛成と言うまでじっと待っていたら、時代が変わってしまう。
何事も100%はないわけで、賛否両論あっても、攻めなきゃいけないときには攻める。まず決断した上で、それによって起こるマイナスの部分をいかに小さくする努力をしていくか、こっちのほうに時間を使う。最初から批判を恐れて決断しないことがもっともよくないことです。
もうひとつ、「何をするか」はもちろんですが、「誰とするか」を重視しています。私自身、選挙に出る前はテレビに出ていて、街で声をかけてもらうことも多く、すごく友達が多いと思っていました。けれど、選挙に出ると宣言した瞬間、みんな目の前から消えてしまった。
下心を持つと、真の同士に愛想を尽かされる
――え! それは意外なことですね。
そんなもんですよ。「陰ながら応援している」と言うのがいちばん怪しい人で、選挙が終わるまでまったく姿を見せず、当選したら来て「ずっと応援してました」と(笑)。そこはすごくいい勉強ができたと思うんです。大くくりに「友達」と言えますが、その中に「ただの知人」と、大変なときに助けてくれる「同士」がいるんだと、そのとき初めて気付きました。
いざとなったら逃げて都合のいいほうにつくような人に気を遣い、こっちも仲間に入れたいと下心を持つと、真の同士が愛想を尽かして去ってしまう。プロジェクトを進めていく上でも、心から信頼し合える同士とともに核となる強固なチームを作ることがすごく大事だと思っています。
――この5年で周囲の態度も変わってきましたか?
そう、そういう意味で、市長になってこれまででもっともうれしかったのは、市税収入伸び率1位という結果が出たこと。就任から3年間で税収伸び率は政令市で11位から1位になりました。1期4年間で見ても1位を持続し、額自体も2年連続で過去最高を更新しました。
「若い」とか「アナウンサー出身」というだけで信用されなかったからこそ、ずっと「結果」にこだわってやってきた。だから数字が出たことはすっごくうれしいんですよ。あのときの悔しさと「負けてたまるか」という気持ちがあったからこそ、成果が出せたのだと、実は感じています。
――そして一昨年の11月、史上最多得票で再選を果たしました。
あれだけの票をいただいたのは、皆さまから評価いただいた結果とありがたく受け止めています。これからも都市の成長を目指しつつ、その成果を子どもからお年寄りまで、広く生活の質の向上へとつなげて、この好循環を加速させていきたいと思います。