有名企業「異例トップ人事」の裏側 〜今年はソフトバンク、ソニー、サンリオで目玉人事アリ?

総合有名企業「異例トップ人事」の裏側 〜今年はソフトバンク、ソニー、サンリオで目玉人事アリ?

社長交代会見では、「前」も「新」も笑顔を振りまく。が、そんな円満ぶりを額面通りに受け取ってはいけない。笑顔の裏には必ず思惑、策略などの深謀遠慮が渦巻く。人事は怖くて、おもしろい。

次期社長候補が飛ばされた

伊藤忠の岡藤氏(伊藤忠HPより)

全国紙A 伊藤忠の岡藤正広氏の社長続投宣言が波紋を広げているね。

経済誌B 「社長任期は6年」という通例を破ったこと自体には、実はさほど驚きはない。

通信社C その通り。「俺が、俺が」の岡藤氏なら続投しかねないとみんな思っていた。それより衝撃が走ったのは、社長続投に絡んで発表された役員人事。

B 次期社長候補の筆頭格とされていた専務2人が飛ばされた件だね。

A 住生活・情報カンパニープレジデントだった吉田朋史氏は伊藤忠インターナショナル社長に、エネルギー・化学品カンパニープレジデントだった福田祐士氏はアジア・大洋州総支配人への異動が決まった。一見すると栄転なんだけど、商社で偉いのは何と言ってもカンパニープレジデント。両氏がプレジデントから外されたのは、「降格に等しい」とある社員は言っていた。

C 吉田氏、福田氏はともに稼ぎまくっていたから、手腕はピカ一。部下からの評判も良くて、降格される理由はまったく見当たらない。

A だから余計に、社員は戦々恐々としている。二人が力をつけすぎてきたので、岡藤氏がパージしたのでは……とね。

B 実は予兆めいたこともあった。昨年末に突然、吉田氏が率いる住生活・情報カンパニーが住生活カンパニーと情報・金融カンパニーに分割されると発表された。これもいま思えば、巨大化しすぎたカンパニートップの権限を小さく抑え込む思惑があったのではないかと見えてくる。

C 岡藤氏は最近、「『次の人間』に賭けていた社員がいるが、自分が続投したことでがっくりしているようだな」という話をやたらと語っている。「次の人間」というのは、明らかに吉田氏や福田氏のこと。岡藤氏はあえてこういう話を公言することで、社内を牽制しているように映る。変な下心を出したらどうなるかわかっているだろうな、と。

A いずれにしても、「岡藤独裁」が当面続くことが確定したわけだ。あと何年社長を続けるかもわからないし、社長退任後も従順な子飼いを後任に据えて、院政を敷く可能性すら捨てきれなくなってきた。

B そんな伊藤忠に背中を追われている三菱商事では、小林健氏に代わって、常務の垣内威彦氏が4月から新社長として登板する。前評判は高いね。

C 三菱商事が伸ばそうとしている非資源部門のプロ。京大経済学部卒で、一貫して食糧・食品畑を歩んできた。エリート臭が強い三菱商事にあって、泥臭い商社マンらしい商社マンだけに、社内からも期待する声が多い。

A ただ、エネルギーや金属部門の社員は脅えているよ。垣内氏はいま次の中期経営計画を策定しているんだけど、不採算部門の大胆なリストラに踏みこむとも指摘されている。言うまでもなく、ターゲットとなるリストラ第一候補は不調から抜け出せない資源部門。資源の幹部たちは出血を少なく抑えられるように策を練らなければと頭を抱えている。

B 実は、非資源部門にも不穏な空気が流れている。というのも、非資源の稼ぎ頭である生活産業グループのトップに、垣内氏の「腹心」と言われる京谷裕氏を抜擢する人事が決まった。京谷氏は同時に常務に昇格することも決まったが、氏は1984年入社と若い。早い出世をやっかむ声が上がっていて、足を引っ張る年上の部下が出てきそうだ。

C 若くして抜擢されたと言えば、昨年業界内外で大きく騒がれた三井物産の「32人抜き社長」の安永竜夫氏。その後はうまくやっているね。

A タフネゴシエイターで顔も強面。それなのに、ぽっこりお腹にサスペンダーをして役員フロアを歩き回っているので、女性社員から「かわいい」という声が上がっているそうだ。

B そんなかわいさとは裏腹に、安永流の冷徹さも見せている。かつて社長候補と目されていたツートップの副社長の雑賀大介氏と木下雅之氏を、役員から退任させる人事を決定したからね。

A 安永氏は社長就任後から「率先垂範」を連呼。自らを「軍団長」と呼んで、すでに20ヵ国を超える外国へトップセールスに出向いている。「俺たちは雑食系狩猟民族だ」というフレーズも社内で評判で、若手の人心も掌握している。社内が騒々しい伊藤忠や三菱商事を出し抜いて、三井物産が急伸するシナリオになればおもしろい。

損保の新トップ対決が見物

A トップ人事と言えば、三井住友銀行(SMBC)の次期頭取レースについて書かれた経済誌『FACTA』の記事が話題だ。

C 現頭取の國部毅氏が来年にも交代する見込みなのだけれど、國部氏は持ち株会社の三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)の社長に就く可能性がある。これまではSMFG、SMBCのトップを旧三井、旧住友銀行出身者でたすき掛け人事してきただけに、旧住銀出身の國部氏がFGトップになると頭取人事が急転しかねないという話だね。

B グループ内ではさっそく、記事の「出所」について色々な噂が出ている。あの記事をよく読むと、中傷されているのは次期頭取候補に名が上がる副頭取の橘正喜氏と専務の太田純氏。二人はともに旧住銀出身なので、旧三井サイドが流した話ではないかと。

A ただ、それだとあまりに安易な筋書きだ。旧住銀の橘-太田タッグは広報ラインを掌握していて、メディア戦術が得意。彼らがあえて、旧三井サイドが変な動きをしていると見せかけるために情報を出しているとも言われている。

C ただ、國部氏は最近、次のように発言したらしいよ。「後任候補は車谷、橘、太田。それに、あと2人いる」。副頭取の車谷暢昭氏は、旧三井出身の頭取候補の筆頭格。車谷、橘、太田の3名は頭取候補としてよく名前が出ていたが、あと「2人」というのは急浮上してきた感がある。しかも、この2人はともに海外畑の人物と言われている。次期頭取レースにはまだまだ波乱がありそうだ。

A そう言えば、三菱東京UFJ銀行は平野信行氏から小山田隆氏への頭取交代が決まったけれど、まったくサプライズのない超順当な人事だった。

B ここの人事はいつも、「10年先の頭取までわかる」と言われるほどに堅い。ちなみに、小山田氏の「次」は現在常務の柳井隆博氏で決まり。こんなにトップ人事の読みがいのない会社も珍しい。

C 金融業界では、損保の新トップがおもしろいね。まずは永野毅氏から後継指名されて、東京海上日動火災保険の新社長に就く北沢利文氏。異例の抜擢人事だった。

B びっくりしたね。北沢氏は子会社の東京海上日動あんしん生命保険から出戻っての社長就任。生損保業界では、一度本社から離れた人が社長になるというのは聞いたことがない。ただ、北沢氏はあんしん生命社長として生保事業を中核事業に育て上げたのが評価された形で、その手腕は折り紙つき。本体トップとしてどんな「攻め」を見せるか非常に楽しみだ。

A 損害保険ジャパン日本興亜の新社長になる西澤敬二氏も、異能の人。ものすごく人当たりが良くて、とにかく腰が低い。こちらが「ありがとうございます」と言えば、「いえいえ、とんでもないです」と返してくるのが口癖。部下にも社外の取引先にも人気が高い。それでいて、やることはすごく大胆。

C 新規事業としての介護事業をM&Aで業界首位に匹敵する存在に押し上げた立て役者だからね。『ワタミの介護』から介護事業大手の『メッセージ』までを立て続けに買収した剛腕ぶりは凄まじかった。次は保険にビッグデータを取り込むデジタル化を進めようとしているらしいから、おもしろいことになりそうだ。

B 「北沢vs西澤」の対決は相当に見応えがあるね。

B トップ対決で注目といえば、コンビニ業界もファミリーマートの新社長に澤田貴司氏が決まったことで、俄然おもしろくなってきた。

A なんといっても澤田氏はかつてユニクロ(ファーストリテイリング)で柳井正氏から後継社長を打診されながら、これを固辞してみずから会社を立ち上げた人物。そんな澤田氏の「次の候補」として柳井氏が社長に指名したのが、現在ローソン社長を務める玉塚元一氏だった。つまりは、コンビニ業界は「元ユニクロ」のトップ対決になったというわけ。

C しかも、玉塚氏はユニクロの業績不振で柳井氏から解任されると、澤田氏と一緒になって会社を立ち上げた。そんな盟友同士が、今度はライバルとして真っ向から向かい合うのだから、テレビドラマみたいな展開だ。

ホンダの「四人組」

B みなさん、ホンダの人事はどう見ました? このほど大掛かりな役員人事が発表されたけれど。

A 昨夏に伊東孝紳氏から八郷隆弘氏が社長を引き継いだ際には、「実力者」の伊東氏が院政を敷くとの心配も出ていた。けれど、今回の人事を見る限り、八郷氏が思い描く理想的な人事ができているように映るね。

C 同感。誰もが納得する優秀な人材が八郷氏を支える最強布陣が整ったといえる。まず、常務から副社長に昇格する倉石誠司氏は超一流の営業マン。エコノミークラスの座席にはおさまらないような巨漢だが、カラオケがめちゃくちゃ上手で、どんな取引先も魅了する好人物。中国ビジネスで八郷氏と同じ釜の飯を食った仲で、馬が合う。

A 専務の松本宜之氏もホンダの技術の要である本田技術研究所社長に就任して、F1も担当する。社長候補と言われてきた「天才技術者」なので、これ以上ない最適な人事といえる。「経理のプロ」と言われる竹内弘平氏も専務に昇格する。

C 営業の倉石氏、技術の松本氏、経理の竹内氏が八郷氏を支える四人組体制が築かれたわけだ。しかも、彼らは互いにどこかの部署で一緒に仕事をしたことがあったりして、「阿吽の呼吸」の間柄。新生ホンダの躍進がここから始まる、と期待したい。

B 対照的なのが日立製作所。会長兼CEO(最高経営責任者)だった中西宏明氏がCEO職を外れて、東原敏昭氏が社長兼CEOに就く。これまで中西-東原のツートップ体制で来ていたが、東原氏のワントップに移行するわけだ。

C 正直、社内には安堵の空気が漂っている。中西氏は文字通りのモーレツCEOだったからね。外資系企業のトップ相手に、部下が見ていてヒリヒリするような切った張ったのやり取りをする。根回ししないで、即断即決するのも当たり前。だから、突然降って湧いたプロジェクトに部下は翻弄されたり、相談もされないOBからは一部不満も出ていた。

B 一方で、東原氏は調整型。胆力もあるが強引ではないから、社内には一服感が出ている。今後の日立には、これが吉と出るか凶と出るか。中西時代に取り組んだ改革が一息つき、じっくり事業を育てる時期に入ったとしたら、東原氏はいい経営をするかもしれない。

A 同じ電機業界では、NECのトップ人事は評判が芳しくないね。ある社員は、「変わろうとしてずっと変われないNECの典型的な人事」と嘆いていた。

C 現社長の遠藤信博氏から副社長の新野隆氏にバトンタッチされたわけだけど、実は新野氏のほうが入社年次は4年上。遠藤氏は大学院上がりだからだけど、二人の年齢差も1歳しかない。若返りを図って、常務の森田隆之氏を抜擢するという話も出ていたのだけれど。

A フタを開けて見れば、「相変わらずのNEC」を絵にかいたような人事だったということ。NECの40代の中堅社員たちは、強いリーダーシップのもとに会社がドラスティックに変わるのを期待していただけに、失望感は大きいみたいだよ。

ヤマダ電機とニトリの違い

B 最近は、カリスマ経営者が一線を退くトップ交代が目立ってきた。

A でも、事実上は完全交代ではないという人事が多いよね。典型的なのがキヤノン。御手洗冨士夫氏が会長に退いて、専務の眞榮田雅也氏に社長交代するというのだけれど、CEO職は依然として御手洗氏が継続する。

B ただ、キヤノンの今回の人事はいい面もある。実はキヤノンではこれまで、御手洗氏の故郷の大分県出身者や御手洗氏の母校の中央大学卒が重用されると不満を言う社員がいたけれど、眞榮田氏はそのどちらでもない。眞榮田氏が実力を発揮して文字通りのトップに君臨できれば、「御手洗支配」から変われると期待している社員がいるわけだ。

A そういう社員が眞榮田氏を全力でサポートして、キヤノンの業績が上向くという意外な効果が生まれるかもしれない。人事はなにがうまく作用するかわからないものだからね。

B ヤマダ電機でも創業者の山田昇氏から常務の桑野光正氏への社長交代があったけれど、この人事は「謎すぎる」と評判になっている。

A はっきり言って、桑野氏というのは社長候補としてまったくノーマークだったからね。多くの経済記者が本命だと思っていたのは、専務の飯塚裕恭氏。山田昇氏をずっと支えてきた大番頭です。一方で、桑野氏はヤマダが買収したダイクマ出身で、ヤマダの草創期はまったく知らない。おまけに人事・総務畑で決して目立つ存在ではなかった。

B しかも、山田昇氏が突然、息子で取締役の山田傑氏を「後継者としてその任にない」と公言し始めたからもうパニック。世襲はしない、功労者も登用しない、そして、まったく未知数の人物を抜擢したということ。

A 山田昇氏の迷いの深さのようなものを感じずにはいられない。後継人事を決めているようで、決めかねているというのがありありとわかってしまう。あまりに筋道が見えない人事は経営を混乱させかねない。

C そう考えると、ニトリHDの似鳥昭雄氏やスズキの鈴木修氏のように、後継を選びながら、「自分もまだまだ働くぞ」とわかりやすいほうがまだいい。

B 今年はまだまだ目玉人事が控えている。ソフトバンクグループの孫正義氏がいよいよインド人副社長に社長の座を譲るか。ソニーでは「ポスト平井」で誰が頭一つ抜けてくるか。サンリオでは創業者の辻信太郎氏の後継者は誰になるのか。おもしろい人事話が尽きそうにないね。

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