学生でも不当なルールは変えられる ブラックバイトユニオンの渡辺寛人さん

アルバイト・パート学生でも不当なルールは変えられる ブラックバイトユニオンの渡辺寛人さん

学生がアルバイトで、単位を落とすほど休めなくなる勤務シフトを強制されたり、残業代が正しく支払われなかったりする「ブラックバイト」の横行が社会問題となっている。これを同世代の若者たちの力で解決しようと2014年8月にブラックバイトユニオンが発足した。無理な勤務シフトをやめさせるなどの成果を上げてきた共同代表の渡辺寛人さん(27)に、学生が中心になって運営するユニオンの可能性を聞いた。【聞き手・山越峰一郎】

−−厚生労働省が昨年11月に発表した調査結果で、大学生の6割がアルバイト先で労働条件など何らかのトラブルを経験していることが分かりました。この数字には驚きました。

渡辺さん ブラックバイトユニオンでは、学業に支障をきたすようなアルバイトを「ブラックバイト」と定義しています。私たちが関係している「ブラック企業対策プロジェクト」が2014年7月に行った共同調査でも、アルバイトのおよそ7割が不当な扱いを経験していました。昨年9月に団体交渉を始めた事案では、学生が4カ月間休みなしに1日平均12時間くらい働かされ、日常的にパワハラも受けていました。

大学生、高校生は学校生活があるので、責任が重くなってどんどんバイトに組み込まれていくと授業に出られなくなる。政府はグローバル人材育成と言っていますが、学生がバイトばかりして使い潰されていったら、とてもじゃないが知的能力を高める余裕はなくなります。

親にとってみても、大学へ入ったのにバイトばかりでは困りますよね。このように学生の本分がどんどん侵食されていくと、今に社会のあり方が崩れていきます。学生のうちに違法行為を経験してそれに慣らされてしまったら、それこそブラック企業に入ったときに何もできず都合のいい人材として使い潰され、ますます日本の競争力をそぎかねません。

「辞めたいけれども辞められない」に苦しむ学生たち

−−ブラックバイトユニオンには、どれくらいの相談がありますか?

渡辺さん 一昨年8月の設立時は月に20件ほどでしたが、メディアに取り上げられることも多くなり、昨年の夏は月100件くらい。11月に厚労省の調査が出た直後は1週間に100件近くもの相談がありました。すべて高校生や大学生からの相談です。

一番多い相談は「辞めたいけれども辞められない」です。その次は賃金の未払い、そして「テストなのに休めない」などシフトの問題がきます。業種としては居酒屋やファストフードなど飲食店、コンビニやアパレルなど小売り、学習塾がほとんどです。深夜の1人勤務でトイレにすら行けない状況を招いた外食チェーンの「ワンオペ」が騒がれましたが、1企業に限ったことではなく業界全体の問題です。

ニュースになるのは、問題が集中していて当事者が声を上げたところです。ひどすぎて声すら上げられず、組合などのサポートもない場合は、なかなか問題が表面化しません。共同調査でも、アルバイト経験者2500人のうち4人に1人が週20時間以上働いていました。週20時間を超えると「学業に力を入れられない」「おろそかになる」との回答が合わせて4割ほどに跳ね上がります。

−−団体交渉を始めた事案はどのようなものですか?

渡辺さん チェーンの居酒屋のある店舗で起こった問題です。ひどい事案で、週20時間どころではありませんでした。大学2年生の男性が休みなく長時間働かされ、食べ放題の客に制限時間以内に帰ってもらうことができなかったなどの理由で自腹による架空購入が約20万円もありました。この男性は最初に会ったとき、大学にも行けず「人生終わりだ」と追い詰められていました。

−−どういう相談があったのですか?

渡辺さん 「辞めたい」という相談がありました。日常的なパワハラに加え、ちょっとした仕事上のミスを責められ「何千万円も損害賠償を請求する」と言われたり、辞めたいと申し出た際に「辞めるなら懲戒解雇にする。解雇されたら就職できなくなる」などと言われて恐怖に支配されていて、自分から辞めることはできない状態に陥っていました。

だから私たちは「それは無視していいんだよ」「悪いのはあなたではなく会社です」と話して安心してもらい、毎日のように面談しました。まずは法律の説明です。民法の627条の規定により2週間前に申し出れば仕事は辞められるし、そもそも相手が違法なことをしている場合は明日やめても法律的には問題ない。損害賠償請求にしても、アルバイトが責任を負う必要はなく、無視していいと説得しました。

また、ユニオンのメンバーが病院に同行し受診した結果、男性はうつ病、不安障害と診断されました。「この状態で働くのは危ない」という医師の勧めに従い、会社から離れることにしました。そこまでして、ようやく辞められたのです。しかし、辞める直前に電話で「今からお前んち行くから! 殺してやっから!」などと脅迫を受けていたために、本人は自宅に帰ることができず、友人宅に避難することになってしまいました。

−−学生が団交をしようと踏み切ったのはなぜ?

渡辺さん ユニオンのメンバーによるサポートを通じて徐々に回復していったことと、決定的だったのは店長の話にウソがあったことでした。店長から「このままでは倒産する。お前がミスするせいで自分のクビが飛ぶ」と言われ、「自分のせいで店長の生活が脅かされている。申し訳ない」と店で働き続けていました。

しかし、店長自身が辞めさせられるかもという話がそもそもウソだったことがユニオンの調査のなかで分かった。だまされていたという憤りが出てきて、会社に責任を取らせたい、と次第に考えるようになりました。また、自分と同じような目に遭う学生が出ることを防ぎたいという気持ちが芽生え、自分の被害・損害を回復するだけでなく、会社にも改善してほしいと団体交渉を決意したのです。

「ネットで署名、ネットで公表」を力に

−−交渉は順調に進んでいますか?

渡辺さん いえ、まったく進んでいません。彼を雇用していた運営会社は当初、法的な義務があるので団交を断ることはできないのに、「ブラックバイトユニオンは労働組合なのか疑義があるので応じない」と答えてきました。労働組合は国の許認可が必要な団体でも何でもなく、結成されている組合に「疑義がある」というのは法律をまるで理解していない発言です。

その後、私たちは「change.org」というネットで署名を集めるサイトで被害実態を報告し、2週間で2万7000筆を集めました。すると、会社が団交に応じてくるようになりました。

しかし、会社は「男性は店長の制止を振り切ってまで喜んで働いていた」などと主張をし、まともな話し合いになりません。そこで主張の不当性をブログで報告すると、「ブログで公開するなら、団交に応じられない」と言ってきた。団交を拒否することは不当労働行為に当たるので、昨年11月初めに労働委員会に申し立てました。

−−団交にすら応じない企業もあるのですか。

渡辺さん 経営者側に立つ弁護士事務所には、労働組合との話し合いもまともに取り合わずに引き延ばして、諦めさせる手法を取っているところもあります。これまでそれが通用していたのは、企業別組合で、社会の中ではなく企業の中での戦い方が主流だったためです。

正社員であれば時間を引き延ばされ、社内で立場も仕事もなくなるとつらい。だからある意味で効果的だったのです。私たちの場合はそれを公にして戦っていくので、彼らが不誠実な対応をすればするほどネットなどを通して批判が高まります。

−−組合の利点は何ですか?

渡辺さん 会社と直接交渉をして新たなルールをつくれることです。ブラックバイト問題は未払いなど違法行為のほかに、シフトや自腹購入の問題など必ずしも違法行為として労働基準監督署が対応できない問題も多く含まれます。解決していくには、労使間の話し合いを通じて働きやすい環境をつくっていくことが必要です。組合と経営者が交わした約束は労働協約として、法律や就業規則よりも上位の、拘束力の強いルールになります。

ある学習塾でシフト問題を悩んでいる学生から相談を受けて、団交しました。その結果、「学業安心シフト協約」というルールを作ることができました。アルバイト学生がテスト期間に勉強等の理由で休みを申告したときは原則認めなくてはいけない。急に「シフトに入れ」ではなく、最低でも2週間前に言わなければいけない。

誰かが辞めた場合に「代わりを見つけてこい」ではなく、1週間以内に求人広告を出さなければならないという約束をさせました。新たな人員を採用するのは企業の責任だということをはっきりさせ、学生が安心して働き続けられる職場にしようというルールを作ったのです。

また、あるアパレル会社には「店に在庫がある今シーズンの商品を上から下まで身に着けなければいけない」というルールがあり、着る服はすべて自腹だったのでアルバイトの負担になっていました。話し合いの結果、このルールをなくし「勤務中に着用する服は、『ブランドのイメージにあった服』であればいい」ということになりました。別な大手塾にも直営とフランチャイズを合わせた2000超の教室の労働環境調査を実施させました。

私たちの世代はルールを変えたり、権利を主張したりする経験が少ない。そのためブラック企業に就職して数年で使い潰されてしまう問題も起きています。権利交渉する経験を学生のうちに積んでいくことで、若い人が自分の身を守っていき、より働きやすい社会のルールをつくっていく。学生中心のブラックバイトユニオンの意義はそこにあると可能性を感じながらやっています。

非正規雇用の基幹化が背景にある

−−なぜ過酷な仕事をさせてしまうのでしょうか?

ブラックバイトユニオン共同代表の渡辺寛人さん

渡辺さん 背景には非正規雇用の基幹化という問題があります。とりわけサービス産業では、正社員は店長だけ。あとは全員アルバイトという職場が当たり前になっている。だからアルバイトも、処遇は低いにもかかわらず過重な責任を負わされてしまうのです。一方で、1人だけの正社員はノルマ・目標を達成することを強く求められています。

問題の居酒屋の店長も1月から8月まで1日も休んでおらず、店長自身がブラックな働き方をしているようでした。上から課せられた目標を達成していくには自分だけでは無理で、アルバイトを巻き込んでいかないといけない。学業を犠牲にさせる働き方を強いていかないと乗り切れない。ブラックバイトとブラック企業は、そんな連続性のある問題です。

また、飲食や小売り、塾などのサービス業全体は人件費の割合が高い業界ですので、コストを下げるときに人件費にしわ寄せがいきやすい構造的な問題があります。

−−辞めて新しいアルバイトの職を探すのは難しい?

渡辺さん 学生が採用面接で「テスト期間は休みたい」と言うと落とされます。会社の仕組みがどう変わってきているかというと、正社員を非正規に置き換え、非正規を活用して利益を上げていこうとしているのです。これまでアルバイトは気軽にやるものであり、気軽に辞められる小遣い稼ぎでした。ところがサービス業に顕著なのですが、非正規雇用の基幹化という問題が起きており、パートやアルバイト学生がいないと回らない職場が至るところにある。

塾であれば、「君がいないとこの生徒どうなるの」と言われ、飲食店や小売店などでは鍵開け、鍵閉めだけでなく、金銭やシフトの管理までアルバイトがやらされている職場があります。これは一方で採用する側も採用の際に責任を負える人材かどうかをみることにつながります。採用のハードルは昔のアルバイトより高くなっています。

−−ブラックバイトを見分けるには?

渡辺さん 求人だけではなかなか見分けが付きません。最近、私たちが注意して見ているのが、大きなブランドなので安心だなと思って入ったら、雇用関係を結んでいたのは小さな零細企業だったということ。飲食チェーンなどでは看板ではなく、自分が実際に雇用される会社はどこかをよく注意したほうがいいです。ほかに、労働条件明示書や労働契約書を出さないところはあまり法律を守る意識がない企業なので、これも注意したほうがいい。

見分け方も大事ですが、より重要なことは入った後の対処法です。とにかくきちんと証拠を残すこと。労働条件明示書が交付されなくても、求人票になんと書いてあったかを保存しておく。何時から何時まで働いていたのか、何の仕事をしていたのかもきちんと記録しておくことです。パワハラなどはスマートフォンでの録音も効果的です。そして、「おかしいな」と思ったら私たちのような専門家に相談することです。

「不当なことは改善できる」を実感してほしい

−−団交などを経験した学生は、何か変わりますか?

渡辺さん 従うことに慣らされている世代なので、ユニオンの活動は、自分たちで自分たちの働き方を決めていく自治の経験を積める貴重な機会で、教育的な効果はすごく大きいなと思います。怖いと思っていた店長でも、組合として行くとあっさりと未払い賃金を取り返せたり、多少時間がかかっても新しいルールを作れたりするわけです。「不当なことは変えられるんだ」と実感を持つ学生が多いですね。問題解決の経験を積んだ学生が増えていけば、就職後に自分の身に何かあったときに、権利行使するハードルがすごく下がるはずです。

−−渡辺さんはなぜ労働問題に関心を持つようになったのですか?

渡辺さん 最初に関心を持ったのは労働ではなく貧困問題でした。大学2年生のときに「ネットカフェ難民と貧困ニッポン」(水島宏明、日テレBOOKS)を読んで大きなショックを受けました。私自身も家は裕福ではなく、父は私が中2のときに働き過ぎでうつ病になり、仕事ができず家に引きこもっていました。

私自身は親戚の援助もあり大学まで行けたので良かったのですが、同じ世代の若者が日雇いでネットカフェに泊まり、誰にも頼れずその日暮らしをしている現実を知り、なんとかしないといけないと思ったのがきっかけです。

その直後、08年末に年越し派遣村ができてボランティアに行き、労働相談を行うNPOの「POSSE」(ポッセ)の人たちと出会いました。生活保護の申請同行などをして、その後、09年にPOSSEの会議に誘われたのです。

もともと社会福祉の勉強をしたい、人の役に立つことをしたいという思いがあり、法政大学現代福祉学部に入りました。ですが、貧困問題は勉強すると暗くなるのです。嫌な社会だと思い知らされ、素晴らしい解決策が簡単に見つかるわけでもありません。そんなときに、POSSE代表の今野晴貴さんら同世代の大学生・大学院生たちが相談一つ一つに対し状況をどうやって変えていったらいいかを真剣に議論していたことに感動しました。初めて「社会って変えられるんだ」と実感し、諦める必要はないんだと思いました。

11年4月下旬には4〜5人で仙台POSSEに住み込みでボランティアとして行き、14年1月まで代表として被災地支援にかかわりました。東日本大震災の避難所から仮設住宅への引っ越し支援、買い物・通院を支援し、仮設の子供たちは勉強が遅れていることも多かったので、現地の大学生と協力して学習支援も行いました。12年からは仙台市と協働で生活再建のための就労支援も始めました。

−−学生の活動といえば昨年、国会前でデモをしたシールズが話題でしたが、どう見ていましたか?

渡辺さん あれだけの大学生が声を上げ、国会前に12万人が集まり、社会を動かしたことは素直にすごいなと思います。同時に、日常に戻ると権利侵害や法律違反がはびこっている状況は相変わらず続いているので、私たちは私たちで声を上げた人たちが日常のなかできちんと権利行使できるよう取り組んでいきたい。