正社員で募集されていたから面接に行ったのに、契約段階で突然「契約社員」に!? ほかにも「正社員採用」をエサに「試用期間」で過重労働を強いられ、命を落とすケースまで。求人票に書かれていること、企業側に言われたことを鵜呑みするな、とまで言わねばらならない非常事態。危険察知のコツ、第二弾です。
■手口2 「正社員採用」釣り ――「入社半年後正社員」「見習い期間」等々
「正社員募集」という言葉に一度は釣られても、引き返せ
次に、給与ではなく、雇用形態を詐称する求人もある。雇用形態とは、正社員や契約社員、派遣・請負など会社との「身分関係」のようなものだ。通常、正社員は「期間の定めのない直接雇用(請負や派遣ではない)」だと理解されている。
だが、正社員として募集しているにもかかわらず、面接に通って契約を交わす段階になってなぜか突然「契約社員」にさせられる、あるいは「見習い期間だから」と言われて給与や労働時間の条件が劣悪なものを押し付けられるというケースが後をたたない。
さらにひどい場合には、何年も働いているのに、結局正社員になれたのかどうかよくわからないとか、一度正社員に「本採用」と言われたのに、その後もう一度契約社員に戻ってやり直すように言われた、などという場合もある。
こうしたケースに関して2つの事例を見てもらいたい。
■case1 小売業で働いていた20代女性の事例
ハローワークの求人で「正社員、試用期間2ヶ月(変更あり、日給制)」とあったため、応募したが、入社日の直前に来た採用通知書では「契約期間2ヶ月、正社員登用の可能性(日給時給制)」と2ヶ月限定の「契約社員」の扱いになっていた。
会社に説明を求めたところ、「試用期間は契約社員ということだ。入社日にはんこを押すように」などと言われた。
しかし、結局入社2ヶ月後に会社側から「お疲れさま。明日から来なくて大丈夫」と言われた。勤務の評価が低いからという理由であったが、具体的にどのような部分が悪かったのかすら分からないまま、「2ヶ月の契約満了」を告げられてしまったのだ。
■case2 オンラインゲームを扱う会社の経理として雇われた、20代女性の事例
求職支援サイトで、「正社員採用」となっていたためこの会社の求人に応募した。ところがその後社員から口頭で「3ヶ月は試用期間で契約社員、その後正社員になる」との説明を受ける。求人との違いを少し疑問にも感じたが、どちらにしてもいずれ正社員になれると自分を納得させて入社した。
ところが、3ヶ月経っても正社員になれるという話がなく、代わりに「話があった通りだから」と契約社員更新の書類を渡された。急な話で転職することは現実的ではなく、更新期限も迫っておりため、泣く泣く書類にハンコを押さざるを得なかった。
いずれも、求人では「正社員」であったはずの雇用形態が、いつのまにか「契約社員」に変わっていたという事例である。こうすることで会社は「正社員」として募集をかけることで大量の人を集める一方で、都合のいいときに「契約期間満了」だとして簡単にクビをきることができるようになるのだ。
試用期間でがんばれば……その思いを悪用されないために
また、こうした雇用形態の詐欺のほかに、深刻なのが「試用期間」を会社が悪用するケースだ。
次の事例は百貨店などに装飾されている草花・観葉植物を管理する、株式会社グリーンディスプレイで起こった過労事故死の事件である。
■case3
大学を3月に卒業したものの、就職難で正社員の職に就けずにいたAさん。そんな中9月にグリーンディスプレイがハローワークに出していた「新卒正社員募集・試用期間なし」の求人を見つけ、応募した。
しかし実際に採用されると求人とは異なって、試用期間としてアルバイトでの勤務を求められた。正社員の就職にこだわっていたAさんであったが、正社員になることを目指して、1週間連続勤務や月100時間以上の残業という過重労働に必死に食らいついた。
翌年、ようやく正社員に採用されたものの、その1ヶ月後、22時間連続勤務を終えた帰宅途中、長時間労働による極度の心身の疲労と睡眠不足によって電柱に衝突し事故死するに至った。
正社員になるための「予選期間」のように試用期間を設定し、「正社員になりたい」という気持ちを利用して過重労働に追い込む。こうした悪質なケースは後をたたない。
さらに、そもそも「直接雇用」でもなく、ただの「個人請負」にさせられていた事例がある。
■case4
仙台市の東北医療器械(後に「REジャパン」に名前を変更、現在はシダックスに買収されている)で働いていた20代の男女6人が、同社と取締役を相手取った訴訟を提起した。同社は業界では比較的大きな規模で、全国に店舗を展開し、従業員も1000人弱を数えていた。
6人は2010~12年に入社し、マッサージ師として東北の温泉旅館に派遣されていた。皆、専門学校を卒業後、同社に入社していた。学校で同社の求人が紹介されており、その求人には、正社員で賞与は年2回、昇給も年1回で社会保険有、労働時間は16時~23時15分(所定労働7時間)といった労働条件が記載されており、賃金の額も専門学校生が新卒でもらえる金額の中では比較的高めだった。
だが、実態は全く違っていた。源泉徴収票を受け取ったときに気づいたのだが、彼らは正社員として入社したはずなのに、「外交員」という個人事業主扱いであったのだ。雇用保険はもちろんのこと、社会保険にも加入させてもらえていなかった。賞与も昇給もなく、手当などもほとんどなく、年金保険料や所得税などを支払えない人もいた。
さらに、労働時間も実際は長時間労働であり、残業代も未払いだった。実際の労働時間は13時25分に勤務を開始し、終業は早くて24時頃。遅いときには26時前までと、提示された時間を大幅に超えていた。他県などに派遣されたときは自宅に帰るのが深夜3時になった日もあったという。また、残業代については一切支払われず、年間100万円以上の未払いがあった。
このような労働実態のため、この会社では新卒が毎年次々と辞めていった。2010年入社の新卒約60名は、約3年で全員が離職を余儀なくされている。それにもかかわらず、専門学校では同社の「詐欺求人」を紹介し続けているのである。
このように、「求人詐欺」の被害の一種として「正社員だと思って入社したのに、本当は正社員ではない」という悲惨なケースも珍しくないのが実情なのだ。
一般的な詐欺事件は、ニュースを見ればその手口がわかります。企業がたくらむ「求人サギ」も、いろいろなケースを知っておくと、気づいて引き返すこともできるはず。自衛のためにも“企業性善説”は棄てる覚悟も必要かもしれません……。