危ない求人票に仕掛けられた罠を見抜く方法 給与欄はここをチェックしよう

総合危ない求人票に仕掛けられた罠を見抜く方法 給与欄はここをチェックしよう

今回から、いよいよ「求人サギ」の実態を見ていく。だがその前にまず「求人票」の仕掛けを見ておこう。

求人票は入社後の労働条件、給与欄のこの書き方に注意

求人票とは、就職活動中の人に向けて、企業が給与や労働時間などの労働条件を示すデータである。「募集要項」と呼ばれたり、就活サイトによっては「採用情報」「採用データ」と呼ばれたりするものだ。

典型的な求人票の例をあげよう。

求人票の内容は、内定時に別の条件が明示されなければ、そのまま入社後の労働条件となる可能性があるものである。そのため、上の例のように、賃金はもちろん、仕事の内容や、仕事の時間、休憩時間や休日の決まりがわかりやすく書いているのが望ましい。

一方で、このような求人票はどうだろうか。

まず、休日や休暇についての情報がなく、肝心の給与と勤務時間についても、不明な点が多い。店舗の開店時間や閉店時間が店舗によって異なるらしいが、シフト制のもとで実際に1日何時間働くかわからないし、「残業手当」なるものの説明も不十分である。

このような求人票では自分の労働条件がほとんどわからない。実は、それどころか、この求人票には典型的な「求人サギ」の手口が潜んでいるのだ。

■手口1 給与の水増し ――「営業手当」「残業手当」「勤務手当」等々(固定残業代)

給与欄の「注意書き」と「手当」に注意

この「よくわからない求人」の例について、まずは給与の欄に着目しよう。大卒で23万円と高めに設定されているが、額だけ見て安心してはいけない。注意書きもよく見る必要がある。

注意書きには「30時間分の残業手当を含む」とある。ということは、月30時間までの残業に対して払われる残業代は、この23万円の中に入っているということだ。このように一定の残業代をあらかじめ給与に含み込ませた給与体系を「固定残業代制」という。

ここで疑問が生じる。23万円のうち、いったい何円がその「残業手当」として払われているのか? 定時の基本給は何円なのか?

この求人票にはそれが明記されておらず、まったくわからない。

実は、このような求人は違法である。なぜなら会社が残業代を含んだ給与支払いをするためには、その給与額のうち残業代が何時間分で何円なのか明らかにしなければならないからだ。また、その場合であっても、規定の残業時間(今回の場合月30時間)を超える残業が行われたときには、超過分の残業代が別途払われなければならない。

つまり、上記の求人の内容のままだと、会社は法律上、残業時間全時間分の残業代を23万円とは別に本来は支払わなければならない。

しかし、現実にはこうした「固定残業代制」を悪用し労働者を定額で「使い放題」する企業は多い。つまり一定の「手当」さえ払えば何十時間、何百時間残業しようとも、追加で残業代を払わない、というやり方だ。

会社がわざわざこのような労務管理をとる理由は明白で、ひとつが見かけの給与高くみせ、入社希望者を増やすことだ。もうひとつが、残業代の支払いを曖昧にして、あたかも「合法的に」残業代を払わずに長時間労働に追い込もうとする意図である。

しかし繰り返すように法律上は、その給与には残業時間を含み込まれているので、実際の時間あたりの給与はかなり低く抑えられているし、残業代の支払いも、規定の残業時間を超えた分は払わなければいけない。

つまり、固定残業代制とは、始めから求職者を「騙すため」に採用されている制度なのだ。だからこそ固定残業代制はもっとも典型的な「求人サギ」と言われている。

ちなみに、固定残業代制の手当は「残業手当」や「固定残業代」という名前以外にも、「現場手当」「OJT手当」「営業手当」など無数にある。そのため、とにかく求人票に、よくわからない「手当」が書いてあったら注意が必要だ。

「手当」すら求人票に書かない企業の騙しの手口

また、最近ではそうした「◯○手当」とすら書かない求人も増えている。

ある不動産会社の事例をあげよう。

■case1新卒入社3カ月で、中堅不動産会社に勤める方からの相談
求人票には「基本給30万円+歩合給」とあり、勤務時間は「9時15分~18時30分」「完全週休2日制」となっていた。
ところが、実際には月150時間以上の残業を命じられた。入社後の給与明細には「基本給15万円」「固定割増手当15万円」との記載だけがあった。固定残業代については契約時の際にも説明がなく、契約書にも記載はなかった。

 

もはや、給与の実に半分が固定残業代となっている異常な事態だ。しかも求人の段階ではただ単に「基本給30万円」とあるだけで、残業に関する手当と一切書かない。明らかな「詐欺」である。

また、今度は大手コンビニのフランチャイズを運営する会社に新卒で入った人の事例を見てみよう。連載第2回でも紹介したケースだ。

大手コンビニとフランチャイズ契約をして15店舗ほど運営している会社に正社員として入った女性からの相談。求人サイトでは「月額20万円」「1日8時間のシフト制」「年間休日100日」とあったが、実際に採用が決まり契約書を交わすと、そこには基本給が15万円、ほかにさまざまな手当が含まれていて、手取りは「17.8万円」となっていた。

しかも労働時間は1日8時間のはずが実際には毎日8時から22時まで休憩もほとんどなく働いており、休日もまず週2日とれることはなく、年間100日には到底足りなかった。

「月額20万円」が「月額17.8万円」ここまで来ると単に「嘘」の求人である。

しかし、単に「騙された」ですめばまだマシかもしれない。実は、この固定残業代制度を「活用」した企業では、すでにいくつも過労死・過労自殺事件が引き起こされている。

有名なのが外食大手チェーン店を経営する大庄株式会社の「日本海庄や」での過労死事件だ。この会社では新卒社員を「月給19万4500円」として募集していたにもかかわらず、入社後にそこに「80時間分の固定残業代」が含まれていた。そして2007年には月300時間に迫る長時間残業の結果、入社4カ月の24歳の男性社員が過労死するに至っている。

違法な固定残業代制による「求人サギ」は現在、爆発的な広がりを見せている。2014年にブラック企業対策プロジェクトが、ハローワークのインターネットサービスを対象に行った調査では、これを導入している求人は180件あり、そのうち違法なものが139件も発見されている。