総合【日本発!起業家の挑戦】日本の採用をカジュアルに変える
Wantedly(ウォンテッドリー)は2012年に正式にサービスを開始したユニークな求人・採用プラットホームで、日本の採用方法をラディカルに変える。採用する人とされる人を平等な立場に置き、堅苦しい面接やその前の履歴書や職務経歴書の提出もなし。よりカジュアルに、オフィスにふらりと立ち寄って話を聞くのがウォンテッドリーにのっとったやり方だ。一時代前は転職も珍しかった日本での採用方法としてはかなり異例だが、ウォンテッドリーは新しい業界基準の先陣に立つといってよい。
私もウォンテッドリーを利用する顧客の一人だが、米国での採用をよく知る私でさえも、始めは履歴書なしのルールやそのカジュアルさに戸惑いを覚えたものだ。創業者で最高経営責任者(CEO)の仲暁子氏に、創業当初、法人に対してどのように導入を働きかけたのか聞いた。
◆営業が時間かけ説明
--どうやって大手企業にウォンテッドリーを試験導入するよう営業したのですか
「今ではNTTコミュニケーションズ、サントリー、ミクシィなどの顧客がいますが、初めのうちはほとんどの会社が履歴書なしの面接や採用という考えになじまず、どうすればよいのか分からないと言った感じでした。営業チームが時間をかけてプロセスを説明し、主要企業が何社かウォンテッドリーで採用を実際に成功させた後は評判が広がって営業はだいぶ楽になりました」
--とはいえ、ウォンテッドリーの採用プロセスは人事部が普通は反対するようなやり方ではないですか
「反対する人たちもいます。ですが、秀でたエンジニアを採用するのは今とても難しく、ウォンテッドリーは特にそれに適したサービスなんです。大企業はこれまでと同じ伝統的な手法に失敗してからウォンテッドリーを試してみよう、となるのです。切羽詰まった状況になって初めてウォンテッドリーに手を出すというのでしょうか(笑)。でも、実際使ってみてうまくいけば、大企業も使い続けてくれます」
--初めてサービスを使ったとき、あなたが私のオフィスを訪ねてきて、私たちのフィードバックをサービスに反映することに純粋に興味があるようだったので感心しました
「覚えています。私は、顧客をできるだけ個人的に理解することが大切だと思っています。ウォンテッドリーで募集中の『シゴト』を見てもらえば分かりますが、採用する人もされる人も給与や条件について話し合うのではなく、お互いのビジョンを説明し、話し合うことに焦点を絞っています。スキルや待遇ももちろん重要な要素ですが、プロセスの始まりはビジョンだと思います」
〈仲氏に初めて会ったとき、彼女があまりに控えめで謙虚なことから、そのアイデアがいかに画期的で社会を変える力を持っているか理解しているのだろうかと思ってしまったほどだ。しかし、彼女をよく知っていくと、この起業家が自分が社会を変えていることを意識的に理解してウォンテッドリーを経営していることが明らかになってくる。彼女には彼女のやり方がある。〉
◆仕事好きの母のように
--新卒で務めたゴールドマンサックス、それから初期メンバーとして働いたフェイスブック・ジャパンを辞めてウォンテッドリーを起業したのですね。その決断はどこから?
「定期的なお給料がなくなることが、最初は怖かったです。でも、母の影響があって奮起しました。大学の教授をしている母が長時間働くのを見て育ったんですが、母は目の前の仕事がすごく好きで楽しんでいました。私もそんな人生を送りたいと思いました。ゴールドマンサックスやフェイスブックではそれが得られないと気付くと、怖さは自然と薄れました」
--では、起業にご両親は賛成されたんですね
「実は、仕事をやめてすぐにウォンテッドリーを始めたわけではないんです。ゴールドマンを辞めてまず私は漫画家になりました(笑)。ずっとやりたいと思っていたことだったのですが、競争が激しい世界です。当時私は25歳で、1年だけ挑戦してみようと決めました。漫画家として大成するには力不足だと分かって、漫画家やイラストレーターが作品を投稿する場を提供するサービス「magajin」を始めました。それもあまり人気がでることはなく、結局フェイスブックに入社して半年ほど働くことになりました」
「素晴らしい会社でしたが、ソーシャルネットワークが次々に現れてきた頃でこの大チャンスを逃すわけにはいかない、また自分の手で何かやってみようと思ったんです。ウォンテッドリーを起業するころには両親はもう私の性格を分かっていたので、あまり気にしなかったようです」
◆直接より間接的に挑戦
--最近は起業する女性が増えてきています。女性にとって起業が特に魅力的だということはあるのでしょうか
「ときには女性であることが強みになります。女性がトップに立つ会社が成功している例はまだ日本ではまれなので、それだけでメディアの注目を集めることになりました。ですが、基本的なことで言えば、スタートアップの環境の方が一般的な企業の環境よりは公平だと思います。顧客は業界内の政治やジェンダーで評価せず、結果のみで評価してくれます。多くの女性にとって、それは新鮮であり、同時に難しい挑戦だと思います」
「ただ、最近私の気付いた傾向として、起業する女性の多くが会社を大きくすることにあまり関心がなく、少数精鋭のチームで働き続けたいと思っているようです」
--ウォンテッドリーのような会社が日本の社会的ヒエラルキー、ビジネス上の階層制度に挑戦しているのは素晴らしいことだと思います。階層をなだらかに広げることは日本全体にとって良いことですが、社会や人を変えようとするのは難しいことではありませんか
「日本社会には変えなければならないことがありますが、すでに確立した体制に挑戦しようとするなら、直接的にやってはいけません。間接的な方法を取らなければ。堀江貴文さんを見て、若い起業家の多くが、物事を変えたいときに頭から突っ込んでいって攻撃するのは賢いアプローチではないと学んだと思います。挑戦する相手には敬意を払わなければなりません」
--会社を経営することについて、やってみて一番驚いたことはなんですか
「会社が成長するにつれて、私の仕事がどれほど変わるかということですね。最初はプロダクトに集中していました。どんな機能を追加するかとか、顧客にとってより良くするにはどうすればいいかといったことです。私はスケッチしたり物を作ったりするのが好きな、根っからのプロダクト人間なのですごく楽しかったです。けれども、会社が大きくなってくると、企業文化やどうすればチームが効率よく働けるかといったことを考える時間が増えていきました。営業の人間ではありませんが、営業チームがどんな仕事をしているか理解して評価する必要もありました。プロダクトだけに集中していては、会社にとってよくありません」
--起業を検討している人にアドバイスはありますか
「最初からチーム作りを重視することです。最初の1年目はウォンテッドリーを私一人で軌道に乗せようとしていましたが、ほとんど前進しませんでした。才能ある人を集め、彼らが関わってくれて初めてプロダクトも営業もやっと軌道に乗ったんです。自分一人で全部やろうとしないことです」
既存体制を「ディスラプト」する革新を社会に起こすときに、相手に敬意を払い、間接的な方法でおこなうべきだという仲氏の発言にはなるほどと驚かされた。これは、孫子の兵法にも通じる考えだと思う。欧米のスタートアップは、現に力を持つ者に挑むとき、極力派手なファンファーレと空威張りで武装して正面から突入するような傾向があるが、日本でそのような方法が成功することは非常にまれだと言わざるを得ない。
大学生が手書きで履歴書を書いているような日本では、ウォンテッドリーの採用方法は突飛(とっぴ)にも見えるが、じわじわと着実に社会を変えつつある。そこには注目すべき戦術がある。先週、ウォンテッドリーはいよいよ採用プラットホームのAPIの提供を始めた。この会社からしばらく目が離せそうもない。
文:ティム・ロメロ
訳:堀まどか