頑張り女子をムカつかせる 「ワークライフバランス」という言葉

女性雇用頑張り女子をムカつかせる 「ワークライフバランス」という言葉

今回は「女性活躍推進」にまつわる謎のキーワード「ワークライフバランス」と「ロールモデル」についてのお話。

そもそもの由来はともかくとして、現状ではこのふたつは、女性のキャリア支援とかダイバーシティの文脈で語られることが多い。というか、必ず出てくるキーワードだ。もう、ほとんど「ワークライフバランスを制度的に整え、ロールモデルとなる女性を見つけて祭り上げておけば、働く女性の支援はそれでOKだ」と言わんばかりの勢いで語られる。

しかし実際にはこのふたつのキーワード、働く女性、特に高学歴、高キャリアのハイスペック女子に評判が悪い。少なくとも僕が知るハイスペック女子は、全員がアンチ・ワークライフバランスであり、アンチ・ロールモデルである。

当連載では過去3回にわたる「ハイスペック女子」シリーズで、女性活躍推進の見えない壁についてお伝えしてきたが、ワークライフバランスとロールモデルに関してもまた、女性活躍推進の見えない大きな壁ではないかと思われる。つまり、行政や企業がワークライフバランスやロールモデルを唱えれば唱えるほど、仕事に対して意欲のある頑張り女子は、嫌気がさしてモチベーションが下がるというわけだ。なぜか?

「ワーク」と「ライフ」は
別にすべきものなのか?

まずワークライフバランスについてだが、そもそもなんらかの使命感を持って仕事をしている人間、あるいは本当に楽しんで好きな仕事に打ち込んでいるような人間にとって、「ワーク」と「ライフ」の区別などない。これは男も女も関係ない、共通の価値観だ。

かつての「24時間、戦えますか?」のバブル期においては、「仕事は遊び、遊びは仕事」と言われ、ワークとライフは一体化したものだったが、同様の価値観を持った人間はいまでも多い。もちろん、置かれた仕事環境によってワークとライフの関係性も変わるが、好きを仕事にしている人、自分の仕事を愛して頑張っている人は、それこそ「24時間、戦いたい!」と思っている人間も多い。

昨今はコンプライアンスの観点から、またブラック企業批判を恐れて、とにかく社員に残業させないという方針の企業も多い。ちなみに、労働問題に関するこちらの弁護士サイトによれば、「1日平均11時間以上の労働」を超えて社員を働かせるとブラック企業認定になるわけだ。つまり、1日平均3時間以上の残業でブラック認定。月に20日勤務だとして、3時間×20日で60時間だ(ただし、労働基準法で定められている、ひと月あたりの残業上限は45時間と、これよりも少ない)。仕事大好き人間からすれば、この数字はあまりに少ない、もっと仕事させろ、と感じるだろう。

もちろん労働基準法というものがあるので、法律を超えた労働時間を推奨するわけにはいかないが、そのようなマインドを持っている人も多いのも事実だ。が、ここで言いたいことは労働時間のことではなく、ワークとライフの区別など考えない人たちもいる、ということ。頑張り女子のなかにはそのような人も多い。

それなのに「ワークライフバランス」と言われると、まるでワークとライフを別ものにとして考えろと、会社から強制されているかのような印象を受けてしまう。これが、ワークとライフを区別して考えない頑張り女子が、ワークライフバランスと言われるとイラッとくる理由だ。

「バランス」よりも「シナジー」を

ワークとライフの関係性については、近年新しいキーワードが登場している。それは「ワークライフシナジー」。「ワークとライフは別モノではなく、バランスを取るものでもない。お互いが影響し合い、高め合うシナジーを生み出すべきものだ」という考え方だ。確かにこのような感覚で、ワークとライフを関連づけているビジネスパーソンも多い。

たとえば僕もそうだが、マーケティング屋仲間は誰もが、日常生活のすべてをマーケティング的な視点で見る。プライベートで買い物に行ってもショップの棚の商品陳列(フェイス)はごく自然にチェックして、いま何が売れているかを探るし、個人的な趣味、たとえばランニングを始めたとしたらランニング市場について走りながら考える。子どもと公園に遊びに行っても、そこにはどのような層のファミリーが来ていて、どのようなファッションをしているかなどチェックする。とにかく頼まれもしないのに、常に市場分析やマーケティングプランを考えてしまうのがマーケティング屋という人種なのだが、これはどのような職業の人間も同じだろう。

どのような企業も社員のモチベーションをあげることが課題だが、そのためには社員個人の価値観と仕事をエンゲージメントさせることが最も効果的だ。いまの日本企業の多くはそれができていないから、以前、第81回にも書いたように、「社員のやる気が世界最低!」ということになる。

企業はそろそろ、ワークとライフの“バランス”ではなく、“シナジー”を考えた方がいいと思う。女性は男性と比較して、自分の価値観に合わない仕事や職場を我慢しないから、シナジーを謳わないと頑張り女子のやる気を削ぐことになりかねない。もちろん、社員のなかにはワークライフバランス志向の人間もいるが、要は、バランスもシナジーも共存できる「多様性」が必要だということだ。

そもそも、「ロールモデル」って必要?

「ロールモデル」も女性のキャリアの話にほぼ必ず出てくるキーワードだが、これもそろそろやめたほうがよいと思う。女性社員教育の現場からは、「社内にロールモデルがいない」という声がよく聞こえてくるが、それは当たり前の話であって、そもそも新しいことをやるときにロールモデルなどいるはずがない。男社会である企業のなかでの「女性の活躍推進」など、安倍政権になってから言われ出したことだし、いまの40~50代の女性部長や女性役員たちとは時代も社会環境も違うし、何より、若い女性たち自身の意識や価値観も違う。

それなのに(ほとんど無理矢理に)先輩女性社員を「ロールモデル」として祭り上げても、若い女性社員からすれば、まるで会社からその先輩女子の仕事の取り組み方から生活スタイルまですべてを真似しろと言われているような感覚に陥るし、ロールモデルにされてしまった先輩たちも後輩たちから「とても真似できません」「ああはなりたくない」みたいな陰口を叩かれて傷ついてしまう。ロールモデルは、若手も先輩も双方を苦しめているだけというのが現実だ。

また、同じ若手でも男性社員にはロールモデルなど押しつけないのに、女性社員にはなぜ押しつけるのか。これもまた、多くの頑張り女子をムカつかせている原因だ。気の利いた女性の論客は「女性にロールモデルはいらない」と発言し始めているが、そのような声を企業経営者は真摯にもっと聞くべきだと思う。

ロールモデルとはあくまでモデルであって、押しつけているワケではない、と反論したくなる人もいるかと思うが、コミュニケーションとはメッセージの「受け手」がどのように受けとめるかが重要。なので、女性の活躍推進の主要な対象者である若い女子社員が「押しつけ」と感じるならそれは押しつけであって、別のコミュニケーションを考えるべきだ。

また、そもそも「モデル」というものは、「これが典型的なカタチですよ」ということを提示するものなので、その意味でもロールモデルというのはやはりカタチを押しつけるものと言える。そこで、ビジネスパーソンにとってロールモデルがいかに無意味かを、もう少し具体的に語ってみたいと思う。

僕は若い頃からスティーブ・ジョブズに憧れて、大きな影響も受けてきた。しかし、だからといってジョブズをロールモデルとして捉え、彼のやることを真似しようとは思ったことはない。ITで起業しようと思ったこともないし、あのあまりに独善的な仕事のスタイルを真似しようと思ったこともない。ただ、ヒッピーカルチャーというジョブズの価値観の根底ある文化を、いかにして最先端のテクノロジーで商品として具現化して、世界を変えていったそのビジネスの捉え方、あり方に関しては大いにインスパイアされたし、自分の仕事を考える上での大きな指針にもなってきた。

つまり、ビジネスパーソンにとって必要なものは、ロールモデルではなく、「インスパイア」なのだ。自分をインスパイアしてくれる先輩や先達が必要なのであって、それはモデルではなく「メンター」なのだ。

ロールモデルよりも、
「メンティ」を求める女性リーダーたち

いまはさまざまな企業やNPOが女性リーダーの育成に取り組んでいる。そのために最も重要なことはやはり、ポテンシャルある人材に対して優れたメンターをアレンジし、「メンタリングの機会」を与えることではないかと思う。

たとえば、ヒラリー・クリントンが設立したNPO「ヴァイタル・ヴォイス」は、バンク・オブ・アメリカとコラボして、世界各国で女性経営者や女性起業家、ソーシャルビジネスを展開する女性事業家、NGO の女性リーダーたちを育成支援するための「グローバル・アンバサダー・プログラム(以下、GAP)」を展開している。10月には東京でも開催された。

選考を経て選ばれた11名の日本人メンティに対して、それぞれ一人の、それこそグローバルに活躍する女性メンターがつき、5日間にわたってみっちりとメンタリングするというプログラムだ。

「グローバル・アンバサダー・プログラム・ジャパン」に参加したメンバー 【写真提供:バンク・オブ・アメリカ】
10月12日~16日の5日間、メンティたちはさまざまなセッションに加え、 メンターとのマンツーマンのメンタリング指導も受けた 【写真提供:バンク・オブ・アメリカ】

メンティのなかには、ACEの岩附由香氏や、かものはしの村田早耶香氏といった社会セクターではすでに高い評価を得ているNGOリーダーも含まれていた。つまり、それだけ高いレベルの人材が選ばれたということだ。対するメンターは、欧米のグローバル企業でバイス・プレジデントを務めるなど、真にグローバル人材と呼べる高いキャリアの女性たちばかりである。

このような高いポテンシャルを持つメンティ女性と、優れた経験と治験を持つメンター女性が、5日間ホテルに缶詰となり、さまざまなセッションとメンタリングを行う。その結果、メンティたちが得たものは非常に示唆に富むものだ。

たとえば、メンティのひとり、株式会社Warisの代表取締役/共同設立者・田中美和氏は、高スキル女性のネットワークを構築し、そのキャリア支援を行っている。田中氏は、今回のGAP参加の意義を次のように語った。

「1対1のメンタリングシステムを受けることができ、自分の事業を見つめなおす機会となった。そして、自分たちのビジネスのパースペクティブが拡がった」

また、同じくメンティのひとりである株式会社リ・パブリックマネージング・ディレクターの内田友紀氏。企業、大学、行政との「共創イノベーション」というエコシステムの構築による都市イノベーションに取り組む内田氏も、GAP参加の成果を次のように語っている。

「創業時にはパッションだけで動いていたが、いまはその時期から次の段階にあり、問題解決のコンパスを持てない段階にいた。が、今回のプログラム参加によって、パースペクティブが拡がった。何が欠けているか、次に進むべき方向が見えてきた」

実は田中氏、内田氏へのインタビューは別々に行ったものだが、両人とも異口同音に「パースペクティブが拡がった」と答えている。実は、これこそがメンタリングの最大の効果ではないかと思う。どのようなパースペクティブが拡がったかはもちろん人それぞれだが、ビジネスパーソンとして成長するために最も重要なことは、この「パースペクティブの広さ」だ。

メンティ:田中美和氏(写真左)と、メンター:Gill Zhou氏(写真中央) 【写真提供:バンク・オブ・アメリカ】
メンティ:内田友紀氏(写真左)と、メンター:Mercy Corrales氏(写真中央) 【写真提供:バンク・オブ・アメリカ】

「女性の活躍推進」に最も必要な視点

僕は以前から「女性はなぜ、メガカンパニーを創れないのか?」という疑問、問題意識を持っている。そのことについては以前、第122回で書いたが、僕はメガカンパニーを売上高1兆円以上と定義している。このメガカンパニーをゼロから作り上げた男性起業家は数多いが、僕が知る限り、女性ではまだいない。それはなぜなのかという疑問だが、今回のインタビューでは田中氏、内田氏にこの疑問もぶつけてみた。

田中氏の回答はこうだ。「そもそも女性の起業家が少なく、確率論的な問題もあるが、女性のビジネスモデルが、ドラスティックではないということもある。スモールビジネスを考えすぎている。ただ、最近のビジネスコンテストなどを見ても、大きなビジョンを持つ女性が少しずつ登場してきているので、今後は女性によるメガカンパニーもきっと生まれると思う」。そして内田氏も「女性がメガベンチャーを作れないのは、男女の性差よりもパースペクティブの問題」と回答した。やはりパースペクティブの広さが重要ということだ。

また、内田氏は「そもそも女性は、自分のハートに刺さった課題に関しては、そのパッションを解き放つときのエネルギーが非常に大きい。そのとき、女性起業家の事業も大きく拡がると思う」と語った。実は、そのパッションを解き放つのもまた、メンターの仕事だ。その意味でもやはり、メンターの役割は重要なのである。

GAPのシニアディレクター:Vital VoicesのZoe Dean-Smith氏。 【写真提供:バンク・オブ・アメリカ】

このプログラムのシニアディレクターであるヴァイタル・ヴォイスのゾーイ・ディーン・スミス氏は、「マンツーマンのメンタリングシステムによる、実践型プログラムが自分たちの強みである」「メンターとメンティのマッチングは、専門性の具体的一致ではなく、その事業の発展に必要な能力を最も伸ばせる組み合わせを考えた。メンティたちを真にエンパワーメント、エンカレッジできるプログラムをめざしている」と語ってくれた。

この視点こそが、女性の活躍推進に最も必要で、もっとも有効で、若い頑張り女子たちが求めていることではないかと思う。最後にゾーイ氏はこうも語った。

「安倍政権が女性の活躍推進を打ち出している。このチャンスをぜひ活かして、女性たちは前に向かって進んでほしい」

僕も同感だ。