人材不足で増える30歳超の未経験者採用に潜む危険

総合人材不足で増える30歳超の未経験者採用に潜む危険

ポテンシャル採用とは、実務経験がない、または少ないと思われる場合でも、実務経験に準ずる知識または意欲を評価して、人材を採用することを指します。採用の可否を判断する場合は、主に意欲と人間性、これまでの仕事に対するスタンスが大きく作用します。

若手人材の不足に伴い、中途採用においても「即戦力キャリア採用」にこだわらず、こうしたポテンシャル採用を打ち出す会社が年々増加しており、今後さらに広がるものと見られています。

では、そんなポテンシャル採用で入社した社員が増えていく中で、受け入れる職場では問題が起きていないのでしょうか。今回は、ポテンシャル採用で入社した中途社員の問題について、みなさんと考えてみたいと思います。

「即戦力」がなかなか採れない!
企業で高まる人材不足の危機感

そもそも新卒採用は、ほとんどの企業において「ポテンシャル採用」で行われています。「何がいまできるか?」ではなく、「将来何ができるようになるか?」の可能性、つまりポテンシャルを評価します。ゆえに面接官は「学生時代頑張ったこと」を聞いて、努力に注目。結果ではなく、プロセスを重視するのです。

ただ、中途採用となれば状況は違います。会社は「即戦力」として期待するキャリア採用を望みます。当然ながら、これまでの仕事での成果や備えているスキルが採用の可否を大きく左右します。採用できれば、研修などもわずかで済ませて、現場に配属。即戦力としての成果を誰もが期待します。ところが、求人倍率が上がり、人材不足が深刻になってくると、キャリア採用では十分に人材を確保できないようになってきます。

ならば、「中途でもポテンシャル採用を行うしかない…」と人事部は考えるようになります。実際、求人倍率「1.0超」が、ポテンシャル採用の増える分岐点と言われます。現場から「人材が足りない、誰でもいいから人をくれ」と切実な願いが舞い込むタイミング。さらに景気回復や団塊世代の大量退職に伴い、会社の採用意欲が高まっています。

なかでも景気停滞時、新卒採用に消極的だった会社は、現在深刻な若手の人材不足に悩まされていて、いびつになった社員の年齢構成を解消するため、若手(20代)の採用に力を入れています。ただ、20代で同業他社の人材かつ該当業務の経験者と、採用基準を事細かに設定すれば、

「対象となる候補者はいません」

と、人材採用会社からはつれない回答。求人広告を出しても応募がない悲しい状態になる場合が少なくありません。こうして時間だけが刻々と過ぎていきます。ついには業績に影響をきたす可能性まで出てきた会社も。ただ、人事部の採用担当は、「(採用によって)自分の人事評価が下がるのは困る」とキャリア採用以外の方法を避けたいと思っています。

エン・ジャパンの人事担当者向け中途採用支援サイト『エン 人事のミカタ』の調査(2015年9月)によると、「過去と比較して採用基準を変更した」という会社は3割に上るとのこと。必要なスキルや職歴などの条件を大幅に緩和し、「入社させてから教育する」つもりでポテンシャル採用に切り替える決断をする会社が出てきたのです。背に腹はかえられなかったともいえます。

ただ、この選択は正しいのでしょうか?

金融関連企業にもかかわらず
飲食、ネット業界から転職者が続々

ポテンシャル採用に切り替えると、採用プロセスが大きく変わります。まず、人事部が行う書類選考では、履歴書や職務経歴書によるスクリーニング(ふるい分け)を精緻に行うことがなくなります。

「とにかく、会って、熱意や社風に合うかで選ぶことにしよう」

と面接の機会を増やして、人物評価に選考基準をシフトします。ポテンシャル、つまり潜在的な力という、今後の成長の可能性が判断基準ですから、

<若いから鍛えれば何とかなるに違いない>
<学歴が高いから勉強して知識は学んでもらえるはず>

というザックリした人事部や役員などの感覚で、入社が決まりがちになります。一般的に30歳を超えてからの転職は、テクニカルスキル重視のキャリア採用が大半。キャリアの軌道修正も見込むポテンシャル採用では、20代の若手が中心です。

取材した金融関連の会社では、営業職を中心にポテンシャル採用を実施。やる気に加えて、コミュニケーション能力や社会人としての基礎力、自分の価値観をしっかりと持っているかなどの基準から選考しました。すると、

・外食サービス
・ネット広告

など幅広い業界から採用が行われることになりました。それまでは、銀行、生損保業界といった金融業界での就労経験がないと中途採用はしてこなかったので、大きな転換と言えます。もちろん、ポテンシャル採用された人材は新卒と異なり、社会人としての言葉遣いやマナー、コミュニケーションスキルは備わっています。さらに固有の会社カラーに染まっていない場合が多く、新卒採用と近いイメージで、会社の方向性を理解しながら会社と共に成長し得る可能性があります。

では、ポテンシャル採用された人材は、実際に職場で活躍できたのでしょうか?

ポテンシャル採用をしたけれど…
1年後には7割が退職へ

「異業種過ぎる企業から来た人材をどのように育成すればいいのか、頭が痛い」

そう嘆いているのは、不動産業界から転職してきた社員を受け入れた営業部門のマネージャーDさん。意欲的な部下(Sさん)が入社してきてくれたのは嬉しいのですが、

・金融知識を覚えるスピードが低い
・業務報告書を事細かに書くのが苦手

と金融業界で働くならば押さえておいてほしい業務が苦手。同世代の社員と仕事の質の面で大きな差があり、追いつくには相当大変そう。ところが、追いつくための努力をSさんはしようとしません。

「営業成績が出ればいいのですよね」

と、苦手分野を克服する気が全くありません。

Dさんは報告書や金融知識の重要性を伝え、苦手分野の克服をサポートしますが、Sさんが前向きに取り組む姿勢が見えないため、

「Sさんの仕事の仕方は当社のスタイルと合わない」

と、同僚たちからも冷たい視線を受けるようになります。それでも営業成績があげられていればいいのですが、半年を経過しても同世代に比べて半分以下のパフォーマンスしか出せていません。こうなるとポテンシャルはあるのか、周囲も疑問を感じてくるようになります。

その後、苦手分野の克服もなく、営業成績も向上しないのでSさんは退職することになりました。同じようにポテンシャル採用された人材は、1年後に7割近くが退職していました。果たして、採用基準を変えてまで、ポテンシャル採用を行う意味はあったのでしょうか?

ポテンシャル採用を成功させ、会社で活躍してもらうことは簡単ではありません。採用基準から「同業界の経験」は消えますが、それに代わる厳しい基準、例えば問題解決力や職場適合力などがあるのか。さらに「異業種への転向=キャリアチェンジの大変さ」を伝えて、それでも転職する覚悟があるのか、まずは確かめるべきでしょう。

ポテンシャル採用に踏み切っても、採用数が劇的に増えることはありません。多少、機会を増やすことができるくらいの発想で、丁寧な選考をする必要があるのではないでしょうか?