なぜソフトバンクは 研修を内製化するのか

総合なぜソフトバンクは 研修を内製化するのか

企業の人事部門では今、「研修の内製化」がひとつのキーワードになっている。どちらかといえばそれは、教育コストの削減という経営の要請が発火点になっているが、一方では内製化をポジティブにとらえ、成果を上げている企業もある。

6年ほど前から研修の内製化に取り組み、現在では100名を超える社内講師を抱えるソフトバンクは、その代表的な企業と言える。
内製化を成功に導き、成果を上げる秘訣について、ソフトバンク人材開発部の島村公俊氏に語ってもらった。

大前提は“仕事を通じた
経験が人を成長させる”

ソフトバンク人材開発部では、自社の事業戦略に合わせた人材を輩出していくことを大きなミッションとしています。

事業を動かすのは、まさに“人”であるので、必要な人材をどのように育成し、輩出すべきか、ということを考えることが大切になります。

そもそも、人材開発・人材育成というと、人事が社員を育てるというような非常におこがましい感じを受けます。

実際、われわれがいくら研修を実施したからといって、社員が理想の人材になるわけではありません。

あくまで、大前提として、“仕事を通じた経験が人を成長させる”ということに重きを置くことが大切だと思います。

したがって、いかに経験を積めるような環境を用意するのか、また、どのようにチャンスの幅を広げる施策を打てるのか、という視点で考えることが大切になります。

研修はあくまで成長するための下地やきっかけを与えるものであると考えています。

自ら手を挙げた人に
チャンスを与える

ソフトバンクの人材開発の大前提に、「自ら手を挙げた人にチャンスを与える」というポリシーがあります。

やりたい人が手を挙げてこそ、施策に参加できる権利が得られるという方針です。これが弊社らしい最もユニークなところだと思います。

ソフトバンクユニバーシティ(※以下、SBUと表記)は、グループ社員向けの研修機関という位置付けです。

経営理念の実現に向けた人材育成をしたい、という思いで、社内研修を中心に実施しています。

現在、SBUでは年間で受講者数の総計、約1万人の集合研修を実施しています。

約70コースの研修を提供していますが、カフェテリアのメニューのように豊富で、かつ自由にコースを選択できるようになっています。eラーニングも昨年実績で延べ140万回以上受講されています。

SBUでは、新入社員研修から新任の課長・部長研修などのいわゆる階層別のコースもありますが、中心となっているのは選択して受講できるビジネススキル系の研修です。

内容は英語系や統計学、マーケティング論など、自分に足りないスキルや補いたい能力を、いつでも学べる環境を整備しています。

自分がプレゼンテーションのスキルを鍛えたいと思ったら、いつでもその研修が受けられますし、もっとコーチングスキルを磨きたければ、コーチングの勉強もできるわけです。

他の多くの企業では、新入社員研修を比較的長期間実施した後、数か月後にフォロー研修を行い、その後、主任になったら研修、係長になったら研修というように、その後もずっと役職や段階ごとに研修が用意される、というのが一般的かもしれません。

しかし弊社の場合は、こうした階層別の研修というものを、かなり少なめにしています

「自ら取りに行く社員」の学習する環境を突き詰めて考えていくと、自らが学びたいスキルメニューを用意し、いつでも受講できる環境である体制の方がより合理的だと考えているわけです。

他社と比較すると人事制度も「グレード認定制度」を導入しており、これは職能型ではなく、職務型なので、年齢に関係なく、この職務を遂行できる人にグレードが付いていくという制度です。

「5年勤務したら、そのうちの何割かが全員主任になります」というような、枠で管理する人事制度とは異なり、若くても活躍する場が多くあり、チャンスは全員に与えられています。

そのため、その人が必要としているスキルや能力も、個々によってまったく異なっています。

そういうこともあり、われわれの場合においては、自身に足りないものを自ら取りに行くという方式のほうが有効だと考えているわけです。

また、人材育成の基本は、OJTだと思いますが、非常に忙しい昨今では、常に上司や先輩が側にいてくれて、いつも教えてもらえる環境が存在しているかというと必ずしもそうとは限りません。

そういう時に、自ら学習して状況を打破しようとする前向きな社員に、OFF-JTの場を通じてさまざまな学習機会を用意しておくことはとても大切だと考えています。

また、ライフスタイルに合わせ、集合研修だけでなく、モバイルでいつでもどこでも学べるなど、多種多様な学習形態がそろっていることも社員の学びたいという欲求に応える意味で大事だと考えます。

ソフトバンクが
研修を内製化する理由

ソフトバンクの内製化の大前提として、まず初めにお伝えしたいのは、ソフトバンクグループの特徴の一つは、人材の「多様性」であるということです。グループ全体で約7万人の従業員がいます。

これだけの人材がいれば、能力の高い人材や、さまざまな知識・経験、ノウハウを持った人材が数多く存在します。

個々の知識・経験、ノウハウをどう成長させ開花させていくのか、また、それを事業の成長へとどのように結び付けていくのかということを考えながら、同時に、彼らの経験やノウハウを社員間で学びあう風土をいかに醸成していくかを考えています。

これらの考え方をベースに、2009年に研修内製化を本格的にスタートさせ、それに合わせて「ソフトバンクユニバーシティ認定講師(ICI)制度」を立ち上げました。

 

  • ※1Internally Certified Instructor

 

それまでは外部の講師による研修を行っていたのですが、異動してきた当時の上司が社内のリーダーシップ研修を見た際、研修内容は体系立っていてよいかもしれないが、ソフトバンクらしいリーダーシップをとことん学べるものにしたほうがいいのではないか?という疑問を抱いたことが研修内製化のきっかけとなりました。

ソフトバンクらしいリーダーシップを体現できている人に現場の経験を交えて話してもらうことの方が、より実践的で、効果的なのではないかと考えたわけです。

よくよく社内を見渡すとそのような人が多数いることに改めて気がつき、研修内製化のスタートをきるきっかけとなりました。

実際に研修内製化がスタートすると、やはり実践的な経験に裏打ちされた人を社内講師にしてよかったとすぐに思いました。

たとえばマーケティングを業務としてやっている人、あるいはやっていた人が講師になりますから、大変リアリティのある内容になるわけです。

知識として知っているだけでなく、実際に業務として経験ある人が教えている点が、大きなプラスになります。

これは、今まで外部研修を受け慣れていた社員にとってもかなりインパクトがあったようです。

受講者は知識を学ぶのではなく、使える能力を得るために研修を受けにくるわけです。社員にも非常に喜ばれています。

実際に、研修のアンケートでも、外部講師より社内講師のほうが満足度や評価が高いという結果が出ています。

外部講師の方は研修のプロで教え方も大変上手いですが、その業務のプロではない、ということかもしれません。

現在では総勢100名を超える社員のみなさんが社内講師として認定されています。

基本的にはボランティアに近い形での参加ですが、ソフトバンクを良くしたいという想いを持った方々が集まっており、研修内容も非常に優れています。

次回は、より具体的に内製化のプロセスについて述べることにします。