終身雇用を謳うことが誠実でなくなった時代に、 人と企業はいかに信頼関係を結ぶか。

総合終身雇用を謳うことが誠実でなくなった時代に、 人と企業はいかに信頼関係を結ぶか。

事業の栄枯盛衰の速い時、もはや終身雇用を約束できる企業は皆無である。では、働く人と企業との関係は単なる取引関係になってしまうのか。シリコンバレーで実践される雇用形態を紹介した『ALLIANCEアライアンス』は、ポスト終身雇用の時代のひとつの解を示している。

 

「仕事選び」が「会社選び」にすり替わる

大学4年の就活生の相談に乗っています。この学生の悩みは、やりたい仕事が分からないこと。働いた経験がないのでやむを得ない部分もあります。そして、興味のありそうな企業に応募しようにも、その企業に入ってどんな仕事をするのか皆目想像できないのが2つ目の悩みです。営業をするのか、企画をするのか、営業と言ってもどんな製品を売るのか、どの地域に行くのか。働く場所や仕事の中身を決めずに募集する企業とどうつき合ったらいいのか悩んでいます。

この悩みはある意味、正しい仕事選びのプロセスから生まれているのではないでしょうか。「仕事選び」がいつの間にか「会社選び」にすり替わってしまう例が実に多い。

日本社会全体もこの傾向に追い打ちをかけてきました。終身雇用が前提の社会では、どの仕事をするかより、どの会社に属するかが重要。仕事は問わず組織に忠誠を尽くすのが当然で、「やりたい仕事」を声高に叫ぶことは、組織への帰属意識の低さを問われかねません。

多くの企業も「一人ひとりの個性を尊重する」と宣言していますが、無意識のレベルで帰属意識を求めているのです。働く側も無意識のうちに、働く組織への帰属意識を高める圧力がかかっています。

その一方で、企業も終身雇用を約束できない時代になりつつあります。22歳の若者をこれから40年近く、その人に相応しい仕事を与え続けることができるのか。そもそもその企業が40年後も生き残ると胸を張って言い切れる経営者はいないでしょう。むしろ、そちらの方が誠実で、言い切れる経営者がいたら不信感すら覚えます。

終身雇用が約束できないからと言って、企業と人との関係が労働契約のみで結ばれた取引関係では、あまりにも寂しすぎます。将来はお互いに約束できないとしても、ともに同じ組織の価値を共有する相手として信頼関係で結ばれていたいものです。

「アライアンス」の考え方が、ポスト終身雇用の代案となるか

リンクトインの創業者、リード・ホフマンらが書いた『ALLIANCEアライアンス』を編集しながら、本書はこのようなポスト終身雇用時代の1つの解を提示していると感じました。本書でいう「アライアンス」という雇用形態は、企業と人が対等の対場に立つことが前提となります。そして両者で話し合って、お互いが必要とするものを探し出し、それに応じた職務と期間を「約束」することです。

ここでの「約束」は終身の雇用でもなく忠誠心でもありません。期待された仕事を提供することと、期待された成果を出すことです。この約束を交わすためには信頼関係が必要で、それは両者が守ることでさらに深まります。

このように仕事で築いた信頼関係は簡単には崩れないでしょう。本書でも、辞めた社員と会社との間の「終身信頼」関係が生まれることで、お互いが組織を超えたネットワークで結ばれることが示されています。

このアライアンスの仕組みは、いまの日本企業ですぐに導入するには超えるべき課題が多いです。それでも、この考え方から広がる発想の可能性は無視できません。

まず人と企業が対等な立場に立つためには、働く人は自分がやりたいことを明確にしなければなりません。どの組織がよさそうかではなく、自分が何をしたいのか。さしてそのためのスキルを持ち合わせているか。企業の側も、抱える事業への明確な方針や戦略が必要になります。なんとなく続けている事業に、明確な意思をもった人に働いてもらうことは難しいし、将来この事業をどうしていきたいかが問われます。人も企業も自らの意思を明確にするのは、厳しい一面もありますが、自分のやりたいことを声を大にして言える関係からは健全なサイクルも生まれるに違いありません。

もう一方で、企業の境界線がますます曖昧になると思われます。働く人の流動性が生まれ、かつ辞めていった社員とのネットワークがあれば、新しい事業を起こす際に、自社の社員のみで実施しようとする発想は希薄になります。事業のオーナーは企業であっても、それに従事するのはその企業の社員のみならず、多様な人が集まる。そんな人と企業と事業の関係が生まれるのではないでしょうか。

働く人も複数の企業の仕事を同時にやる場合も珍しくなくなります。事実、いまでも企業内で複数の仕事を掛け持ちしている人は存在します。人と人、あるいは人と企業が信頼関係のネットワークで結ばれれば、企業=事業=従業員という関係がもっと柔軟に変化するでしょう。

終身雇用という安定した仕組みがなくなる怖さはもちろんあります。しかし、事業環境の変化が来てもこの仕組みを守ろうとすることで若年層の雇用が犠牲になっている、という弊害も看過できません。『ALLIANCEアライアンス』で示された考え方は、すべてが働く人に優しいわけではありませんが、議論に値する仮説ではないでしょうか。読んでいただけた方に、感想を聞かせていただければ幸いです。(編集長・岩佐文夫)