総合超売り手市場で続々と生まれる 求人サイトの気になる「マッチング力」
今や、キャリアアップを求めての転職は珍しくなくなった。空前の人手不足も相まって、求人サービス業界では新興の転職サイトが次々に出現している。かつてないほど転職サービスが活況を呈する背景には、何があるのか。多種多様な人材を企業とマッチングさせる、その徹底したコンセプトとは?「今どき求人サービス」を徹底分析する。(取材・文/プレスラボ・梅田カズヒコ)
指先一つで手軽に個人の志向に基づいて求人情報を検索できる現在、労働市場がかつてないほど「売り手市場」となっている。6月15日付けの日経新聞の記事によると、派遣社員の時給は2年連続で前年同月を上回り、求人数も過去最高に。背景には、アベノミクス・円安効果での景気回復がある。とりわけマイナンバー制度の導入に伴い、IT関連の引き合いが活発になっているようだ。
また、同記事では求人サービスのインテリジェンスが発表した転職求人倍率が1.21倍(IT・通信分野に限れば3.1倍)、求人数全体も前年同月に比べて23.9%増加し、2008年から始まった同調査のなかでは過去最高を記録していることがわかったという。
そんななか、求人サービス業界は絶好調だ。筆者の周囲の経営層や人事関係者に聞いても、「人不足が深刻だ」という声をよく耳にする。また、「いい人であれば高額でも採用したい」という声もよく聞くようになった。これまで、まずは面接をして良さそうな人を入社させ、OJTで育てて――という人材育成を行ってきた企業でも、「即戦力が欲しい」「他にない有能な人材が欲しい」と、より実践的な経験を積んだ人を採用する傾向が高まっているように感じる。
そうなると重要になるのは、人材と企業とのマッチング。企業が人材獲得のためにエージェントなどを活用するケースが増えている。読者の中には「自分も転職エージェントからの勧誘を受けたことがある」という人もいるかもしれない。自分でなくても、勧誘を受けた経験のある人が知り合いに1人はいるのではないだろうか。
LINEで求人、SNSの友達ツテで転職
新時代の求人サービスが続々登場
世間では、ベンチャー発のこれまでにない発想を持つ新しい求人サービスが増えている。転職市場が好況なことに加えて、労働現場がよりきめ細かいスペックや属性を持った社員を欲していることなどがその理由だ。具体的な事例を挙げながら、徹底分析してみよう。
運営:ウォンテッドリー
2012年サービス開始。元ゴールドマン・サックス、Facebookの肩書きを持つ経営者が、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を活かした形の転職サービスを行っている。
運営:AUBE(インテリジェンスとLINEによる合弁会社)
2015年サービス開始。LINEバイトをフォローするとユーザーにバイト情報がチャット的に配信される仕組み。アルバイトを行う若い層の取り込みを狙っているように見える。
運営:ビズリーチ
2015年サービス開始。複数の求人サイトの求人記事を検索できるサービス。複数のサイトを横断しながら探せるのが強みだ。また、企業は掲載料無料で求人広告を掲載できるというメリットもある。
運営:リブ
20015年サービス開始。「女性の社会進出」を掲げるエージェントサービス。すでに有名企業からの「応援」が集まっている。
これまでに挙げたサービスは「Wantedly」をのぞくと、全て2015年に始まったサービスである。これだけを見ても、現在求人市場が活況を示しており、サービスも多様化していることがわかるだろう。
バリキャリからゆるキャリまで
女性ニーズに応える多様なサービス
今年春に発表された安倍政権の成長戦略では、「女性が輝く日本」について語られた。2020年までに、指導的地位を女性が占める割合を30%以上とすることを目標に掲げている。優秀な女性人材を社内に取り入れる動きが活発化しているためか、「女性」をターゲットとした転職サービスが増えている。
前述の「LiBz CAREER」(リブ)は“女性が活躍する社会を創る”と謳っている通り、まさに「202030」の方針につながるサービスだ。同様に「ビズリーチ・ウーマン」(ビズリーチ)など、キャリア志向の高い女性と、彼女らを活用したい企業とをマッチングするサイトが存在感を増している。
一方で、女性の生き方が多様化する中、100人女性がいれば100通りのスタイルがあるといっても過言ではないくらい、女性の働き方も様々だ。前出のいわゆる「バリキャリ女性」とは対照的に、ワークライフ・バランスを大事にしつつ、ゆるやかなキャリア形成を目指す「ゆるキャリ女性」は少なくない。
そんな女性たちの支持を集めるのは、女性特化型転職サイトの草分け的存在とも言える「女の転職@type」(キャリアデザインセンター)だ。大手~ベンチャーまで女性を積極採用する求人情報を多数掲載している。「正社員として成長したい女性のための転職サイト」とあるが、契約社員やパートなどの求人情報も多い。
年収、勤務地などの基本条件による検索はもちろん、「相性検索」機能では「外出する仕事の割合が多いほうがよい」「安定的な報酬がよい」などの志向に基いて、自分がその職場環境に向いているかをチェックできる。結婚・出産などのライフステージに応じて働き方を変えたい女性に配慮したきめ細かいサイト設計は、求人のミスマッチを減らす効果もあると言えよう。
女性の転職サービスといえば、「とらばーゆ」(リクルート)も依然として求人を多く行っている。こちらは「職種」欄の1番上がオフィスワーク(事務・経理)とあるように、一般職の求人がメインだ。
このように、現在女性の転職サービスには、それぞれのキャリア志向やワークライフバランスに合わせて、多様な選択肢が増えている。
LINEでアルバイトを見つける時代
大学生層の取り込みも視野に
このような、多様な求人サービスは、アルバイトのような雇用形態にも発展している。次に雇用形態をアルバイトに絞ると、たとえば今年2月にLINEアプリ上でサービスがスタートした「LINEバイト」(AUBE)がある。バイト求人情報メディア「an」(インテリジェンス)内の10万件を超える情報が掲載されている(2015年2月時点の情報)。
LINE利用者であれば新規登録は不要。公式アカウントを友達に追加しておき、エリアや地域、職種、給与などの条件や、「服装・髪型自由」「時間・シフトが相談できる」「好きなときにお金がほしい」などのこだわりで検索すると、検索履歴に応じた最新の求人情報をプッシュ通知で教えてくれる。
1人ひとりの希望条件にマッチするバイト情報を随時配信してくれるので、主体的に検索しなくても自分に合った仕事の情報が手に入りやすいのが特徴だ。LINE上で友人に情報を共有しやすいことも影響しているのか、サービス開始から2ヵ月で利用者は200万人を超えた。
求人サービス界のグーグル?
求人検索エンジンの盛り上がり
一方で、ターゲットを絞り込まないサービスも登場している。全業種・職種・雇用形態を対象にした、企業・求職者双方が完全無料で使える「スタンバイ」(ビズリーチ)。「日本最大級の求人検索エンジン」として、5月にサービスがスタートした。求職者は常時約300万件の求人情報を閲覧でき、サービス内で履歴書を登録しておけば簡単に応募できる(スタンバイ独自の履歴書を利用できるのは、一部の求人情報のみ)。
企業は求人作成から公開、応募者情報の管理、採用までの全てのプロセスで、初期費用や利用料、広告掲載料、制約手数料を一切かけずにスタンバイを利用できる。しかも、求人情報の掲載数や掲載期限には制限がない。さらに、採用ページはインターネットを使える人であれば、シンプルな管理画面を使い5分程度で完成する。
このような求人検索エンジンでは、リクルートも「インディード」という同様のサービスを行っている。こちらは米国で誕生したサービスが2009年に日本に上陸し、2012年にかつての親会社であるニューヨーク・タイムズからリクルートがサービスを買収している。世界55ヵ国以上、28言語で事業を展開しており、今後このようなサービスもさらに一般化してくるだろう。
SNSを使った求人も増加中
新時代のコネクションの形
企業と求職者が共にハッピーなサービスは、他にもある。6月に日経新聞から約1億円の資金調達を行ったことが話題になった、SNSを活用した求人サービス「Wantedly」(ウォンテッドリー)だ。2012年2月に誕生した同サービスは、9000社を超える企業と月間60万人の求職者が利用している(2015年6月時点)。
同サービスの特徴は、会員にFacebookアカウントでの登録を推奨していること。企業の求人ページには「応援」ボタンがあり、求人情報をSNSに投稿できる仕組みが備わっている。つまり、良質な求人情報を掲載しておけば、会員のSNSを通じて情報が拡散しやすくなるのだ。
また求人ページには「社員とあなたの共通の友達」として、その会社の社員と求職者との「共通の友達(Facebook上において)」とその人数が表示される。これを見て企業に親近感を覚えたり、働いている人や雰囲気が自分に合うかどうか、なんとなくわかる効果もある。
気になる会社には「話を聞きに行きたい」ボタンから応募して、会社に遊びに行き、採用担当者と1対1で気軽に会うことも可能だ。堅苦しい面接から入るのではなく、企業やそこで働く社員の人となりを軽い気持ちで見に行ける。
企業にとってのメリットも大きい。最大月3.5万円で求人情報は何個でも掲載可能、成功報酬も不要だ。今、中小企業を巡る採用状況は厳しい。大手求人サイトに求人情報を掲載する場合、一度に数十万円かかるほか、掲載期間も限られている。
大きな投資をしても、希望に合った人材を獲得できなければ、採用コストはムダになる。完全無料のスタンバイや月3.5万円のウォンテッドリーは、採用に行き詰まった企業に希望を与えるサービスと言えるだろう。
このようにSNSを活用としたサービスでは、「LinkedIn」(LinkedIn)も忘れてはならないだろう。ユーザーは世界で3億人を越え、このSNSを使用して転職するケースも増えている。
新卒採用の条件はたった2つだけ
多様な人材の確保を狙うリクルート
ここまで求人サイトや、転職サービスを紹介してきたが、印象として「企業はあらゆる手を尽くして人を探している」ということが透けて見えるだろう。どうやら掲載料を払って求人広告を掲載すれば人が来るような時代ではなくなったようだ。
特に、各社から引き合いのある優秀な社員候補は、新卒・中途に限らず各社で取り合いとなるので、あらゆる方法で社員を求めている状況となっている。
また、利用する求人サービスを変えるだけでなく、そもそも既存の採用条件を大きく見直す企業も増えてくるのではないか。自身も求人業界をリードしてきた老舗のリクルートでは、自社の新卒採用についてこんな条件を発表した。
「RECRUIT革命」(リクルートホールディングス)と名づけられた2016年新卒採用の応募条件は、「2016年の4月に入社できること」「30歳以下であること」の2つ。「たったこれだけ?」と戸惑うが、多様な価値観を尊重する目的があるという。
さらに「面接ではスーツを着なくて構わない」「手書きの履歴書は不要」「既卒でも応募可」「遠方の場合、オンライン面接可」「入社後の副業可」など、他の企業には見られない5つの項目を挙げる。
既卒はもちろん、就業中の人でもフリーターでも、とにかく30歳以下であれば応募資格がある。新卒時の就活に失敗した人材などのなかから、新社会人という意味での「新卒」にこだわらず、広くダイヤの原石を探そうという試みであろう。
こうして昨今の求人サービスの隆盛ぶりを俯瞰すると、全体として見えてくるのは「働く価値観の多様性」であると共に、「企業が求める人材の多様性」とも言えないだろうか。数年前にダイバーシティという言葉が流行したが、多様な働き方を希望する労働者を、企業がダイバーシティ的に活用しようとしていく時代がいよいよ実現しつつあるのかもしれない。
あらゆるバックボーンを持った人材の違いを積極的に活かし、変化・多様化する顧客のニーズを捕まえやすくするというのが、ダイバーシティの主旨だ。ひょっとすると、これまで最も企業に毛嫌いされがちだった人材が、最も採用したい人材に転換するかもしれない。
斬新な求人サービスは、これからも増え続けることだろう。