総合日本企業は人材確保がさらに困難に? 超売り手市場のASEANでは全外資系企業がライバル
アジア――特にASEAN諸国――に進出する日本企業は、急増している。その中で、早急の課題となっているのが、「人材確保」だ。多くの外資系企業がASEAN諸国に進出している今、優秀な人材を確保することが、現地ビジネスの成功を左右すると言っても過言ではない。では、人材確保のポイントとは何か。ジェイエイシーリクルートメントで海外進出支援室 室長を務める佐原 賢治氏は、先ごろ開催された「アジア経営者ビジネスサミット 2015」において、「日本企業のアセアン展開と人材確保の要点」と題し、講演を行った。
執筆:鈴木 恭子
東南アジアで日系企業が抱える人事課題
ジェイエイシーリクルートメント 海外進出支援室 室長佐原 賢治氏
ジェイエイシーリクルートメントは、アジア10か国24拠点で、日系企業採用を支援する人材開発会社である。同社で海外進出支援室 室長を務める佐原 賢治氏は、同社が取引先である日系企業子会社約3,500社を対象に行ったアンケート調査「東南アジアにおける日系企業の人事課題」の結果を基に、人材確保において各社がどのような問題を抱え、どのように解決しているのかを解説した。
同調査は、タイ、マレーシア シンガポール インドネシア ベトナムの5カ国にある日系企業を対象としたものだ。それによると、73%の企業が、「人事面での最大の課題は人材確保/育成である」と回答したという。さらに、人事面での具体的な課題について聞いたところ、いちばん多かったのが、「マネジメントクラスの育成が進まない(71ポイント)」で、2位は「スタッフワーカークラスの人件費の上昇(36ポイント)」が挙げられた。
また、人材の中でも、特に確保が難しいのは「幹部候補者」であるという。その理由として佐原氏は、「幹部候補者のスキルが採用側の要求と合致していないこともあるが、採用基準が異なることも影響している。日本企業の場合は、管理職になる前の若手を採用し、管理職に育てていく。しかし、ASEAN諸国では、幹部(管理職)をいきなり雇用する。実は、こうした違いで、日本企業に人が集まらない」と指摘する。
現地幹部人材を採用する際の4つの留意点
その上で同氏は、現地幹部人材を採用する際の留意点として、1.“超売り手市場”であることを理解する。2.すべての外資多国籍企業がライバルであり、日本企業は給与面で不利な条件を提示していることを理解する。3.そもそも“管理職適齢期”の絶対数が少ないことを念頭に置く。4外資多国籍企業と比較し、日本企業は採用までの選考プロセスと意志決定スピードが遅いことを理解する、の4つを挙げる。
中でも致命的に不利なのが、外資多国籍企業との給与面での差だ。佐原氏は興味深いデータを提示する。以下は同社の「The Salary Analysis in Asia 2015(2015年におけるアジアの給与分析)」調査の結果だ。日本語力を不要とする求人で、サービス業/法人営業職における幹部人材の採用時給与を比較したところ、国によって若干の差はあるものの、日系企業の提示する金額は、総じて低い結果となった。同氏によると、部長以上の報酬ではさらに差があるという。
サービス業/法人営業職における幹部人材の採用時給与。日本企業は総じて低い。(出典:「The Salary Analysis in Asia 2015(2015年におけるアジアの給与分析)」ジェイエイシーリクルートメント調べ)
ASEAN諸国における日本企業の就職人気も、興味深いデータがある。2012年にジョブストリートビジネスコンサルティングが行った調査によると、「アジア7カ国における賞賛に値する会社トップ30」のうち、日本企業は2社しかランクインしていない(以下スライド参照)。少し前までは、ASEAN諸国にとって、日本企業はブランド力があった。しかし、最近では、韓国のサムスン電子やマレーシアのペトロナス、インドのタタ・グループなどもブランド企業として一定の人気を得ていることが見て取れる。
また、超売り手市場である上に、採用までの選考プロセスに時間がかかる日本企業は、「圧倒的に不利な立場にいる」と佐原氏は指摘する。同社が2011年に行った調査によると、日本とタイで、応募書類を提出してから内定が決まるまでの時間を比較した場合、1カ月以内に内定が出る比率は、日本では9.8%だったのに対し、タイでは58.9%だった。つまり、タイでは半数以上の人材が、就職活動を開始してから1カ月以内に次の仕事に就いている。何回も面接を行う日本企業は、それだけで不利になっているのだ。
「総論賛成各論反対」のグローバル化
キャリア/スキルのある人材の確保が難しい現状において、注目されているが日本にいる外国人留学生である。実際、外国人留学生を採用している企業は、増加傾向にある。経済同友会が公開した「企業の採用と教育に画するアンケート調査(2014年)」によると、2012年に外国人留学生を採用した企業は45.7%だったのに対し、2014年は52.3%に増加したという。
ただし、ここでも需要のミスマッチが起きている。日本学生支援機構が2014年に公開した「外国人留学生在籍状況調査結果」によると、日本にいる外国人留学生の比率は、中国が55.9%と圧倒的だ。次いで、韓国(10.0%)、ベトナム(8.0%)と続いているものの、日本企業の進出が多いタイとインドネシアからの留学生は、どちらも1.9%に留まっている。 さらに、外国人留学生の進路にも「日本企業の期待」と「留学生の要望」には微妙なズレがある。日本企業が外国人留学生を採用する目的は、「将来の海外法人要因として育成したい」からだ。しかし、留学生の中で「将来帰国したい」と考えている人材は、意外と少ない。2012年、厚生労働省が公開した「大学における留学生の就職支援の取り組みに関する調査」によると、「帰国して就職」と考えている大学生の割合は16.2%、「日本で就職」と答えた割合は、27.5%だった。
もう1つ、外国人留学生を採用する際に大きな障壁になっているのが、「二次面接」だと佐原氏は指摘する。「外国人の採用は、『総論賛成各論反対』である場合が多い。現場やトップは外国人社員の必要性を理解し、積極的に採用しようとする。しかし、営業や経理などの部門長クラスで『待った』がかかる。彼らもグローバル化が必要であるとの認識はあるが、面接で日本語がたどたどしかったり、あくが強かったりすると、『自分の部署でやっていけるのか』と不安になり、採用に消極的になるケースが多い」という。
こうした課題に対して佐原氏は、「言葉の壁で不安になるのも理解できるが、(言葉は)日本語ネイティブと同等のスキルを求めてはいけない。逆に、仕事の内容で言葉のプライオリティが低ければ、英語でもよいなど柔軟に対応すれば、採用できる人材に幅が出る」と語る。
外国人や留学生を採用することは、日本国内の社員に対しても効果があるという。例えば、言葉の壁への対策によって、既存社員の語学力を高めるきっかけになったり、働き方の違いを認めることによって、多文化への理解が進み、多様な考えや価値観を受け入れられるようになったりするからだ。こうした“副次的効果”は、企業がグローバル化を推進する上で、非常に重要になる。
佐原氏は、「日本国内での“内なるグローバル化”は着々と進んでいる」と指摘する。同社の調査によると、海外事業要員の中途採用は、2011年は100名だったのに対し、2014年には346名と3倍以上に増加しているという。「この傾向は、今後もさらに続伸するだろう。“内なるグローバル化”で、人材ポートフォリオを書き換えることも有用な手段だ。例えば、欠員が出たら外国人を積極的に採用し、社内の英語ができる人材の割合を高くするといった方法も考えられる」(佐原氏)。
「人材戦略は、日本国内と海外で複線的に行うことが重要だ」と佐原氏は説く。そのためには、ビジネスを中長期的視点で考え、グローバル人材を確保しなければならない。最後に同氏は、「従業員にとって魅力的な職場環境を構築することも、人材確保の大きな要員になる。お互いが成長する心構えで、ビジネスを展開してほしい」と語り、講演を締めくくった。

