「データを理解して採用を根本から変えたい」アトラエが進めるデータ活用

総合「データを理解して採用を根本から変えたい」アトラエが進めるデータ活用

アトラエは、600万人のソーシャルデータと、採用に関する人と企業の行動データを収集・解析し、人と企業の出逢いを生み出す採用サービスを提供しています。一体どのようなデータを取得し、どのように活かしているのでしょうか? 同社の岡 利幸氏にデータ活用や、サービスの価値を高めるための取り組みについて伺ってきました。

価値あるデータを蓄積し続けた6年間

アトラエは、インターネットを通じて、採用の支援をしている企業です。サービスは大きく、分けて2つ。IT・Web系に特化した成功報酬型の求人サイト「Green」と、ソーシャルデータと人工知能を活用した「TalentBase」です。

Greenは「ちくしょう!転職だ!」というコピーを目にした人も多いのでは?
Greenの「ちくしょう 転職だ」というコピーを目にした人も多いのでは?

 人と企業の出逢いを創出するために、どのようにデータを活用しているのか。同社の岡氏に話を伺ってきました。

株式会社アトラエ 取締役 ディレクター 岡 利幸氏
株式会社アトラエ 取締役 事業責任者兼エンジニア 岡 利幸氏

――ビッグデータを活用した採用サービスを展開していますが、データに対して具体的にどのように向き合ってきたのでしょうか?

岡氏:アトラエは2003年に設立した会社ですが、当初インターネットサービスはひとつもなく、データ活用とは無縁でした。2006年にGreenを立ち上げ、Webサービスに参入して初めてデータと向き合い、そこから地道にデータを蓄積し続けました。6年間の運用を経て、ようやく意味のある分析をするために十分なデータが揃ったと判断ができたので、本格的なデータ活用に乗り出しました。

――データの活用はGreenの構想段階から視野に入れていたのですか?

岡氏:そうですね。ただ、あくまでも、僕たちが最終的に実現したいのは人と企業の適切なマッチングであって、その手段として、データの活用が重要だと考えていました。Greenは採用が決まった時に対価をいただく成功報酬型のサービスなので、選考の進捗課程のデータを全て保有する必要があります。具体的には、誰が、どの求人に応募して、何回面接をして、何回面談をして、どの企業に内定したか、といったデータが一例です。

そういったデータを集めることで、どのような人がどのような企業と相性がよく、最終的にどのような企業に採用されやすいかが分かり、より本質的なマッチングを実現することができると考えていました。

人と企業が出逢うのためのデータとその活用方法

――どのようなデータをどれくらい蓄積するのか、目標は決めているのですか?

岡氏:具体的な蓄積目標は決めていません。ですが、「人と企業の適切なマッチング」という目的を達成するために必要なデータの取得にはこだわっています。一般的なECサイトのような、人がどんな商品にどれくらい興味を持っているかというデータと同様に、Greenでは人がどんな企業にどれくらい興味を持っているのかというデータを大量に蓄積しています。

ただ、Greenの場合は、たとえ人から企業に対して興味の矢印が向いていたとしても、企業がその人へ興味の矢印を向けていなかったら当然理想的なマッチングは生まれません。その逆もまた然りです。人と企業のお互いの興味の矢印を一致させて初めて、Greenは世の中へ価値を生み出すことができるのです。

少し話が逸れますがアトラエは、株式会社インテリジェンスの子会社を立ち上げた人間が創業した会社です。そのため人と企業がどのように出逢い、お互いがどのような心理状態の中、最終的にどのようにして採用決定に至るのか、という実際の現場でしか経験しないようなノウハウを保有しています。そのノウハウがあることで、初めてデータに意味を持たせることが可能になり、今まで難しいとされてきた、人と企業の興味の矢印を一致させるような適切なマッチングを生み出す仕組みが着実に整いつつあります。

よく誤解されるのですが、僕たちは人材紹介会社のトップコンサルタントが行っているようなマッチングを、データの活用によって実現できるとは思っていません。リアルなコミュニケーションと豊富な経験値に基づいたマッチングを生み出している真に優れたエージェントには、正直勝てないと思っています。逆に言えば、大半の人材紹介や求人広告の市場は十分狙えると感じています。

――御社にはGreenとは異なる、採用支援サービスがあります。そちらではどのようなデータ活用をしているのですか?

岡氏:「TalentBase」というサービスを展開しています。これは「JobShare」というサービスを3か月前に拡張リニューアルしたものです。もともとのJobShareは、ソーシャルデータを利用したソーシャルリクルーティングサービスでした。

人は、テレビや新聞などの一般的なメディアから得られる情報よりも、ネット上の口コミなどの集合知から得られる情報を信頼するようになっています。さらに、それらよりも自分が信頼する人から得られる情報をより重視する傾向にあります。この情報の構図を人と企業の出逢いに適用し、「この人が良いと言っている人・企業なら信頼できる」という出逢い方を可能にしたのがJobShareでした。

JobShareを通して人と企業の出逢いを生み出していく中で、ソーシャルデータにまつわる面白いことが色々と分かってきました。例えば、その人がどんなことに興味を持っているのか、どんな人と深い関わりを持っているのか、どんな人から興味を持たれているのか、周囲に対してどれだけ影響力があるのか、などです。人を多角的に理解することができるソーシャルデータの可能性に対する期待がどんどん大きくなっていきました。

一つのデータは軽くても、積み重なると大きな価値になる

――JobShareをTalentBaseにリニューアルされたのは何故ですか?

岡氏:僕たちが思い描いている採用の理想像は、「人や企業を理解するための情報が限りなくオープンになっている場があり、そこで適切な出逢いが生まれ続けている状態」です。それを実現するためにGreenやJobShareを運営しながら、未来の採用のあるべき姿を考え続けていました。

JobShareが持っていたソーシャルデータの可能性に気付き始めた頃に、私ともう一人のエンジニアの二人で、ソーシャルデータから様々な「意味」を抽出するという研究開発を開始しました。その研究開発によって「可能性」が「確信」に変わってきたことによって生まれたのがTalentBaseです。

――TalentBaseリリース後、実際の感触はいかがですか?

岡氏:現在、TalentBaseはテスト段階で、新しい採用手法に感度の高い一部企業に有料版サービスをご利用いただいている状態です。そのため、人と企業のトランザクションがとても多いわけではありません。ですが、サービス内での動きは活発なので、人と企業が出逢うために有効なデータは順調に集められています。

TalentBase(企業の管理画面)
TalentBase(企業の管理画面)

 TalentBaseは、ソーシャルデータからビジネスにおける能力や経歴、特徴などを抽出し、ビジネスプロフィールデータを生成することができるという仕組みを持っています。海外には既に近しい仕組みのサービスも存在し、採用にソーシャルデータやオープンデータを利用する事例が増えてきています。TalentBaseでは、Facebookログインをするだけで、上述したビジネスプロフィールデータを生成することができます。

さらに特徴的なものとして、友だちを気軽に評価し合う「評価ゲーム」を用意しています。「仕事が早いのはどっち?」「一緒に飲みに行きたいのはどっち?」といった質問に対し、友だち2人の中から1人を選択するというものです。リリースから3か月で既に2万件近い評価データが蓄積されています。

 一つひとつの評価データは小さな意味しか持たないかもしれませんが、それを大量に集められれば、十分に確からしいことが分かると思っています。実際に、僕に対する友達からの評価は200件を超えていて、そのデータを解析すると、技術力、熱意・体力、人間性への評価が高く、クリエイティブ、ルックスはあまり評価されていないことが分かります(笑)。友だちからポジティブな評価を受ける機会も意外にないと思うので「面白い」「もっとやってみたい」「自分って意外とこう思われているんだ」と楽しみながら使っていただけると嬉しいですね。

このようにソーシャルデータから個人データを生成したり、評価データを個人に蓄積したりすることで、多角的にその個人を理解することができると思っています。人を理解するためのデータを分解すると、主観的・客観的・定量的・定性的の4種類があると考えています。通常の採用の現場で個人を判断する際、主観的データと定量的データを参考にすることが比較的多いかもしれませんが、それと同等、もしくはそれ以上に客観的データや定性的データも重要だと僕たちは考えています。

今までの採用活動の常識では、主観的、定量的データはレジュメから、客観的データはリファレンスから、定性的データは面接から、取得する流れが一般的でした。この4種類のデータを可能な限り集め解析することで、新しい採用のマッチングが実現できると考えています。

――ソーシャルデータを利用する理由は何でしょうか?

岡氏:採用サービスを運営している中で、転職顕在層、つまり今すぐ転職をしたいという人を中心とした採用に苦戦している企業が増えてきている印象を受けています。採用に対する感度の高い企業や採用担当の方であれば、「機会があれば話を聞きにいきたい」「今は満足しているけどもっと良い会社があれば採用担当と会ってみたい」と思っている転職潜在層にこそ優秀な人がいるのではないかと薄々感じ、実際に動き出している企業も少なくありません。

実際に、社員の人脈や自社で開催するイベントへの集客・勉強会への参加などから生じた人脈により、企業独自の方法で転職潜在層のデータベースをつくり、アナログに管理しているというケースをよく耳にします。ですが、長期的な視点で採用に繋げるための管理をすることは、企業にとってかなり手間のかかることです。また、完璧に管理できている企業はあまり多くない印象を持っています。

一方TalentBaseでは、約600万人の膨大なソーシャルデータを解析して、約180万人のビジネスプロフィールを生成することで、転職潜在層を含めたデータベースを構築しています。加えてTalentBase内の人工知能が180万人の中から企業が求める人材に類似した人材を発掘してくれるので、企業は手間をかけずに自社が求める人材データベースを生成することができます。

生成した人材データベースをトラッキングして、各人材の状況や自社との関係性などを継続的に管理することで、採用に繋げられるサービスとしての価値を高められるのではないかと考えています。

データを活用して、採用以外の出逢いも創出したい

――それでは、今後はどのような展開を予定されていますか?

岡氏:まずは、TalentBaseを採用サービスとして、人と企業が適切に出逢えるプロダクトにしたいと考えています。人を理解するための多角的なデータを蓄積することで、本人さえ知り得なかった情報をサービスを通して知ることができます。思いもよらぬ企業の採用担当から声がかることで、新たなキャリアの可能性に出逢うことができるかもしれません。

ただ、僕たちが最終的につくりあげたいのは、「人と◯◯との出逢いの場」です。そのうちの1つが、採用を目的とした「企業」との出逢いです。人のデータを蓄積するということは、言い換えると、その人の信用や個性を蓄積していることだと捉えています。信用や個性の蓄積が、まずは人と企業の出逢いを生み、さらには「人と人」や「人と情報」などの出逢いを生み出すところまで拡げていきたいと考えています。最終的には、人の人生をより魅力的にするような楽しい出逢いをつくっていけるプラットフォームにしていきたいですね。

ちなみに、3月のリリース時にTalentBase上で検索可能な個人のデータベースは約55万人でしたが、4月には約180万人へと増加しました。1か月で3倍以上に増えたことは、TalentBaseの価値向上につながっていると思います。ですが、あくまでも僕たちの目的は、人と企業が適切に出逢える、できる限りオープンな場を作ることです。その世界を実現すべく、今後も勝負していきたいと思います。