総合地方企業が優秀な人材を呼び込む方法 (星野佳路氏の経営者ブログ)
最近、「地方創生」の掛け声を耳にする機会がずいぶん増えました。地方経済の活性化に政府が本格的に取り組んでくれるのはありがたいことですが、付加価値や雇用を生み出す主体となるべきは民間企業。地方の企業が元気にならない限り、地方創生は絵に描いただけとなりかねません。では地方企業はどうすれば活力を高められるか。今回はわたしの経験をもとにした方法論について記してみます。
星野佳路(ほしの・よしはる)1960年4月、長野県軽井沢町生まれ。30代で家業の温泉旅館を継承すると、経営難に陥ったリゾートホテルやスキー場の再生に手腕を発揮し「リゾート再生請負人」の異名を持つ。インドネシア・バリ島にも進出し、グローバル規模で32の高級旅館やリゾート施設を展開している。中学から大学までアイスホッケーに明け暮れた筋金入りの体育会系。趣味は自然の山を滑るバックカントリースキー。
長野県軽井沢町発祥の星野リゾートはもちろん、地方企業にとって成長の足かせは様々なものがあります。そもそも地方は少子高齢化で需要に乏しいし、大都市へのアクセスが悪いのでマーケティングにも手間がかかります。こうした問題点を解消しても、最後に立ちはだかるのが「人材の壁」。地方で成長していても、なかなか人材が獲得できず、飛躍のチャンスを逃している企業も少なくありません。
星野リゾートにもそんな時期がありました。地元にはTDKなど知名度が高く、福利厚生もしっかりしているメーカーの工場がいくつもあり、勤務体系が不規則な観光産業は人材獲得には不利でした。さらに、1990年前後、苦労の末にやっと採用した新入社員がバタバタ辞めてしまったことがありました。
創業の地である軽井沢の温泉旅館で働いてもらっていたのですが、当時の温泉旅館の上客といえば宴会客。酔っ払ったお客さんに絡まれたり、失礼な扱いをされたりしたことに嫌気がさし、1年もたたないうちに次々に辞めてしまったのです。せっかくつくった独身寮が閑散としてしまい、ショックを受けました。
良い人材にきてもらうにはどういう会社にすべきか、考え抜いた結果、「うちの社員に失礼なことをするお客さんには来てもらわなくていい」と発想を切り替え、宴会を受け付けないことにしました。その代わりに打ち出したのが、「親子で楽しめる温泉旅館」。すると接客する社員の顔が見る見る明るくなり、社員の満足度があがっていくのがわかりました。
観光産業の場合、社員が生き生きと働ける職場となって社員の満足度があがると、顧客満足度にも反映します。この好循環が星野リゾートの成長原動力となってきました。地方企業は思い切って、「社員第一」を掲げてみるのがひとつの手かもしれません。
実際に地方企業で働いてもらうと、暮らしと仕事の両方に満足してくれる社員は実に多いのです。これは自信を持って言えます。特に学生時代に地方に暮らした経験があると愛着が湧き、Iターン就職につながるケースが多いようです。大都市から地方への人の流れを促す方策として、「大学間の単位互換」を提案します。以前にもブログで触れたことがありますが、東京の学生が地方の大学で半年や1年単位で履修した単位を、本籍のある大学でも単位認定する仕組みです。海外では珍しくありません。行政の支援をぜひとも期待したいところです。
逆に行政には「これだけはやってほしくない」というのもあります。自治体による企業支援です。例えば地方の観光需要が低迷しているので、自治体が予算を組んで海外まで出かけてマーケティングをやる、というのをよく目にします。支援するといっても観光産業の経営者の支援であって、本当の意味で観光産業で働く社員の支援にはつながっていないように見受けられます。健全な競争環境を維持すべきだと思います。
また、一部の観光地では自治体が温泉やスキー場などを運営していますが、いまや自治体がやることではないでしょう。民間企業ではない自治体には、減価償却という発想がなく、赤字施設でも予算計上して延命させます。これでは民業圧迫です。
行政と民間がやるべきことを線引きし、行政は中途半端な支援はやめ、民間企業は必死になって人材を確保する。これぐらいの覚悟で取り組まないと、地方創生は掛け声倒れに終わってしまいます。地方企業が成長するのは、簡単なことではないのです。
