総合企業の採用コストはゼロに近づいていく
今年4月、中小企業庁は2015年版『中小企業白書』を発表した。全国約385万社の中小企業の経営状況を仔細に分析した報告書だが、今年、同書がクローズアップしたのが、中小企業の人材確保の問題である。
中小企業が、優秀な人材の確保に苦心しているという点自体は特段新しくはないが、今回の白書で注目すべきは、人材を確保できている企業と確保できていない企業に顕著な差が見え始めていると指摘した点だ。
白書ではこれを「企業としての採用力」と表現し、今後中小企業も採用力を高める努力が求められると強調する。中小企業の採用実態を、人材採用事情に詳しいビズリーチの南壮一郎代表に聞いた。
(聞き手は蛯谷 敏)
2015年版の中小企業白書では、中小企業の人材確保に関する課題が特集されていました。中小企業の多くが、優秀な人材の採用に苦心していること自体は決して新しい問題ではありません。ただ、興味深かったのは、白書にはそうした人材を確保できる企業と、確保できない企業との違いを分析していた点です。

ビズリーチ代表取締役。1999年、米タフツ大学卒。米モルガン・スタンレー証券などを経て2004年、新プロ野球球団設立に興味を持ち、楽天イーグルスの創業メンバーとなる。2009 年ビズリーチを創業、管理職・グローバル人材に特化した会員制転職サイト「ビズリーチ」を開設。2015年5月25日からクラウド型の採用サービス「スタンバイ」を開始した。
南:ご指摘の通り、人材確保の問題は、決して新しい問題ではありません。中小企業に限った問題でもありませんが、国内の景気が回復傾向にある中で、中小企業、特に地方企業が人材確保に苦しんでいるのは間違いないと思います。
私自身、実際にインターネットを通じて採用支援ビジネスを提供している立場にありますが、そこから中小企業や地方企業の人材確保の現場における課題は、2つあると感じています。1つは、多くの企業の経営者が、採用方法が昔から変わらず、膠着化していること。もう1つは、採用にコストをかけられないことです。
最初の課題である採用に関する基本的なノウハウですが、これは中小企業白書でもまさに同じ点について触れています。白書では、「どのような手段を用いてどのような人材を確保すればよいのかといった採用の基本的なノウハウの蓄積が十分ではない可能性が高い」と述べていますが、極端に言えば、中小企業は今も求人は「ハローワークに募集を出す」「知人や友人の紹介」以外に方法がない場合が多いのです。
白書のアンケート結果でも、中小企業の個別の採用手段では、ハローワークが最も高く、知人・友人・親族の紹介が次に来ます。新卒採用と中途採用で若干の差はありますが、傾向はほぼ同じです。
今も主流は「ハローワークに求人を出す」
白書の分析で言う「採用手段」が限定されているという指摘ですね。
南:この2つが上位に来る理由ははっきりしていて、最大の理由はコストがかからないことなんです。いずれも、基本的に無料で求人情報を発信することができます。一方で、白書にも記載されていますが、必要な人材の母集団が集まられなかったり、そもそも必要な人材に募集をしていること自体に気付いてもらえなかったりするところに課題が残っています。
もちろん、こうしたギャップを埋めるための求人情報誌や新聞・雑誌等の求人広告も昔から存在しています。今は、インターネットの求人情報サイトで採用広告を掲載することが当たり前になっていますが、多くの中小企業にとっては、求人広告を出すコストが高すぎると感じていることが、アンケート調査で明らかになっています。
白書のアンケートでは、中小企業が中途採用にかけられるコストを調査していますが、「中核人材の確保にかけられる費用」として最も多かったのが「0~10万円以内」(48.8%)でした。つまり、半数近い経営者が正社員の中途採用に10万円以上はかけられないと回答しているのです。
当たり前ですが、求人広告を掲載すれば必ず人材が集まる保障はありません。採用の確率を高めるために、継続的に求人広告を出すことに越したことはありませんが、かけられるコストは決まっています。
インターネットの自社サイトに求人情報を掲載している企業も当然ながらありますが、大企業に比べて知名度が劣る中小企業の採用ページをたまたま見つけ、直接応募してくる人は多くはありません。結果として、自社サイトでの採用効果も限定的なものにとどまっています。
海外の求人市場で起きている激変
これらが、結果的に中小企業の人材確保を難しくしていると。
南:全国の経営者の方々と会話を重ねていると、人材採用というのは経営の最重要課題であるという認識は、中小企業でも、地方企業でも十分に認識はされています。しかし、一方で、目の前の業務に忙殺され、ついつい先送りしているケースも少なくありません。それが、今回の白書の結果で明らかになったとも言えます。
私自身、企業の経営者としてこの心情はよく理解できます。優秀な人材を採用するには、手間と時間がかかるのは間違いありませんから。その上、追加コストの問題もありますので、優先順位が2の次になってしまいがちでもあります。しかし、白書から浮かぶ課題を見ると、中小企業の経営者が今すぐにでも変えられることがあることもまた事実です。
実は、今、海外では求人市場にある変化が起きています。
どのような変化なのでしょうか。
南:これまで世界中の企業では、求人広告を作成・公開したり、応募管理をするにあたって、自社のホームページであれば、プログラミングの知識が必要で自社の情報システム部に依頼しなくてはならなかったり、求人広告代理店や外部の委託業者にお願いをしなくてはなりませんでした。
そのような状況の中、海外では最近、自前で簡単に求人情報を公開できるツールが、クラウドサービスで提供され始めているのです。求人情報の作成から公開、そして応募から採用管理まで、従来代理店に依頼する必要のあった作業が一気通貫で利用できます。これが、企業の採用業務に浸透し始めているんです。
企業の採用にも、クラウドサービスが浸透し始めているわけですね。
南:これまで、クラウドサービスと言えば、営業支援、会計領域などに広がっていました。米グーグルが提供している広告出稿・管理ツールは、ある意味、広告領域のクラウド型サービスともいえるかも知れません。
クラウドが既存のサービスに与える本質的な影響は、単に業務効率を改善するだけはなく、大幅なコスト圧縮効果にあると考えています。業務工程の中で、自分自身が担える部分は自分の力で行えるようにしたことによって、スピードなど業務効率のみならず、コストも大幅に下げられます。
採用について言えば、求人情報の作成は企業の担当者自身で作成できますから、一度作成すれば、その内容は何度でも再利用できるはずです。海外では、ほとんどの企業が当たり前のように、自社の求人情報を自前で作成して、必要な場面に応じて効率的に活用しています。
同時に、クラウド型採用サービスは、求人作成から公開のみならず、応募者の管理ツールも含まれているため、多くの場合、これまで求人サイトとセットでしか利用できなかった応募管理ツールも、簡単に安く利用できるようになりました。結果として、経営者や採用担当者の業務効率やコストを大幅に改善してきました。
すると、日本と比較して海外の採用コストは下がっているわけですね。
南:あくまでも一つの例ではありますが、正社員向けの求人広告というものが、日本では一般的に数十万円から時には100万円以上のコストが掛かりますが、海外では、求人広告の掲載料は、数万円程度で済みます。
当社も5月26日から、「スタンバイ」というクラウド型の採用サービスを開始しました。また大きな挑戦ではありますが、求人作成、求人掲載、応募管理、採用成約と採用の全工程を、クラウド上ですべて無料提供します。
白書にも記載されているように、中小企業の採用における一番の障壁がコストであることは間違いありません。このボトルネックを解消することが、日本全国の人材確保の課題の解消につながると考えています。
中小企業も採用についての意識転換が必要
企業に対してのメリットは理解できましたが、求職者にとってはどんなメリットがあるのでしょうか?
南:求職者へ提供される機能としては、各企業が自前で作成した求人情報が求人検索サービスにまとめて掲載され、求職者は多くの求人情報から気になるものを簡単に検索できます。
求職者が検索できる情報は、サイトで作成された求人情報以外にも、国内のネット上にあるさまざまな求人情報にまで及び、スタンバイ独自の検索サービスによって集約された情報から、最新の情報を簡単、かつ効率的に検索できるようになります。
求職者にとっては、これまでネットに掲載されなかった求人情報も含めて、日本全国すべての求人情報を一括検索できることは、利便性の向上につながると感じています。
求人情報の一括検索サービスは、海外では、米インディードなどがこうしたサービスを提供している大手ですね。スタンバイはどのような点に注力していくのでしょうか。
南:仕事を探している立場から見たサービスの部分だけをみると、確かに似ているかも知れません。ただ、当社が目指す大きなサービスコンセプトは違うと考えています。
日本は欧米と比較して、まだまだ企業が積極的にネットを活用して、主体的に採用活動を行っているとは言いがたく、そのため採用市場そのものが不透明である点が、違いの背景にあります。
海外とのそんな背景の違いもあり、当社はまず人材確保に課題を抱える地方や中小企業の支援に重点を置きます。まずは、求人情報の作成から実際の採用の成約まで無料で提供し、国内の採用市場の活性化を優先したいと考えています。
日本でも、採用コストはゼロに近づいていきますか?
南:新技術がこれまでの採用方法や採用支援企業を駆逐するわけではありません。むしろ新技術によって、これまで中途採用を考えもしなかった企業や外部から優秀な人材が採れるなら積極的に採用していきたいと考える企業のニーズが掘り起こせるかも知れません。採用支援市場としては、間違いなく市場全体が活性化し、今後さらに大きく成長していくことが期待できます。
中小企業も、人材難を嘆くのではなく、積極的に新しい手段を試してみる必要があるということですね。
南:言うまでもありませんが、新しいサービスや技術は使い方次第で経営に凄まじい効果をもたらします。インターネットはその典型例ですが、先にも述べたように、今でも自社の採用サイトすら持っていない中小企業も少なくありません。新技術を提供企業とともに積極的に活用するという意識転換は必要ではないでしょうか。
ネットを使った採用は今後ますます進化していくことに間違いありません。個人的には、採用弱者といわれる中小企業が、さらにネットでの採用経験を積極的に積み重ねて、白書の言う「中小企業の採用力」が高まればと期待しています。