ディズニーで学んだ、 離職率を60%下げる新人研修の方法

総合ディズニーで学んだ、 離職率を60%下げる新人研修の方法

「あんなに研修を受けさせたのに、すぐに辞められてしまった……」
多くの企業が、離職率を下げようと日々努力していると思います。しかし、研修を受けさせたり、福利厚生をよくしたりしても、よい人材が定着しない、というのはよく聞く話。
『失敗は「そこ」からはじまる』でこの疑問に答えた、研究者にしてコンサルタントが、ディズニーが新人を使命に忠実で知識豊かな人材に変える手法に着目し、どうすれば会社と新人両者にとって「よい選択肢」を提示できるようになるか、解き明かします。

 御社の研修とディズニーの研修を分かつものとは?

潜在的な報酬やインセンティブや選択肢のフレーミングは、その報酬などを手に入れようという意欲に影響を及ぼすが、普通私たちはこのようなフレーミングの効果に気づかない。どれぐらい頻繁に洗車するか、あるいは何時間仕事に費やしたいかなどについて明確な計画があったとしても、脱線してしまうことがある。もらえそうな報酬のフレーミングのせいで、意欲が高まったり落ち込んだりするからだ。

この基本的な傾向は、さまざまな場面で私たちの行動に影響を及ぼす。キャンペーンやポイントサービスなどによって無料で製品をもらったりサービスを受けたりしたいという意欲から、特定の報酬を得る目的で課題に熱心に取り組もうという動機、多様な製品やサービスを購入しようという決定まで、影響を受ける範囲はじつに幅広い。課題のフレーミングで、別の興味深い影響が出ることもある。目の前の課題に対する熱意や、その課題に共感できる度合いが、フレーミングによって変えられるのだ。

私も2010年の夏にウォルト・ディズニー・カンパニーの研究開発グループのコンサルタントを務めたとき、これと似たような体験をした。新入社員は「トラディション101(伝統入門講座)」と呼ばれる最初のトレーニングで、同社の文化や伝統だけでなく、ディズニーの生涯についてたっぷり教わるのだ。こういったオリエンテーションを通じて、企業は新人を自社の使命に忠実で知識豊かな人材に変える。

実際、人が初めて何かの団体に加わるときに経験するオリエンテーションは、たいていその点に的を絞っていて、新人が組織そのものや組織に入ることで得られる利点を知る機会としてフレーミングされている。

人はそれぞれ組織に入る動機は違っても、普通はみなうまく溶け込んで成果をあげたいと望んでいる。これは単純な計画に思える。それでも、オリエンテーションのフレーミングによって、熱心で生産性の高い働き手になろうという個人の計画が変わってしまうことがあるのだろうか? また、組織がよく使っているフレーミングのおかげで、新人は新しい役割に対してよりいっそう熱心になるだろうか、それとも、そうさせるにはもっと効果的なフレーミングの種類がほかにあるのだろうか? 直感的には当然あると思うかもしれないが、少なくとも私の考えでは、この問題は確かめる必要があった。

新人研修のフレーミング次第で
「離職率」は60%下がる

この考えの裏づけ調査を行うために、ダニエル・ケーブルとブラッドリー・スターツと私は、ウィプロという、インドに本拠を置くビジネス・プロセスのアウトソーシング・サービスの大手企業でフィールド実験を実施した。同社は世界じゅうの顧客に電話やパソコンのチャットによるサポートを行っている。従業員は、同社のクライアントが提供するサービスや製品関連についての顧客からの質問(航空券の購入、あるいはプリンターの設定方法など)に答える。

フィールド実験を行ったときは、同じ業界のほかの会社と同じで、ウィプロはコールセンターで働く従業員の離職率が高い状態だった。多くの従業員が、トレーニングを修了してからほんの数ヵ月で疲労困憊して辞めていた。サービス業界の多くの仕事がそうであるように、ウィプロの職はストレスがたまりやすい。インドのコールセンターの従業員は、不満を抱いている顧客の問題を解決してあげなければならないだけでなく、たとえば、欧米風の発音や態度を取り入れ、名前も欧米風のものを使うなど、言動の多くの面を「脱インド化」することをしばしば求められる。

ウィプロの従業員は従来、すべてのトレーニング(オリエンテーション、発声と言葉遣いのトレーニング、6週間のプロセス・トレーニング、6週間の実地トレーニング)を、15人から25人のグループで完了していた。プロセス・トレーニングでは、顧客について学び、自分の仕事をやり遂げるために必要なステップを身につける。次に、実際の「フロア」に移動して実地トレーニングを受ける。このトレーニングは、監督下で電話に応対するトレーニングと、応対中に明らかになった問題に取り組むための教室での補足トレーニングから成る。組織の一員になるプロセスの最終ステップとして、新人たちは実際の受信業務に移行し、勤務時間中ずっと単独で電話を受ける。

ダニエルとブラッドリーと私は、オリエンテーションに簡単な操作を加えて、入りたての新人グループに異なる実験条件をランダムに割り振った。オンボーディング・プロセス(新しいメンバーを組織に円滑になじませ、迅速に成果をあげられるようにするプロセス)が、「組織が新人の人生に価値を加える機会」としてフレーミングされた場合と、「新人が組織に価値を加える機会」としてフレーミングされた場合の、新人たちの反応の違いを私たちはとくに知りたかった。

私たちの設定した「個人重視」条件では、ウィプロの上級幹部が1時間の説明会を行い、まず、ウィプロで働けば従業員1人ひとりに自分らしさを発揮する機会が与えられ各自が成長する好機が生み出されると語った。このプレゼンテーションのあと、新人たちはそれぞれ一連の課題に取り組んだ。その課題は、独自の技能や特徴についてよく考え、そうした資質をどうすれば新しい仕事の中で発揮できるかを検討するよう促すものだった。

一方、「組織重視」条件では、ウィプロの上級幹部は1時間の説明会を始めると、会社の価値について話し、なぜウィプロが傑出した組織なのかを説明した。続いて新人たちは一連の課題に取り組んだ。その課題では、この会社独自の特徴や強みについてじっくり考え、自分が一員であることに誇りを持つのは会社のどんな面かに思いを巡らせる機会があった。

どちらの条件でも、この1時間の説明会の終わりに、新人たちはフリースのスウェットシャツを2枚とバッジを1個受け取った。そして、トレーニングのあいだできるだけそのシャツとバッジを身につけるよう言われた。スウェットシャツとバッジには、「個人重視」条件では各自の名前が、「組織重視」条件では会社の名前が入っていた。

「個人重視」条件には96人、「組織重視」条件には101人の新人が割り振られた。408人から成る対照群は、通常のオリエンテーションを受けた。そのオリエンテーションは組織の強みと仕事に必要なことに重点が置かれており、私たちが「組織重視」条件で行ったものに似ていた。この条件操作が離職率に与えた影響を調べるために、私たちは2010年11月にデータ収集を開始し、実験の約7ヵ月後に新人たちがまだウィプロで働いているかどうかを調べた。

「組織重視」条件と対照条件の新人は、「個人重視」条件の新人よりも離職する傾向が強かった。実際、離職率は、「組織重視」条件では「個人重視」条件の250%、対照条件では157%に達した(少なくとも統計の観点に立つ限り、「組織重視」条件と対照条件で離職率に違いがなかったのはなぜか? おそらくそれは、対照条件の新人もまた、組織の強みを強調するオリエンテーションに参加したからだ)。顧客の満足度に基づいて従業員の成績を測定すると、生産性についても似たような結果が出た。「個人重視」条件の新人のほうが、成績が優っていたのだ。

これらの結果が示しているとおり、1人ひとりのアイデンティティや強みの発揮を促すオリエンテーションやトレーニングを行う戦術は、従業員と組織の双方に有益な効果を生み出す。ここでもまた、フレーミングは強力な影響を及ぼしており、結果として、私たちの仮説は裏づけられた。

さらに重要なのは、この結果を知ったウィプロの経営陣が、従業員の意欲を維持して在職期間を長くするように彼らの仕事をフレーミングする最良の方法についてじっくり考え、新入社員のオリエンテーションをフレーミングする方法を変えようという気になったことだ。経営陣は初め、会社が従業員に何を提供できるかを強調するほうが、従業員の強みを強調するより効果的だろうと、直感的に思っていた。ダニエルとブラッドリーと私は、まさにその逆であることを実証し、それによって、直感はかならずしも正しいわけではないことを示した。

実験結果はまた、別の重要な点も際立たせてくれた。会社に溶け込み、仕事で成果をあげるという新人の計画は、オンボーディング・プロセスのフレーミングの仕方から影響を受けて脱線してしまっていたのだ。

<意思決定の原則8>選択肢の「型」を見破る

第8の原則はこうなる。

〈原則8〉フレーミング――選択肢の「型」を見破る

この原則は、課題や報酬や選択肢がどう構築されているかを問い、同じ情報であってもほかにどんなふうにフレーミングできるかをよく考えることの重要性を際立たせてくれる。フレーミングの仕方にもっと注意を払えば、必要以上にフレーミングに影響されることを避け、当初の計画や目標を達成する可能性を高めることができる。

この原則を実行に移す1つの方法は、目の前の決定について反事実的に考えることだ。反事実的に考えるというのは、意思決定を行うにあたって、自分が選びうる、または選びえた別のさまざまな選択肢を想像することを意味する。

たとえば大きな買い物や投資といった、過去に自分が下した決定について考えてみよう。反事実的な考え方をするためには、自分がとったかもしれない別のさまざまな行動についてよく考えてみる(たとえば、車を買ったときに、その車ではなくもっと安いモデルを選ぶこともできた、というふうに)。すでに下した決定に代わる別の選択肢についてじっくり考えてみると、そもそもあなたにその特定の道を選ばせた要因が何だったのかがもっとよくわかってくるだろう(車の燃費よりもブランドに目が向いていた、というように)。

これと同じように、反事実的な思考を使うと、目前の選択肢について論理的に考えることができる。反事実的な思考をするというのは、特定の結果に代わる別の選択肢を考えることなので、それによって、単一の視点からそれ以外のもっと多くの視点へと、私たちの見方が広がる。このようにじっくり考えることで、ほかのさまざまな視点にも注目し、あなたがすでに下した決定、あるいは今まさに下そうとしている決定について、よりバランスのとれた見方ができるようになる。反事実的に考えれば、フレーミングがあなたの選択にどのように影響するかについての理解を深めることができるのだ。