総合在宅も“複業”もOKな正社員、あります――“人材不足時代の求人”に新たな波
もし、あなたが転職するとしたら、新しい会社にどんな条件を求めるだろうか?
一般的には、仕事の内容、報酬や役職などの待遇、会社や業界の将来性といった観点で希望に合う転職先を探し、会社の雰囲気や文化も確認した上で行きたい会社かどうかを判断する――というケースがほとんどだろう。
最近ではそれらに加え、働く場所や時間といったワークスタイルの「柔軟性」に注目して会社を選ぶ人が、徐々に増えている。
それは、筆者が“新しい働き方”をテーマに行っている取材の中でも顕著に現れており、こんな印象に残る事例も出てきている。
- 子育てや介護のための地方移住と、それまでの経験やスキルを活かせる仕事を両立するために「リモート勤務」を認める会社に転職し、地方の自宅にいながら首都圏の企業の社員として働く会社員
- 海や山に囲まれた地方の過疎地にオフィスを開設し、サーフィンや農業などの趣味と仕事との両立を奨励することで、優秀な技術者の獲得に成功したIT企業
- 子供を連れて出勤できる職場で、同僚と助けあいながら子育てと仕事の両立をはかる母親たち
極端な例に思えるかもしれないが、「イクメン」や「パラレルキャリア」「Uターン・Iターン」といった言葉がよく聞かれるようになったことからも分かる通り、「家庭を大事にする」「趣味やボランティアに時間を費やす」「愛着のある場所に住む」といった価値観を大切にし、それとうまく折り合う仕事の仕方を求める流れは今後どんどん加速していくのではないだろうか。
在宅も“複業”もOKな正社員の求人情報を
そんな中、「働き方」を切り口にした新しい求人メディアが登場した。昨年12月にティザーサイトがオープンした「Paraft(パラフト)」だ。特徴は“正社員ながら週5日の定時出社を求めない”求人案件を集めている点だ。対象は正社員だが、時差出勤や短時間勤務、在宅勤務、あるいは副業を認めるなど、柔軟な働き方を許容する企業の求人情報を掲載し、世の中に新しい働き方を提案していくという。
パラフトの正式なオープンは2月を予定している。掲載されるのはどのような企業なのか、今後「働き方」をウリにした求人は広がっていくのか、パラフトを運営するリライドの社長を務める中川亮氏に話を聞いた。
柔軟なワークスタイルが採用力の向上に結びつく
中川氏は、フリーランスのITエンジニア向けの仕事紹介サービス「PROsheet(プロシート)」を運営するシェアゼロの代表でもある。パラフトのアイデアは、プロシートの顧客企業の悩みを聞く中で得たものだという。
「プロシートはフリーランスのプロフェッショナルと企業をマッチングするというサービスで、企業としては人件費という固定費を抱えることなく、優秀な人材に仕事を頼めるということで大変喜んでいただいています。一方、プロシートのお客様にはだいたい設立3年目くらい、資金調達をしてさらに伸びていこうという段階の成長ベンチャーが多くいらっしゃいます。そういった会社は、組織の中にナレッジをためていくためにも、社員を増やして組織づくりをしていくということも重要な課題です。ですが、それがうまくいかず困っているという話をよく聞くのです」
創業メンバーの次に加わるメンバーということで、優秀な人材を求めているものの、まだ知名度も低く、大企業と同水準の報酬や福利厚生を提供することも難しい成長ベンチャーにとって、求める人材を引きつけることはなかなか難しいというわけだ。
だが、中川氏はそういった企業のワークスタイルに注目した。話を聞いてみると、さまざまな柔軟な働き方を実践しているケースが多いのだという。
「『うちのエンジニアは子どもが小さいので、保育園に迎えに行くために早く帰宅しています』とか、『週2日くらいは会社に来ないで自宅で仕事をしています』とか、個人の事情に配慮しつつ成果も出すという働き方を個別に工夫されていたりするんです。それがひとつのヒントとなって、『働き方』を切り口とした求人メディアを立ち上げました」
「柔軟なワークスタイルが可能である」というメッセージは、知名度や資金力では大企業に太刀打ちできないベンチャー企業が、採用力を向上させるための切り札となり得ると、中川氏は考えたのだ。
まずはインターネット関連企業から
パラフトは、掲載内容に違わず柔軟な働き方ができるかどうか、企業の状況をきちんと見極めた上で求人情報を掲載していく方針だという。
「スタート時点では、インターネット関連企業20社を予定しています。やはりリモートで仕事がしやすい業種ですし、その中でも半数くらいはすでに柔軟な働き方をしている企業です。これから新しい働き方を取り入れるという企業の場合も、マネジメントの方法や必要なツールの導入など、我々やパートナーのノウハウを活かしてしっかりサポートしていきます」
働く場所や時間に柔軟性を持たせた上で効率よく仕事を進めるには、コミュニケーションやマネジメントのためにクラウドベースのツールをうまく利用することが不可欠だ。インターネット関連企業は、普段からそういったツールに接することが多いという点で、新しい働き方を導入しやすいのは確かだが、こうした動きは今後、他の企業にも広がっていくのだろうか?
必要なのは“マネジメント側の意識の変化”
新しい働き方を取り入れるために必要なツールや就業規則の導入等のノウハウは、先進企業の知見が、いずれ他の会社にもシェアされて行くだろう。しかし中川氏いわく、最も大きな課題となるのは「マネジメント側の意識」だという。
1つは、働き方にかかわらず仕事の成果を正当に評価できるかどうか。がんばる姿を見てきたからといって、“リモートで働く社員”よりも“会社に出社して働く社員”の方をひいきするようなことがあってはならない。
もう1つは、社員との対等な関係を作ることができるかどうか。
中川氏の会社では、例えばエンジニアであれば個人で開発したサービスを運営するなど、社員みんなが“副業”ならぬ“複業”を持っているという。副業は“本業以外に収入を得る手段”だが、“複業”は「どちらも本業」という働き方を指すと同氏。自社で一定の成果を出すならば、複業さえも推進するという考え方なのだ。
「経営者というのはみんな、社員には自社の仕事に100%コミットしてほしいという思いがあるでしょう。でも、100%コミットしてもらうとなると、当然、社員の要求やストレスはすべて会社にぶつけられ、会社もそれに応えようとしなければならない。会社が複業や起業を許容すれば、社員は収入面のリスクを分散できますし、不満やストレスが1社に向かうこともなくなる。社外の活動を通じて得た知見やスキルは会社の仕事に役立つこともあるはずで、会社にもメリットをもたらすと思います」
このような意識の変化は、一朝一夕には起こらないだろう。しかし、個人の側がワークスタイルに注目して就転職先を選ぶようになれば、これまでは採用力があった企業も従来と同じ条件では必要な人材を獲得できなくなるかもしれない。本当に困れば、インターネット関連企業やベンチャー以外の会社も、採用戦略、そしてワークスタイルを変えざるを得なくなるはずだ。
個人は目指す生き方から働き方を考える、企業は優秀な人材を採用し働き続けてもらうために、働き方にある程度の自由を認める。パラフトの登場は、そうした考え方が世の中に広まる兆しを感じさせる。


