マイナンバー対応は7割の企業が「始めていない」、乏しい認識、広がる危機感

総合マイナンバー対応は7割の企業が「始めていない」、乏しい認識、広がる危機感

マイナンバー制度のスタートまで、あと1年1カ月あまり。調査会社らのアンケートによると、システム整備などマイナンバーへの対応の準備を始めていないとする企業は9月時点で約7割にも上るという。認識が乏しいまま対応が必要だと知った企業の経営陣が慌てて社内に検討をさせる例もあり、危機意識も広がり始めているようだ。

マイナンバー制度は2015年10月に各自治体から住民票を持つ住民にマイナンバーの通知が始まる。全ての企業が2016年1月から給与支払いに伴う源泉徴収票など税や社会保障の手続きに記載しなければならない。パートやアルバイトの入れ替わりが多い企業は、日常的に大量のマイナンバーの本人確認などの手続きが求められる。取得から消去まで厳格な管理や必要書類に記載できる仕組みも必要だ(関連記事)。

企業がマイナンバー制度の開始に合わせて対応するには、2015年12月にはシステムの整備を完了させ、年末には漏れがないかどうかチェックできる段取りが必要だ。態勢作りや検討が遅れれば遅れるほど、システム部門などに大きな負荷がかかる恐れが高い。

ところが調査会社がまとめたアンケートによると、企業の認識は極めて乏しかった。人事ポータルサイト「日本の人事部」を運営するアイ・キューの調査によると、2014年9月に282社から集めた回答では「まだ準備を始めていない」が69.6%と圧倒的多数を占めたという。

ノークリサーチが年商500億円未満の民間企業1000社を対象に2014年7月に行った調査によると、「内容を理解しており、自社で対応すべき事項も全て把握している」と回答した企業はわずか18.0%にとどまったという。

特定個人情報のガイドライン公開でセミナー盛況に

だが、ここにきて急速に企業の間に危機意識が広がり始めているようだ。特定個人情報保護委員会が10月、事業者向けに「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」などを公表したことが背景にある。経営陣が社内に「うちはどうなっているのか」と人事部門などに検討を始めさせる例もあるという。

人材サービスのマンパワーグループは10月末から5回に渡って、企業向けに「実務対応セミナー」を都内で開いている(写真)。ところが申し込みの電話が殺到し、多数のキャンセル待ちがある状態という。

マンパワーグループは2012年10月から「マイナンバー対策チーム」を発足した“先行企業”の1社。マンパワーグループは2013年に野村総合研究所(NRI)の調査に協力して、マイナンバー対応が必要となる業務を洗い出した。

だが実際にマンパワーグループが社内で対策を検討し始めたのは2014年9月という。具体的な対応法を定めた特定個人情報保護委員会のガイドラインなどの公表を待ったためという。

マンパワーが抱える派遣社員や契約社員は約3万人に及ぶ。人材の入れ替わりがあるため、年間5、6万人のマイナンバーを取得しなければいけない。「社内のどの部署の業務に範囲は他社よりは分かっているが、方針を各部署で議論をしている」(マンパワーグループのマイナンバー対策チーム)という。

マイナンバーが関係するのは人事部門だけに限らない。経理システムや法務コンプライアンスや個人情報のリスク管理部門、健康保険組合など広範囲に及ぶ。

全社横断プロジェクトでなければ停滞

マイナンバーは個人に対する支払いや謝金の支払い調書にも記載する必要がある。個人から土地を借りて利用している地方企業や、スーパーの売り場に派遣の販売員を送り込んでいる食品会社も、本人確認をしてマイナンバーを集めなければならない。社内業務を洗い出してみて、初めて対象業務が多数の部署に散在している事実が判明する企業が多い。

「実務対応セミナー」の講師であるNRI制度戦略研究室の塚田秀俊・上級研究員によると、多くの企業で人事やシステム部門が対応を始めても、1カ月ほど経過すると検討が止まる企業が多いという。経理やセキュリティなどの担当外の分野に議論が及ぶためだ。

そのため塚田氏は「経営管理部門がプロジェクトをマネジメントするような全社横断的な体制でないとうまくいかない」と強調する。まず経営陣にマイナンバー制度への対応に相当の準備が必要だと認識させる必要がある。

マンパワーでは、役員の了解を取り付けて本社管理部門の部長や課長級を集めた会議を発足したものの、実務では各部署で意見の相違も浮上した。コンプライアンス部門は高いセキュリティ対策を求めたものの、人事厚生部門からはコストがかかって事務処理が円滑に進まないと異論も出たという。

全都道府県に営業拠点を100カ所以上を抱えるマンパワーグループは、派遣社員を雇用する際に郵便で必要書類のやり取りをしてきた。だが普通郵便は紛失事故も起こりうる。

従業員からマイナンバーを集める際に「送った」「送られていない」というトラブルを避けるには、郵送記録が残る簡易書留を利用するしかない。そうなれば基本料金に310円を加算したコスト負担が避けられない。同様に例えば、金融機関が顧客からマイナンバーを集める際も簡易書留を利用するかは経営判断が必要となる。

セミナーでは、塚田氏が郵送で問題はないか内閣官房に尋ねて最終的に「個別企業の判断による」と回答されたと説明した。企業としてリスクとコストを勘案して、経営判断をしなければならないわけだ。

内閣官房は「社会保障・税番号制度」(マイナンバー制度)のホームページで「よくある質問(FAQ)」として、「民間事業者における取扱いに関する質問」を掲載。特定個人情報保護委員会もガイドラインなどを公表して必要な対応方法を網羅している。まずは企業の経営陣に危機感を持たせる必要がある。