保育所増設に思わぬ逆風 近隣「子供の声うるさい」

総合保育所増設に思わぬ逆風 近隣「子供の声うるさい」

待機児童の解消に向けて各地で保育所の増設が進むなか、「子供の声がうるさい」などと近隣住民から苦情が寄せられるケースが出ている。「平穏な生活を害された」と訴訟に発展した地域もあり、施設側は防音壁を設けたり、開設を延期したりと対応に苦慮。専門家は「子供の環境を第一に考え、互いに歩み寄る姿勢が必要」と話している。

「静かに外に出ましょうね」。東京都練馬区の保育所「アスク関町北保育園」で、保育士が口に人さし指を当てて扉を開けると、約20人の4~5歳児が次々と園庭に飛び出す。

虫捕りやドングリ拾いを始めて15分後、近隣住民の苦情を受けた区役所から電話がかかってきた。「子供の声が大きいから注意して」

同園は、日本保育サービス(名古屋市)が2007年4月に住宅街の空き地だった場所に開設。「騒音」を懸念する住民の意見が区役所や同社に寄せられていたことから、園庭の周囲には高さ3メートルの防音壁を設置した。園庭で遊ぶ時間は1日最大45分に制限し、1クラス(約20人)が交代で使っている。

それでも苦情はやまず、12年には一部の住民が「騒音に悩まされ、平穏な日常生活を害された」として騒音の差し止めと損害賠償を求めて東京地裁に提訴。今も係争中だ。

都が今年3~9月に初めて行ったアンケート調査では、全62市区町村の7割が、保育所などで遊ぶ子供の声に関する苦情を住民から受けたことがあった。保育所の建設が中止や延期となった自治体も2つあった。

今年4月時点の待機児童数が都内で最多の1109人だった世田谷区。「保育所の増設計画を発表する度に『静かな環境で暮らしていたのに』といった苦情がくる」と区の担当者は明かす。

都内の別の区では住民の反対運動を受け、保育所の開設時期を1年延ばした。建設予定地の周辺では、「保育所反対」などの垂れ幕を掲げる住宅がいくつも見られる。

このうちの一つに住む50代女性は「保育所を増やす必要はあると思うが、自分の家の近くには建てないでほしい。子供の騒ぎ声で毎朝起こされるのは嫌だ」と話す。

保育所の建設予定地から徒歩で5分ほどの距離で暮らす女性(79)も「送迎の自転車や車による路上駐車で、道幅が狭くなって危ないのでは」と懸念の声を漏らす。

この区の担当者は「待機児童が増え、従来は保育所がなかったような地域にも新設せざるを得なくなっている。近隣で暮らす一人ひとりに理解を求めていくしかない」と苦しい胸の内を明かす。

関西大人間健康学部の山県文治教授(子ども家庭福祉論)は「少子高齢化で、身近で子供に触れる機会が減っているほか、地域のコミュニティーの希薄化も摩擦の一因」と指摘。「外で遊ぶ時間を制限するなどの対策は子供にとって本来望ましくない。住民も保育所側も互いの意見に耳を傾け、歩み寄る必要がある」としている。