上場リクルート、海外M&A加速の副作用

総合上場リクルート、海外M&A加速の副作用

リクルートホールディングスが株式を上場した。初値は3170円と、上場する際の公募・売り出し価格(公開価格=3100円)を上回り、株式相場全体が不安定な中でリクルート株の堅調ぶりが目を引く。上場をテコに海外でM&A(合併・買収)を進める見通しだが、早くも財務諸表からは積極戦略の危うさがうかがえる。

「何をやっている会社だかよくわからない」「1998年のNTTドコモ以来の大型上場だから一口乗ってみようか」。リクルートが上場した16日、東京・兜町の証券街では個人投資家から異口同音に、こんな声が漏れた。

無理もないことだろう。リクルートは①中古車情報誌の「カーセンサー」など「販促メディア」、②新卒採用情報の「リクナビ」に代表される「人材メディア」、③国内外で手掛ける「人材派遣」が収益源になっている。リクルートという企業よりも、個別のメディアや人材派遣業になじみ深い人は多い。

しかし株式投資の観点から見ると、これほど実態をつかみにくい企業はない。

一例が業績の開示手法だ。投資家が企業のホームページで真っ先に手掛かりにするのは金融庁に提出する有価証券報告書でも、証券取引所で公表する決算短信でもない。企業ごとにグラフや写真を交えてわかりやすくまとめた決算説明資料だ。

リクルートの場合、その決算説明資料の評判が悪い。「EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)」という耳慣れない表現で統一されているからだろう。

EBITDAは営業利益に減価償却費とのれん償却費を合算した値だ。巨大な設備投資を伴う重工業メーカーや航空会社では一般的だが、リクルートのような人材が生命線の企業でEBITDAを用いるケースは珍しい。建物や設備と違って人材の価値は年を追っても目減りしないからだ。

リクルートの収益は本当に右肩上がりか…
●連結業績の移り変わり

2010年
3月期
2011年
3月期
2012年
3月期
2013年
3月期
2014年
3月期
営業収益
(売上高)
7933 7526 8066 10492 11915
EBITDA 1502 1700 1806
営業利益 715 904 1150 1249 1174
EBITDA
マージン
18.6 16.2 15.2
営業
利益率
9 12 14.2 11.9 9.8
注)業績は億円、EBITDAマージン、営業利益率は%

問題はのれん償却費、つまりM&Aで買収先に上乗せされるプレミアムだ。実は、ここからリクルートが上場に踏み切った背景が浮き彫りになる。表に示したように、過去5年分の決算を見ると、リクルートは実にのれん償却費が急増しているからだ。

先ほどEBITDAは営業利益に各種償却費を加えた値だと述べた。リクルートのEBITDAを見ると、2014年3月期は1806億円と過去2年間で304億円(20%)増え、営業収益(売上高)に比例して着実に伸びている。しかしEBITDAを売上高で割ったEBITDAマージンは15.2%と、逆に同じ期間に3.4ポイント悪化した。事業に多額の投資をして売り上げを伸ばしているものの、売り上げに比べた収益はむしろ下がっていることを示している。

営業減益なのに「増益」のカラクリ

なぜか。積極的なM&AやIT(情報技術)関連投資で、償却費がかさんでいることが大きい。「リクナビ」「タウンワーク」など人材メディア事業に多額のIT投資がかさみ、人材派遣事業では2011年以降、M&Aにより事業を拡大している。特に2012年10月に買収したインターネット求人検索エンジン大手、米インディード社を965億円で買収。この時、リクルートは666億円ののれんを計上している。成長余力を勘案して300億円相当の企業を965億円の価値があると見込んで買収したわけだ。リクルートは666億円を9年間にわたり均等に償却する。

しかし積極投資が決算上、償却費として利益を圧迫していることが明白になると、これから株式上場で一段の成長シナリを描くリクルートにとっては何とも見栄えが悪い。そこで市場では「決算説明資料ではあえてEBITDAを前面に打ち出すことで、上場や将来の海外戦略に弾みを付けようとしたのではないか」(外資系証券)との見方も少なくない。

リクルートはEBITDAについて「各国の会計基準の差異にとらわれることなく海外企業との比較が可能なため経営指標に採用している」という。

折しもリクルートはEBITDAの開示に合わせて事業セグメントの分類も組み替えている。2012年3月期は「人材関連事業」「販売促進支援事業」の2つだったのを「販促メディア」「人材メディア」「人材派遣」の3つに再編したのだ。投資家としては時系列で比較できるのは2012年3月期から2014年3月期の3期だけ。これではリクルートの成長性に期待している投資家にも不親切な開示と映ってしまう。

しかも2014年3月期の決算説明資料では営業減益にもかかわらず、「EBITDAは前期比6.2%増益、(中略)2期連続の増益」と記載されている。償却費がかさんで営業利益率の悪化した2013年3月期は「主に国内における事業が好調に推移したことにより(中略、営業利益の水準で見ると)3期連続の増益」と強調している。

こうした開示姿勢が投資家に受け入れられるかどうか、株価が今後、証明していくだろう。

貸借対照表(バランスシート)を見ても、リクルートの積極姿勢が見て取れる。M&Aを繰り返した結果、のれんは2014年3月期末で1937億円に達する。株主資本の4割強に相当する規模だ。

会計基準や業態が異なるため単純比較はできないが、比較的M&Aを頻繁に行う大手商社の伊藤忠商事はのれんが株主資本の2割強(国際会計基準)、武田薬品工業で3割強(同)だ。買収先の業績不振やリーマンショックのような景気の急速な悪化が起きた場合、計算上、リクルートの株主資本は4割が吹き飛びかねない。だからこそ上場で財務体質を強固にしておきたいのだろう。

フェアな情報開示が信頼回復の第一歩

リクルートは2020年に「人材領域グローバルナンバーワン」を経営目標に掲げている。16日、上場記者会見の終了後、リクルートの峰岸真澄社長に2020年の収益目標について聞いたところ、「毎期、EBITDAを持続的に(5~10%弱と)1桁中盤から後半で成長させることが経営の第一目標だ」との答えが返ってきた。今後3~5年で7000億円規模の投資余力ができるという。

厳しい視線で成長戦略を語る表情におごりや気負いはみじんも見られなかった。典型的な内需企業だったリクルートが上場をきっかけにグローバル企業への脱皮を目指す緊張感もにじむ。

しかし、グローバル企業には高い透明性が求められる。リクルートは1988年、創業者の江副浩正氏(故人)が関連会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)の未公開株を政財界に譲渡し贈収賄の「リクルート事件」に発展した。上場企業ともなれば、コンプライアンス(法令順守)と事業の成長を両立させられるか、投資家のみならず世間の眼は依然、厳しい。フェアで丁寧な情報開示こそ、企業として信頼を取り戻す第一歩にほかならない。