IT企業Sansan、山の古民家が第2の仕事場

総合IT企業Sansan、山の古民家が第2の仕事場

働き方の多様性が注目を集めるなか、名刺管理サービスのSansan(東京・渋谷)は徳島県の山間部にサテライトオフィスを設置した。自然が多い地方にいながら、都市部と変わらない仕事をする次世代型の働き方を実践する。生産性向上や人材確保、リフレッシュなど多くの果実を求めて、試行錯誤を続けている。

■テレビ会議とチャットで連絡密に

 

オフィスの裏で育てたオクラを収穫する団さん
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オフィスの裏で育てたオクラを収穫する団さん

徳島市中心部から車で山道を約1時間走ると、すだちの産地として知られる神山町の一角にSansanの神山オフィスはある。築70年以上の古民家を改装した施設で、表に看板がなく、外観からはIT(情報技術)企業のオフィスとは分からない。

母屋に一歩入ると、バランスボールに座った開発担当の団洋一が、パソコン画面をのぞいていた。神山と東京・青山の本社、新潟を結んだテレビ会議の最中で、開発状況の説明に耳を傾ける。団は「毎日、本社とテレビ会議をして、上司や同僚と情報交換している」と説明する。

団は昨年11月、本社から神山オフィスに異動し、妻と2人で移住した。自宅から自転車通勤し、午前9時半から午後6時半までオフィスで働く。自宅でも仕事をして、1日の労働時間は9~10時間に上る。週末は自宅やオフィスにある家庭菜園で農作業に汗を流す。「労働時間は東京と大きく変わらないが、通勤のストレスがなく、無農薬野菜の食事で健康になった」と笑顔で話す。

 

テレビ会議を使い本社と情報を共有する
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テレビ会議を使い本社と情報を共有する

本社勤務の時は、片道約1時間、満員電車に揺られて通っていた。会社に着くころには心身ともに疲れ果て、体調不良で半休を取ることもあった。精神的に追い込まれ、転職も検討していたという。

転機は昨年9月に訪れた。社長の寺田親弘から、短期滞在拠点として使っていた神山オフィスに常駐しないかとの提案を受けた。団は渡りに船と、転勤を決意した。

だが駐在当初は苦労の連続だった。自然に触れながらのんびり仕事をするはずが、転勤と担当部門の変更が重なったこともあり、週末返上で深夜まで働いていた。

ポイントはコミュニケーションだった。地理的な制約によって、東京にいるときは意識していなかったことを再認識させられた。ちょっとした立ち話が、ビジネスを進めるうえでのカギとなっていたのだ。改善にむけて、毎朝、上司とテレビ会議で綿密に話し合うことにした。約20人いる同僚とはチャットを使って何気ない日常会話をすることで信頼関係を構築し、現在の働き方を確立する。地方で暮らすという意識改革が必要だった。

社員130人のSansanが神山オフィスを設立したのは、2010年のことだ。生産性向上が主な目的で、東京の本社の技術者が半月~2カ月間滞在し、リラックスして開発に集中できる環境を作った。

2年目からは法務や広報など他部門の希望者が、たまった仕事を片付ける「合宿所」として使い始めている。テレビ会議システムを活用して、神山から全国の企業にオンライン営業する試みも実施している。

 

築70年以上の古民家を活用したサテライトオフィス
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築70年以上の古民家を活用したサテライトオフィス

「地方でも東京と変わらない仕事ができることが分かった」(取締役の角川素久)との成果を得て、さらに「地方活用」を拡充する。団の常駐はその一環だ。今年から神山で現地採用を始め、7月には徳島市在住の技術者が2人目の常駐者として中途入社した。ネット関連のエンジニアは今、売り手市場で、ベンチャー企業が東京で採用するのは難しくなっている。地方で働きたい人の受け皿になることで、能力の高い人材を積極的に確保する。

■地域活性化のモデル

サテライトオフィスの背景にあるのは、「働き方を革新する」との企業理念を持つからだ。創業者の寺田は商社マン時代に駐在したシリコンバレーで、現地のクリエーターが時間や場所にとらわれず、生き生きと仕事をしている姿に衝撃を受けた。起業後に新しい働き方を模索していたところ、神山を偶然訪問した。のどかな自然と光ファイバーを完備するITインフラにほれ込み、オフィス設立を決めた。

神山町は少子高齢化に悩んでおり、活性化策として打ち出したのが古民家の貸し出しだ。現在、ベンチャー企業や芸術家など様々な移住者が新しい町をつくり始めている。

有識者でつくる日本創成会議によると、2040年には全国1800市区町村の半分が消滅する可能性がある。Sansanの取り組みは、新しい地域活性化のモデルケースとしても注目を集めており、他の自治体や企業からの視察が絶えない。

企業の財産である従業員がいかに生き生きと働けるかは競争力を大きく左右する。そのベースとなる「環境」は重要で、IT機器の発達によって選択肢は確実に増えている。活力ある会社であり続けるためにSansanはチャレンジを続ける。