「全員正社員」で変わる働き方

総合「全員正社員」で変わる働き方

スウェーデンが発祥で家具小売り世界最大手の「イケア」が、大企業としては全国で初めて非正規で働くパートタイムをなくし、すべての従業員を正社員とする制度を9月1日から始めました。
人件費がかさむものの、あえて新しい人事制度の導入に踏みきった企業側のねらい、そして、従業員の働き方はどう変わるのか、生活情報チームの清有美子記者が解説します。

新戦略はすべての従業員の“正社員化”

先月28日、東京・江東区でイケアの新戦略が発表されました。

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全従業員の「正社員化」です。
全国8店舗で働く約3400人のうち7割がパートタイムですが、この人たち全員を年内に順次、正社員にするというのです。

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制度を導入した背景には、正社員との待遇の違いがパートタイムの能力の発揮を阻んできたのではないかという会社側の考えがあります。
管理職の女性は、「売り上げがなかなか達成していなかったとき、それを達成するためにどうしたらいいかを考えるのは社員の仕事で、その社員が考えたアクションをパートタイマーが実行する、といった暗黙の了解が現場であった」と説明しました。
全従業員の「正社員化」で、これまでパートタイムで働いていた人は次の点が変わります。

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▽賃金は時給に換算すると正社員と同じ水準にアップします。
▽手当や休暇などの福利厚生は正社員と同じになります。
▽雇用期間は半年ごとの契約更新がなくなって65歳の定年まで働けるようになり、社会保険にも全員加入します。
▽一方で、勤務時間の長さなどはこれまでどおり自由に選べます。
人件費のアップや社会保険料の負担増などで会社側の負担は最低でも年間7億円に上ると見込まれます。
しかし、イケアでは、その負担を上回るメリットを得られると考えていて、イケア・ジャパンのピーター・リスト社長は、「安定した雇用はイケアの発展と成長にとって非常に重要です」と断言しています。

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「103万の壁」女性たちの働きを制限

「全員正社員」の制度は従業員たちが働き方を変えるきっかけになっています。
これまでパートタイムの従業員の多くが、配偶者控除が段階的に減っていく分岐点となる年収103万円を超えないような働き方、いわゆる「103万円の壁」を意識した働き方をしてきました。
しかし、会社側は、「103万円の壁」が女性が働くことをみずから制限し、能力を発揮できない障壁になっていると感じていました。

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このため、会社側は、先月、説明会を開き、正社員になっても時給が正社員並みに上がるので「103万円の壁」を超えて働いても手取り収入が減らないことや社会保険に加入するため、長期的に働くと、年金の支給額が変わりメリットがあることなどを説明しました。
参加した女性は、「これまでは『扶養範囲内で働きたい』と会社に伝え、家族に負担がない範囲で還元できたらと思いずっと働いてきたので説明を聞いて安心した」と話していました。

「103万の壁」を超え、本来の能力の発揮を

103万円の壁を超えてキャリアップを目指すことにした女性がいます。
9月1日から正社員になった木村綾さんです。

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木村さんは会社員の夫と8歳の子どもと3人家族です。
これまで、子育てをしながら、週に3日程度店舗の販売員として働いてきました。
木村さんは、もともとインテリアコーディネーターの部署で働きたいと思っていて、2年間、専門学校に通って勉強をするほどでしたが、その部署で働くためには週30時間以上働くことが条件だったため、子育てと配偶者控除の兼ね合いで応募をためらってきました。
しかし、今回の制度では、時給は3割アップし、配偶者控除がなくなる分を補えることが分かりました。

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そこで、夫と家事の分担を相談し、家族の協力を得て、今までの倍以上となる週30時間働いてインテリアコーディネーターを目指すことにしたのです。

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木村さんは、「これからは制限を感じず新しいことにチャレンジできるようになります。自分らしく働いていけるのかなと、とても楽しみです」と話してくれました。

責任感、コスト意識 社員一人一人の働き方が変わる

一方で、正社員になることで従業員には、より責任感やコスト意識を持つよう求められます。
会社側は、面談を通じて一人一人にそうしたことを意識するよう伝えています。
今回の制度で、仕事への意識を変えた1人、来月から正社員になる宇山裕貴さんです。

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ことし6月、会社との面談で、売り上げにどう貢献できるか問われた宇山さんは、これまであまり意識しなかった長期的な売り上げアップを考えるようになりました。
そこで目を付けたのは、埋もれてきた商品を改めてPRすることでした。
宇山さんは、自分が担当するエリアである商品に目を付けました。
自動で水やりをする機能がついた植木鉢です。

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機能性が高いにもかかわらず、これまで目立たず、棚に置かれているだけでした。
そこで、宇山さんは上司に説明し、遠くからでも商品が見えるよう大きな値札を付けるとともに、その横に商品の使用法を詳しく書いて掲示しました。

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宇山さんは、「どういう使い方をするのか分かりやすくコミュニケーション(使用法の説明)を付けてることで、なんだろうと興味を湧かせることができます」と説明してくれました。
この掲示を張り出してから週に2つしか売れていなかった商品が20個売れるようになりました。
みずから考え積極的に動くことで、業績アップにつなげられるという手応えも感じられました。

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辞令を受け取った宇山さんは、「正社員がやっていた仕事を自分が積極的に担っていくことになるので、仕事の量も含め頑張りたいと思っています」と、改めて責任の重さを感じていました。

働きやすい職場は優秀な人材の呼び込みにも

すべての従業員に正社員として身分を保障しながら、一方で多様な働き方も認めるという新しい人事制度。
外資系の企業だからできるのでは?。
給与や社会保険料の負担が増えるので、余裕のある企業でなければできないのでは?。
いろいろと疑問が湧くと思います。
しかし、日本の多くの企業でも導入は可能ではないでしょうか。
理由の1つが採用・教育コストの削減です。
企業側にとっては、継続的に給与アップ分、社会保険料の負担が大きくなりますが、離職率が下がることによって、こまめに行ってきた採用や人材教育コストは減らすことができます。
また、長期的に働き続ける人が増えれば、仕事の習熟度やノウハウは高まり、生産性のアップが見込まれますし、働きやすい職場には「私も働きたい」と今後、優秀な人材が集まることが期待されます。
少子高齢化が進むと、今後、労働人口はさらに減少します。
「長時間労働・残業は当たり前、希望しない転勤もあり」という日本企業の正社員の在り方を見直そうという機運が高まっています。
こうしたなかで、イケアの新しい人事制度のチャレンジは日本人の働き方を考えるうえでヒントになるかもしれないと思いました。