「最高の職場」はどこ? アメリカと日本のトップ企業

総合「最高の職場」はどこ? アメリカと日本のトップ企業

海外におけるキャリアや仕事事情をお届けする「海外便」。今回は、米国で働く人に評価される会社はどこなのか、口コミサイトのランキングから探ってみた。自由な雰囲気のIT(情報技術)系新興企業が台頭するなか、意外な業種の企業が上位に食い込んできた。そして、「没落」している業種もあった。

参照したのは、匿名の社員による企業評価・口コミサイトを運営する米グラスドア(Glassdoor)の「The Best Places to Work」。2009年から毎年発表しており今年で14回を数える。1月に出た22年版は、社員・元社員が20年10月~21年10月に投稿した口コミ評価を集計したものだ。

従業員1000人以上の大企業のランキングを見ると、1位は半導体大手のエヌビディアだった。21年も2位につけるなど上位の常連企業で、給与などの待遇面に加え、柔軟な働き方ができることが評価されているようだ。トップテンにはこのほか、企業向けソフト開発のハブスポット(2位)、コンテンツ管理のボックス(5位)、グーグル(7位)、顧客情報管理のセールスフォース(10位)とIT系がずらりと並ぶ。

「孤独を感じない」「人として見てくれる」

上位100社でみても4割近くをIT関連が占めており、他の業種を圧倒した。テック企業人気は以前からだが、上位に占める割合は年々高まっているようだ。09年版ではトップ50社(トップ100の発表は18年以降)のうち2割程度だったのが、15年以降は上位50社の3割を超えている。

グラスドアのランキングの対象は口コミ評価が75件以上ついている企業で、全体評価に加え、キャリア形成や報酬、企業文化などの各分野について5段階で点数をつけ、自由記述もできる。IT企業についてのコメントをみると「ワーク・ライフ・バランスがいい」「上司や同僚が支えてくれる」といった声が多かった。在宅勤務など新型コロナの流行に配慮した動きも支持されている。2位のハブスポットはコロナ禍で大きなストレスにさらされている社員のメンタルヘルス対策にいち早く取り組み、話題になった。

IT以外の業種ではコンサルティング企業がトップ10に名を連ねる。22年版では3位にベイン・アンド・カンパニー、6位にボストン・コンサルティング・グループが入った。コンサルは09年から安定した人気で「一緒に働く仲間が優秀で、自分自身の成長につながる」という評価理由も一貫している。

VRオフィスの会社がコロナ禍で上位に(写真はPIXTA)

上位企業で異色だったのは不動産会社のeXpだ。20年の80位、21年の95位から躍進した。完全にバーチャルな職場でありながら、同僚たちと楽しく交流できるプラットフォームがあるという点が評価された。同社はパンデミック前からインターネット上の仮想空間「メタバース」をオフィスとしており、コロナ流行でこの仕組みが大いに役立った格好だ。仮想空間では様々なイベントも開かれ、社員は「孤独を感じることはまったくない」という。在宅勤務の課題であるコミュニケーション不足を補う好事例と言えそうだ。

トップ10で目を引いたもう1社は、9位のルルレモン。街でも着られるおしゃれなヨガウェアが人気のカナダ発スポーツアパレルは17年から50位以内を維持しており、21年も8位と健闘した。同社は店舗でヨガ教室を開くなど、コミュニティづくりを大切にしていることで知られる。コロナでこうした活動は難しくなる中、社員の心身の健康に気を配った経営に共感が寄せられていた。「働き手としてだけでなく、人として見てくれる」というコメントが象徴的だ。

eXpとルルレモンは全く異なる業種だが、社員の感情に寄り添う企業文化が、両社のコメントから読み取れる。

一方、上位に見当たらない業界があった。

金融業界が敬遠される理由

グローバルに展開する金融機関がほとんど入っていない。トップ50のうち大手と言えるのは、資産運用のキャピタル・グループ(31位)だけ。100位まで広げても、同じく資産運用のフィデリティ(59位)、クレジットカードのビザ(71位)、商業銀行のキャピタル・ワン(73位)ぐらいだ。世界で活躍する米国の証券会社や銀行といえば報酬も社会的地位も高いはずなのに、なぜだろうか。

調査結果を遡って確認すると、リーマン・ショック(08年9月)直後の09年はゴールドマン・サックス(26位)や銀行のウェルズ・ファーゴ(45位)など、上位50社の1割超が金融大手だった。ランキングに入りづらくなったのはこの10年ほどのことのようだ。

業界で働く人に聞くと、リーマン後に「金融=強欲・悪者」のイメージが醸成されていったことや、報酬はよくても労働環境が厳しいことから敬遠されるようになっているのが原因では、という見立てだった。

ニューヨークの金融機関で9年間働いているジェイムズ・プーモさん(34)は「自分は今の職場にとても満足しているし、同じ企業内でも直属の上司によって職場に対する評価は大きく変わると思う」と断ったうえで、2000年代後半に金融業界で働くインターンや若手社員の過労が社会問題として大きく取り上げられた影響を指摘する。「この5~10年、業界は改善に取り組んでいるものの、イメージは完全には回復していない。最近の新卒者は、給料は低くてもより健康的な職場で働きたいと考えるようになっている」と話した。

管理職クラスの40代の男性は、金融機関は10年ぐらいの下積みが求められることが多いと説明する。「ミレニアル(20代後半~30代)は『午後5時からは自分の時間』といった考えの人が多く、若いころに長時間働いて経験を積むのは当たり前と考えた自分たちの世代とはかなり違う」と感じている。働き方が柔軟で、早くから大きなプロジェクトに関われる可能性のあるITやコンサルが若い世代に魅力的に映るのもうなずける。

昨年6月、モルガン・スタンレーのゴーマンCEOが「(社員が9月6日の)レイバーデーまでに(在宅から)オフィス勤務に戻らなければ失望する」と警告して話題になったが、その後、オミクロン株の流行で「私は間違っていた」「どんなやり方がよいのか誰もが模索中だ」と軌道修正を余儀なくされた。ビジネスチャットツールのスラックが立ち上げた「フューチャー・フォーラム」が米国や日本など6か国の1万人以上の知識労働者を対象に21年11月に実施した調査では、働く場所や時間の柔軟性に不満を抱く人の72%が転職を考えていると回答した。コロナが迫った働き方改革は、もはや一時的で終わらせられるものではなくなっている。

古参企業が多い日本のランキング

「柔軟性」や「ワーク・ライフ・バランス」のほか、グラスドアの22年版のコメントで目立ったキーワードに「DEI」がある。日本でも最近、よく目にする「Diversity(多様性), Equity(公平) and Inclusion(包摂)」の頭文字を取った言葉だ。この考え方もミレニアルやさらに若いZ世代(20代前半まで)が重視するとされる。優秀な若い世代を惹きつけるため、今後はこうした価値観にも配慮することが必要になってきそうだ。

日本の状況はどうだろう。同じようなランキングを社員口コミサイト・転職情報のオープンワークがまとめていた。「働きがいのある企業ランキング」の22年版では、1位にグーグル、4位にセールスフォース・ドットコムが入るなど、IT系が多いのは米国同様だ。コンサルの人気も高い。

ただ、IT企業の割合は2割ぐらいと、米国に比べて低い。日本っぽいと感じたのは、歴史のあるメーカーや商社が上位に目立つ点だ。米国のランキングにはスタートアップも入っているのに比べると、新鮮味に欠ける。パンデミックを経て、多くの企業が新たな働き方の可能性に気づいたはず。今後、日本でもこれまでにないユニークな「働きがいのある会社」が台頭してきたらおもしろい。