DXは時期尚早!? サイゼリヤがコロナ禍で進める”アナログ戦略”が生んだ想定外の効果

教育・研修DXは時期尚早!? サイゼリヤがコロナ禍で進める”アナログ戦略”が生んだ想定外の効果

2020年から続く新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、外食産業は大幅な減収・減益を余儀なくされている。特にレストランや居酒屋といった「イートイン」を前提とした業態では、閉店・廃業に追い込まれたところも少なくない。

そんな中、コロナ禍に苦しむ飲食店に差した”一筋の光明”と言えるのが、非接触・省人化などを目的としたデジタルトランスフォーメーション(DX)だろう。

多くの飲食店が生き残りを懸けてDXを推進しているなか、アナログ的ともいえる独自の経営戦略で2年連続の赤字から脱却しようとしているのがファミリーレストラン大手「サイゼリヤ」などを運営するサイゼリヤだ。同社では22年8月期の売上高を前年同期比18.6%増の1500億円、営業利益を70億円と予想している。

サイゼリヤの堀埜一成社長

アナログ戦略推進で見えてきたメリット

コロナ禍における感染予防策として、来店客と接客スタッフの接触回数を減らすことを目的に、専用アプリやタッチパネルでの注文に対応する飲食店も増えてきた。ところがサイゼリヤでは、各テーブルに用意された注文用紙に客が自分で記入し、それをテーブルで受け取った接客スタッフが復唱(確認)し、デジタル端末に入力していくというスタイルを20年7月から採用している。これは「来店客との接触回数を減らさない」という同社の方針からだ。

サイゼリヤの堀埜一成社長は「当社はすでに成熟期に入っており、来店客のほとんどはリピーター。このフェーズ(段階)ではカスタマーインティマシー(顧客親密性)が重要になる。ファストフード店とは違い、サイゼリヤは注文を聞く、料理を運ぶ、皿を片付けるなどを接客スタッフが行うフルサービスのレストラン。接客の部分は省けない」と記入式を採用した理由を説明する。レストランとしての接客満足度を下げることなく、感染リスクを最小限に抑えるのが記入式の狙いといえる。

店舗に設けられている注文用紙(左)、サイゼリヤのグランドメニュー(右) ※メニューは取材時のものです(画像:サイゼリヤ公式Webページより)

記入式の採用には想定外のメリットもあった。接客スタッフが来店客のテーブルに滞留する時間が短縮され、業務効率が向上したのだ。「テーブルについてから注文を聞くスタイルでは、どうしても接客スタッフ側に待ち時間が発生する。しかし、記入式なら注文が決まっているので、接客スタッフは客の記入した注文を復唱しながら端末に入力していくだけ。注文のミスも減った」と堀埜社長。注文用紙を持ち帰った客が、次回来店時に記入済みの状態で持ってきたこともあったという。

アナログ戦略は「正しいDX」のための布石

サイゼリヤのアナログ改革は他にもある。キャッシュレス決済の導入が遅れていたが(21年4月全店導入完了)、会計時の小銭のやり取りによる接触時間を短縮するため、20年7月に価格改定も実施した。1円単位の端数をなくし、「50円」「00円」の単位にそろえたのだ。

例えば299円の「ミラノ風ドリア」は300円、139円の「プチフォッカ」は150円に。もちろん値上げだけではなく、値下げも実施。「ライス」は169円から150円に変更した。

ミラノ風ドリアは300円に

堀埜社長によれば、端数をなくした効果は上々で、小銭のやり取りは60~80%減となり、会計にかかる時間も30%減少したとのこと。来店したグループでまとめて支払うケースも増え、個別会計は25%減少したそうだ。

サイゼリヤの人気の理由は低価格でもあったが、1000円を目安にする客が増加。一概に価格端数の効果とはいえないものの、従来は700円台前半だった客単価が746円台(21年8月期)にアップしたという。

ここまで見てくると、サイゼリヤはDXに消極的なように思えるかもしれないが、決してそうではない。堀埜社長は「初めにDXありき」でシステムが先行してしまい、現場のオペレーションに支障が出ることを懸念しているのだ。「DXはトップダウンではうまくいかない。まずはアナログトランスフォーメーションを進める。DXはその先にある」(堀埜社長)。

「DXはアナログトランスフォーメーションの先にある」と話す堀埜社長

サイゼリヤのDXの一つとして、非接触・省人化の観点から外食産業で注目されている配膳ロボットの導入がある。サイゼリヤでは、アルファクス・フード・システムが開発した「サービスショットα2号機」など、数社の配膳ロボットをサイゼリヤ台場フロンティアビル店(東京都港区)に導入、実証実験を進めている。

ただし、ロボットが担当するのは食事を終えた皿や什器などの回収のみ。配膳を担当するのは接客スタッフだ。堀埜社長は「サイゼリヤには熱々の料理もあるので、危険すぎてお客さまには任せられない」と話す。もちろん、先述した「来店客との接触回数を減らさない」という方針に沿う意味もある。

配膳ロボット(画像:サイゼリヤ提供)

コンビニ跡地に出店 勝機はあるのか?

サイゼリヤは、コロナ禍にあった19年12月~20年12月にも店舗数を増やしており、現在は国内に約1100店舗を構える。外出自粛による業績不振から“一等地”の店舗を手放す飲食店もある一方、イートインにこだわるサイゼリヤにとって、そういった好立地の店舗は狙い目だ。

堀埜社長によれば「撤退する店舗もあるので、出店数は増加分を上回る」とのこと。撤退の理由はテナント契約の満了だという。「2000年代初めの勢いで出店したところには、標準店の1.5倍、約180席を超える店舗もあり、オペレーションに苦労していた。そうした店舗は契約満了を機に適切な場所に再出店している」(堀埜社長)

また堀埜社長が新規出店先として狙っているのが、コンビニエンスストアの跡地だ。既存のレストランやコンビニが撤退するエリアでビジネスが成立するのかという疑問は残るものの、「撤退の理由は売り上げの不振によるものだけではない」(堀埜社長)と自信ありげ。

コンビニが撤退するほどの場所でビジネスは成り立つのか?(画像:ゲッティイメージズより)

実際、21年4月には「サイゼリヤ地下鉄赤塚店」(東京都練馬区)をオープンした。同店はローソンの跡地に出店したもので、店舗面積は約120平方メートル(44席)と、標準店の半分以下となっている。

そうした小規模店舗で売り上げを伸ばす秘策が、冷凍食品の販売だ。サイゼリヤでは冷凍の「業務用辛味チキン(1.5キログラム、2200円)」のほか、「ポップコーンシュリンプ(500グラム、1500円)」「ティラミス クラシコ ファミリーサイズ(6人分、1760円)」などをテークアウトメニューとして販売しているが、小規模店舗ではそれらの販売にも力を入れていくという。「この業態で収益が出せれば、地方のコンビニ跡地などに出店できる可能性が広がる」(堀埜社長)。

「業務用辛味チキン」(左)、「ポップコーンシュリンプ」(画像:サイゼリヤ提供)(画像:サイゼリヤ提供)

また、サイゼリヤは「ファストカジュアルレストラン」と銘打った新業態の小型パスタ専門店「伊麺処(パスタドコ)」を20年2、6月に東京・浅草および新宿に出店したほか、11月には看板メニューである「ミラノ風ドリア」を中心に提供する「ミラノ食堂」を東京都中央区に出店した。伊麺処やミラノ食堂も50席程度の店舗規模であることから、それら小規模店舗はコンビニ跡地を狙うための布石とみてよさそうだ。

飲食店がこぞってDXを推進し、イートインからデリバリー中心にシフトする店舗が目立つ。サイゼリヤの戦略は“逆張り”にも見えるが、堀埜社長は「政府からの時短営業要請を受けて深夜営業をやめる、時短営業の影響でパート・アルバイトの生活が不安定になるなら正社員として雇用する。“逆張り”どころか極めて順当な戦略です」と笑った。

新業態店舗「ミラノ食堂」