教育・研修何でも「ダメ出し」「否定」する上司の問題点
何かを提案した際に、「“それ”、以前失敗したんだよね。うちでは無理だよ」とか、「“それ”、ちょっと前に検討したんだよね。で、やらないことになった」などと、ろくに話を聞かないで否定する上司がいる。こういう上司が相手では、手を替え品を替え、いろいろ頑張ってみても提案を通すことはまず無理だ。上司には拒否する強い理由があるように見える。しかしながら、このような言い方をする上司は、わずかな例外を除いて、あきれるほど単純で、驚くほど適当で、どうしようもない判断基準しか持っていないことが多い。頭の中の情報密度が“すかすか”なのである。

「それはだめ」というとき
“それ”の範囲はどこまでか
まず“それ”の指す内容が問題である。上司が“それ”と認識しているものは、今私が話していることと同じだろうか。絶対に同じではない。少なくとも、時期が違い、提案している人も違う。実行する人も違うだろうし、同じテーマであったとしても提案内容がまったく同じにはなりようがない。そう考えると、本来は、よく聞きもせず、私の提案内容と上司の“それ”が同じものだと一蹴されるいわれはなく、否定されるべきものではない。
もう少し具体的に考えてみよう。
たとえば、「AIを使った……」と言った瞬間に、「あー、それ(AI)はダメ、うまく行きっこない。うちでそんなの出来るわけないでしょ」と言下に否定し、「SDGsが……」と始めると、「そういうきれいごとは、長続きしたためしがない」と即応する人がいる。このような人は、「はやりものはNG」という判断基準を持っている。しかし、よく考えればわかるとおり、Twitterは15年前、LINEは10年前、単なるはやりものだった。しかし、現在このSNSサービスをはやりものと笑う人はいないだろう。はやって廃れるものもあるが、はやって定着するものもある。はやり物はすべてだめだという管理職が多数派だと、会社はさまざまな変化に対して確実に時代遅れになる。
「アフリカはダメ」とか「東欧はダメ」とかいう人もいる。「その地域はNG」という背景には、前にある事業部門がそこで失敗したとか、知っている会社がそこでひどい目に遭ったといった本人の狭い“知見”がもとにある。しかし “その地域”であるアフリカには、外務省の位置づけでは54の国があり、たとえばナイジェリアとエジプトではなにもかもが違う。中・東欧グループに属する国(やはり外務省の位置づけによる)は23あり、たとえば東マケドニアとコソボではやはりなにもかもが違う。しかも、その54、あるいは23の中のどこか一つの国をとっても、地域によって言語も違えば民族もメインの宗教も気質も違う。もちろん多少の類似性はあるにせよ、巨大な地域を一緒くたにしてNGと言われても困るのだが、そのような上司は普通にいる。
「そういうB to Cビジネスはダメ」とか「そういう知的集約ビジネスはダメ」とか「そのビジネス形態はNG」という判断基準の人もいる。たしかに、会社によってビジネスモデルによる得意、不得意はあるが、そうだとしても、B to Cにもいろいろあるし、知的集約ビジネスにもいろいろある。
いずれにしても、“それ”はNGという上司は“それ”のくくりがとんでもなく大きいのである。そして、その滑稽なほどの大きさにもかかわらず、そのことに対して驚くほど無自覚、無頓着で、明確に異質なものが内包されている集合を一つのものとして考えて、間違った判断をする。そのくせ当人は適切に判断をしていると考えているから不思議である。
だれしも、自分の詳しいことは細かい分類でものを把握し、わずかな違いにも敏感になる。一方、よく知らないことや興味のないことに対しては、悲しいほど、大ざっぱにしかものを見ていない。今では誇張や誤りも指摘される説だが、「エスキモー」は雪を「カニック、 アニユ、アプット、プカック、ベシュトック、アウベック」などと分類し、さらには日本語のように、細雪、どか雪、粉雪といったように、雪に形容をつけて細分化しているのでなく、それぞれ別物としてとらえているという話がある。私たちにとって同じ雪に見えるものをまったく違うものとして幾種類にも分けて捉え、細かく概念の分類をしている人がいたとして、それではじめて雪について何かを語れる段階といえるくらいのものだろう。
したがって、上司がもし、大ざっぱな概念分類しかできていない(ことが予測される)場合は、その後に自分が提案をすることをおくびにも出さずに、上司が一つの概念でとらえる領域の中には、しっかり見れば多くの別の概念があり、その中にはNGと思われても仕方がない領域と、実は有望な領域が存在していることを、事前に懇々と説いて教えこんでおく必要がある。
提案される立場なら、もし自分が大ざっぱな言葉と概念分類でしか物事を見ていない場合は、その対象は、自分が判断してはいけない領域であると考えた方がよい。NGもGOも言ってはいけないのだ。大きな話しかできないなら、“それ”については何かを語る資格すらないと自覚したほうがよいだろう。
なんでもNGにしてしまう
人のタイプ別傾向
ここまでは、本来は違うものを同じと認識してNGと言ってしまう上司の思考回路について述べてきたが、あわせて、何でもかんでもNGと言いがちな性格の人がいるということも覚えておきたい。
ポジティブ心理学の創設者であり、うつ病と異常心理学の世界的権威でもあるペンシルベニア大学のマーティン・セリグマン教授の『オプティミストはなぜ成功するか』には、ネガティブな出来事をどのように説明するか、人によって違った説明の習慣があると書かれている。おもに永続性、普遍性、個人度の三つの観点からの違いである。
1)永続性
自分に起こった不幸な出来事は永続的で悪いことはずっと続くと説明しがちな人と、不幸の原因は一時的なものだと説明する傾向にある人がいる。
(永続的)ダイエットはけっしてうまくいかない (一時的)ダイエットは外食するとうまくいかない
(永続的)君はいつもがみがみ言う (一時的)君は私が部屋を片付けないとがみがみ言う
(永続的)上司はいやなやつだ (一時的)上司は虫の居所が悪い
失敗(うまくいかないこと)を、継続的にいつも起こると考えるか、今ここだけのものと捉えるかの、捉え方の違いである。一時的な人は、次回は成功できる(かも)と考えることで再チャレンジしやすい。
2)普遍性
永続性と似ているが、永続性は時間の問題で、普遍性は空間の広がりを示す。失敗について普遍的な説明をする人は、一つの分野で挫折するとすべてをあきらめてしまう。特定の説明をする人は、その分野では自分は無力と考えるかもしれないが、ほかの分野では、失敗と関係なく挑戦することができる。
(普遍)先生は皆不公平だ (特定)セリグマン教授は不公平だ
(普遍)本は役に立たない (特定)この本は役に立たない
(普遍)外国のものはだめだ (特定)外国製の○○はおいしくない
失敗を一般化してあまねく起こるものと認識すると、いつも失敗することになってしまう。一方で、ある事象に限定したものと把握する人は、失敗はあくまでその回にのみ起こった失敗であり、他に波及するとは考えない。
3)個人度
内向的説明をするか、外向的説明をするか。
悪いことが起こったとき、自分を責めるか(内向的)か、または他の人や状況を責めるか(外向的)に違いが出る。
(内向)私はポーカーの才能がない (外向)私はポーカーでついていない
(内向)私は安定性に欠ける人間だ (外向)私は貧乏な境遇で育った
失敗の原因が自分(たち)に由来すると考えると、その問題が解決するまで次の挑戦がしにくくなるが、外的な原因だと認識すれば、状況が変われば再チャレンジできる。
この三つの観点から見ると、なんでもNGという人は、失敗は永続的に続き、普遍的で、その原因を個人(自社)の問題として説明する習慣があり、また、その思考の枠組みにとらわれている。
逆に、このような人は、成功に関しては、いつでも(永続性)、どこでも(普遍性)、また自分はそのことができる能力がある(内向)と考えるから、同じことをいつものように繰り返せば、成功すると信じて疑わない。前例踏襲を絶対善とする人になって、変化に対応できず、結局、失敗するのである。
優れた管理職は、三つの次元の把握が適切である。現実の失敗は、永続性もあれば、それなりの普遍性もあり、個人に帰属させるべき責任がある。一方で、一時的で、限定的であり、他者に責任を帰すべき要素もある。よって、一つ一つの事象ごとに、両方の観点から状況を適切に分析し、認識を深め、経験値を高める。そして、新しい事象に対して、慎重にこれらの軸をあてて案件ごとに判断しようとする。これができる人は判断力がある人であり、組織にとっては希少資源となる。
一方、失敗や成功の説明のしかた(すなわち認識のしかた)がいつも同じで認識が深まらない上司には、何を言っても無駄である。新規の提案は否定され、新しい環境に古いやり方をごり押しして実施しようとする。こういう場面では、上司か自分が異動するまでおとなしくしていた方がよい。
このように上司の思考回路を把握できれば、不必要な期待もしなくなるし、不適切な判断をされても怒らなくなる。上司を上手に誘導することもできる。さらにもっと言えば “上司のふり見て我がふり直せ”である。皆さん自身も大きなくくりで判断していないだろうか。永続的・普遍的・個人的な物事の説明(および認識)ばかりになっていないだろうか。あるいは、その逆になっていないだろうか。そこまで考えが及べば、皆さんの部下にあなたと同じ思いをさせないように、皆さん自身の認識力を磨いていくこともできるだろう。なんでもNGという上司は厄介ではあるが、思考回路をたどると、このように興味深く観察できる対象でもあり、あなた自身の成長にとっても、なかなか使い手があるのだ。
(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)