どのようにすれば“いい人”を採用できるのか ポイントは4つ

総合どのようにすれば“いい人”を採用できるのか ポイントは4つ

管理のない自己組織化されたチームの話をすると「信頼関係が重要ですね」と言われますが、ごもっとも。そもそも信頼関係のない人と一緒に働きたいとは思いません。しかし、多くの会社では、入社時点では信頼関係のない状態からのスタートになることは避けられません。

一般的な採用プロセスでは、数回面接をして決めると思いますが、それでは信頼関係を築くまでには至りません。また、中途採用の場合は即戦力を求めているはずなのに、その人がどれくらい仕事ができるのか、本当のところは分からないまま採用することも多いです。

一緒に働けるかどうかは、一緒に働いてみないと分からないのが本当のところです。しかし、一緒に働くためには採用を決めなければいけません。ここに従来の採用が抱えるジレンマがあります。

信頼関係を作ってから入社する採用プロセス

「もし、入社する前に一緒に働けるかどうかが分かって、信頼関係を築いておけたら、採用の問題が解決するのではないか」

私たちの会社では、そう発想を変えて信頼関係を築いてから入社してもらうようにしています。入社前の採用プロセスのうちに、互いに信頼を築けるようにしているのです。そのため、中途採用で応募されてから入社するまでに1年から1年半ほどの時間がかかります。

もちろん「無職になって」というわけではなく、現職を続けたままでの付き合いです。もし価値観や企業文化が合わずに入社しないということになっても、お互いに大きなリスクを負わなくてもいいようにするためです。

「応募者がそれほど長く付き合ってくれるのか」と心配になりますよね。確かに、急いで転職したいと思っている人とはうまくいきません。しかし、私たちの会社では採用した人とは長く一緒に付き合っていきたいと思っていますし、そういった仲間を探しています。この先も長く付き合っていくことを考えたら、1年ちょっとの信頼関係を築くための期間はそれほど長いものではないのではないかと考えています。お互いに知り合って安心して入社するためには必要な期間です。

採用は「会社が社員を選ぶ」ものだと考えてしまいがちですが、スキルを持っている人材が重宝される今の時代では、むしろ「社員も会社を選ぶ」のです。お互いに相思相愛になって、しばらく付き合ってみて、良いところも悪いところも認めたうえで一緒になるのが理想です。まるで結婚みたいなものですが、そう考えると数回の面談で決めるほうが不安です。

応募者にしてみても、その会社で本当にいいのかどうか、もっと深く付き合って、会社の中の人とも話をたくさんしないと判断することは難しいでしょう。会社と応募者がフェアに判断しあうためにも、時間は必要なのです。

仕事をしていく信頼関係を築くためには、一緒に仕事をするのが一番です。私たちの会社では、入社する前から一緒に仕事をしてもらうことにもトライしています。副業が許可されている会社に所属している方やフリーランスの方には、きちんと報酬をお支払いして、短時間でも仕事を手伝ってもらいます。

手伝ってもらう仕事は、お客さまから請けた仕事ではなく、私たちの会社の社内システムの開発です。それならばお客様へ迷惑をかけることもないし、下請け的に働いてもらうこともありません。あくまで、私たち自身が使うもので、いずれ入社したら自分が使うものを作るのを手伝ってもらうのです。

副業として働いてもらっているうちに、相性のいい人は自然と長く続きますし、信頼関係も深まっていきます。報酬を支払う仕事なので、いい具合に甘えはなく、緊張感もあります。そうして、いつのまにか一緒に働いているのと変わらないような関係が作れたら、フルタイムの社員として迎え入れるのです。

その副業で働いてもらう期間を、トライアル期間や、「お友達期間」と呼んでいます。

管理にコストをかけるか、採用にコストをかけるか

自己組織化されたチームで管理をしないという話をすると「性善説ですね」と言われることがあります。しかし、実をいえば、私自身は性悪説をもとに、簡単に人を入れないようにしているのです。信頼関係を築けるまで時間をかけるし、副業で働いてもらうトライアル期間はしっかり管理しています。しかし、本当に信頼できるようになって入社するころには、管理する必要がないほど性善説でいられるというわけです。

これは合理的に考えると、「どこにコストをかけるのか」という話です。どうにも信用できない人を採用してしまうと、不安から管理をせざるを得ません。それで管理コストが高くなってしまうのです。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

私たちの場合、採用のところで非常にコストをかけています。しかし、その代わりに管理コストをかけずにすんでいます。

採用にコストをかけて、入口で弾くか。

あまり気にせずに採用して、管理にコストをかけるのか。

その違いです。

管理コストはこの先も恒久的にかかりますし、人数が増えれば増えるほどに、管理のための管理が必要になって、指数的に高まっていきます。管理されるほうも、あまり楽しくありません。一方で、採用コストは入社しなかったら無駄になることもありますが、一時的なものです。

私たちは、採用から入社までにコストをかけて、その後を楽にしようと判断したのです。これは、エンジニアリングの世界で、保守性を高めるために開発にコストをかけることに似ています。

そのうえで、採用プロセスを省力化するために、「トライアウト」と呼ばれる自社オリジナルの採用システムを導入しています。トライアウトでは、Webサイトから申し込みできて、そのままWeb画面で採用に必要な技術レベルや考え方などを判定できる仕組みになっています。

急募でいい人材は見つからないから、仕事よりも人が先

そう簡単に人を採用しないので、人を増やす急成長は難しくなります。たとえたくさんの仕事や案件があったとしても、経営者には忍耐強さが求められます。それでも「仕事があるから」と安易に人を入れてしまうことは避けるべきだと考えています。

前職のシステム開発の業界では、受注するタイミングで人を集めてプロジェクトを組まなければいけませんでした。とはいえ、常に空いてる人がいるわけでもないし、人数とスキルがマッチすることも少ないので、よく急募することになっていました。

「人もいないのに案件を受けるなよ」と当時から思ってはいましたが、人を確保しておいても失注するリスクがあるので、仕方ないことではありました。プロジェクトで人が足りないとなると、人材紹介サービスやパートナー企業、フリーランスなどに急募をかけるのですが、それですぐにアサインできる人を入れると、だいたい失敗します。そりゃそうです。本当にいい人なら、そう簡単に空いてることはないからです。こちらのタイミングに合わせていい人が暇になるようなうまい話はありません。

私たちの会社では、人を採用する理由は案件ではなく、「いい人がいるかどうか」です。いい人が見つかるまでは採用しないのです。価値観があって実力があり、信頼関係を築くことができて採用し、採用してから案件を受けるのです。この採用方針を「ピープルファースト」と呼んでいます。

5人で創業したときには、次に入れる6人目7人目の人のことを非常に慎重に採用していました。人数が増えてきたらその感覚が薄れていきそうになってしまいますが、何人目であろうともひとケタ台の社員を採用するつもりで対応しています。

いい人材を見極めるための採用のTIPS

オランダにアヤックスという古豪のサッカーチームがあるのですが、そこは若手選手からの育成が素晴らしく、特に優秀な若者を集めてくるスカウティングが優れているそうです。そのアヤックスで優れた選手を選抜する際に見ているのがTIPSと呼ばれているものです。TIPSとは、次の4つの頭文字をあわせたものです。

  • Technique(テクニック)
  • Intelligence(インテリジェンス)
  • Personality(パーソナリティ)
  • Speed(スピード)

私たちの会社で働くのはサッカー選手ではなくエンジニアですが、このTIPSは優れたエンジニアを見極めるのにも使えます。

「T=テクニック」

アヤックスでは、トリッキーなプレイができるとか難しい技ができることをテクニックとは呼んでおらず、基礎的なボールタッチの上手さや、ドリブルやシュートといった基本的な技術のことを指してテクニックといっています。そういった基本技術がきちんとできている選手を選抜しているそうです。

優れたエンジニアに求められるテクニックも、「いろいろなプログラム言語を使いこなせる」とか「最新の技術要素に詳しい」といったことよりも、「誰が見ても読みやすいソースコードが書ける」ことや「安定して運用するための基礎知識を持っている」といった基本技術を重視しています。

私たちの会社では、採用プロセスの中で実際の開発を行ってもらい、その結果を見ることで技術力の判断をしています。その判断をするのは現役のエンジニアたちで、自分たちの仲間に足る技術を有しているかどうか見極めます。

「I=インテリジェンス」

サッカーにおけるインテリジェンスは、監督の戦術を理解できること、そして試合の流れを読み、実戦の中で戦術に沿った動きを自分の頭で考えられることを指します。確かに、サッカーの場合、野球と違って、試合中は逐一監督の指示を受けるわけにはいかないので、自分で考えられる能力が重要になってくるのでしょう。

自己組織化されたチームは、まさしくサッカーチームのように、現場で起きたことは現場で判断して進めなければなりません。すべて指示を受けて確認しないと動けない人では困ります。個々人で判断するためには、会社の戦略や戦術を理解できるだけのインテリジェンスが求められます。

私たちの会社では、面談の中で私たち自身のビジネスモデルを分析してもらいます。ユニークなビジネスモデルを採用していることもあり、それを理解できるのか、戦略上どういった意味があるのかを考えてもらうのです。ついでに、これから入社するかもしれない会社のビジネスモデルを理解してもらうことにもなるので、一石二鳥です。

「P=パーソナリティ」

どれだけ足が速く、技術に長けていても、それだけではアヤックスの選手にはなれないのが、このTIPSのパーソナリティの部分です。サッカーはチームスポーツですし、トップチームになるとリーグ戦やカップ戦がシーズン中は続いていきます。そうした中では、優れた人格であることや、チームのために貢献できる性格であることが重要な要素になってきます。

セルフマネジメントでは自分のことだけでなく、周りを生かすことも大事だと書きましたが、周囲の人たちとうまく折り合っていくこと、対話していけることはパーソナリティに通じる部分です。やっぱり、嫌な感じの人とは一緒に働きたくないですから。

私たちの会社では、トライアル期間に一緒に仕事をしてもらうほか、合宿や飲み会に参加してもらったりすることで、一緒に働けるかどうかと同時に、一緒に遊べるかどうかも見ています。

「仕事仲間である前に、友達になれるかどうか」

それが重要な指針だと考えています。

「S=スピード」

サッカーにおいては、「どれだけ足が速いか」もアドバンテージにはなりますが、長時間のゲーム中をずっと走っているわけにはいきません。大事なのは、動きだしの速さや走り出しのタイミングがうまいかどうかです。

自己組織化チームの大きな特徴は、トライアンドエラーを自主的に繰り返しながら、軌道修正して進めていくということです。一発で正解を当てて突き進むというよりも、小さな失敗と成功を重ねながら、正解を探り当てていくイメージです。そうしたときに必要なスピードとは、距離を稼げる「速さ」ではなく「俊敏さ」のほうです。

私たちの会社では、トライアル期間から「振り返り」をしていますが、そこで自分自身で見直していける人、外からのフィードバックで変えていける人かどうかで見極めています。周囲も認めるような自分の考えを持っているのはいいですが、ただ頑固なだけな人とはやっていけそうにありません。

セルフマネジメントできる人材を見極める4つのポイント

TIPSで見極めることができるのは、効率的に成果を出せる人材かどうかという点です。TIPSだけでは、自律的に働けるかどうかまでは分かりません。

自己組織化されたチームにセルフマネジメントができる人材は不可欠ですが、採用の段階でどうやったら見極められるのでしょうか。実際にトライアル期間で仕事を一緒にするほかに、面談をしていく中でも見極めるポイントが見えてきました。それが次の4つの観点です。

(1)現職の仕事を辞めてから応募にチャレンジしようとされる方は危ない

私たちの採用プロセスでは採用に非常に時間がかかりますし、そのことは表明しています。どれだけ実力があっても、信頼関係を築くためにはそれなりに時間がかかります。それを分かったうえで退路を断つというのは、リスクマネジメント的にも、それを受ける私たちの印象を考えてもマイナスです。

もちろん、例外もあります。とてもブラックな会社で働いていたので、遅かれ早かれどのみち会社を辞めるし、もし採用で落ちたとしても次のメドがあるというようなリスクマネジメントができているのなら大丈夫でしょう。要は「後先をちゃんと考えて行動しているか」ということです。

(2)面談をしている中で私たちが期待していることを答えようとする

頭の回転が速く、相手の期待を読み取る能力があることは、仕事をしていくうえで非常に大切です。しかし、面談の場では相手の本質を知りたいし、長くやっていけるように価値観やカルチャーが合うかどうかを見極めたいので、いい回答をするだけではダメなのです。

転職のような重要な局面で、しっかり自分自身の考えを持っていないと、その先でいつか後悔するときに誰かのせいにしてしまうことになります。自分で決めたことならがんばれるはずです。会社と社員は長く付き合っていきたいと考えているので、そもそも表面的な回答はいらないのです。

(3)採用の面談で一方的に判断してもらうのを待ってしまう

採用は互いに見極めるものだし、数字やチェックリストだけで判定できるほど簡単なものでもなく、進め方に正解もありません。指示命令の統制の効いた会社で受け身で仕事をしてきた人は、採用応募でも受け身で判定を待ってしまいがちです。それでは、セルフマネジメントの会社では通用しません。

「どうすれば一緒に働くことができるのか」という難問に対して、ただ一方的に待つのではなく、会社側と一緒に考えていける人を望んでいます。

(4)入社することをゴールに設定している

もちろん「一緒に働きたい」と言ってくれる人はうれしいし、非常にありがたいことです。しかし、入社をゴールにすると、入社した途端にモチベーションがなくなってしまう可能性があります。それよりも、「自分が何かしたいことがあって、そのために入社するんだ」というほうが安心感があります。

私たちは、規模を拡大するための単純な労働力として人が必要なわけではありません。会社は、働く人たちにとってのビジョンを叶えるための場所や機会でありたい。だから、入社後にやりたいことを持っている人がいいし、一緒にできることなら一緒にやりたいし、会社をあげて応援もしたいと考えています。