「残業が大嫌いになった」丸井グループの社長は働き方をどう変えたのか

総合「残業が大嫌いになった」丸井グループの社長は働き方をどう変えたのか

おじさんが夜遅くまで残業をしても、会社の業績はよくならない──そう断言するのは、株式会社丸井グループ代表取締役社長の青井浩氏。「日本で最も残業が少ない会社の1つ」になるまで働き方を変えた同社では、今、多様性を生かしたイノベーションへと視野を広げている。小室淑恵・ワーク・ライフバランス社長が、“丸井流働き方改革”の真実に迫る。(まとめ/アスラン編集スタジオ 渡辺稔大、撮影/内藤洋司)

「日本で最も残業が少ない会社の1つ」になるまで働き方を改革した丸井グループの取り組みとは?

あるときを境に
残業が大嫌いになった

小室 青井社長は、働き方改革に取り組むにあたって、どのような問題意識をお持ちだったのでしょうか?

青井 僕は日本の労働観があまりよくないと思っているんです。「日本で働く人の約7割が自分のやっている仕事と働いている会社が嫌い」というショッキングなアンケート結果を見たことがあります。これは先進国の中でも最悪です。そういった労働観が変わらないと、20年以上停滞している経済も良くならないんじゃないか、と。

小室 7割が自分の仕事と会社が嫌い!なんと……。

青井 労働観を良くして、仕事をもっと楽しく創造的にするにはどうしたらいいか。そう考えたとき、きっかけづくりとして残業削減が大きいと思いました。

小室 それはいつごろのお話ですか?

青井 2003~4年ぐらいでしょうか。実はそのころを境に残業が大嫌いになったんです。

それまで僕自身が猛烈に残業していました。バブル崩壊後に業績が急落して、ちょっとパニック状態の頃でした。だからなんとか建て直さなきゃいけないということで、管理職や役員が率先して残業をやっていた。当初は、こうして残業して頑張っていればまた業績も良くなると考えていたんですね。

小室 でも、良くならなかった。

青井 良くならないという以上に、だんだん悪くなってきた。むしろ、やればやるほど悪くなっていくような感じで、肉体的にも精神的にも負荷がかかってきて……。だんだんついてこられない人が出始めるんですよね。

小室 聞いているだけでもつらいですね。

おじさんが悪いのではなく
「おじさんの会議」がダメ

青井 浩(あおい・ひろし)
株式会社丸井グループ代表取締役社長。1961年生まれ。東京都出身。83年慶応義塾大学文学部卒業後、86年に丸井(現・丸井グループ)入社。91年取締役営業企画本部長、95年常務取締役営業本部副本部長兼営業企画部長、2004年副社長などを経て2005年4月から現職

青井 なんとかこらえて残業を続けているメンバーに僕も入っていたんですが、当時、午後3時から夜10時~11時ごろまで晩飯も食べないで続ける会議があったんです。そこで朦朧としながら参加者の顔を見ていたとき、「待てよ」と。「ひょっとして業績が良くならないのって、いつも同じメンバーで夜遅くまでこうして議論していること自体に原因があるんじゃないか」と気づいたんです。

それ以来、「残業」と「おじさん」が大嫌いになりました。僕の2大敵は残業とおじさん(笑)。「おじさん」とは、取締役とか部長といった幹部の人たちです。

おじさんそのものが悪いわけじゃなくて、おじさんだけでやるのがダメなんです。ダイバーシティがあれば、おじさんの知識とかノウハウも生きてくる。

小室 画一的なおじさんが残業する状態が最悪だ、と。当時の青井さんの役職は?

青井 常務だったと思います。だから、自分で意志決定できるようになるまで、しばらく我慢しなきゃいけなかった。2005年に社長となり、実際に働き方を変え始めたのは2007年ごろです。

小室 青井社長のお話は、日本全体の働き方が今のような状態に陥った要因と密接に関係しています。つまり、上層部が「今は緊急事態であり、我慢して建て直すときだから」と考えていた。現場はそれまで5人でやっていた仕事を「ちょっと緊急だから3人でやって」と言われて、緊急事態だから仕方がないと頑張っているうちに、3人のままにされてしまった。

会社全体がそんな状態の時に、働き方を変えるというと反発も大きかったと思います。どのように説明をされたんですか?

青井 説明ではなくて、我々の行動を変えたんです。上の人が残業をしていると、どういうことが起きるか。たとえば、22時、23時まで役員が会議をしていると、下の人が決裁をもらうためにずっと残っている。時間が無駄になり、帰りが遅くなるんですね。

だから、我々が率先して会議を早く終えて、みんなが早く帰れるようにしよう、と。

社員が自主的に
プロジェクトに参加する風土

小室 働き方改革の道のりを振り返ったときに、ビジネスにおける最大の成果は何だったと思われますか?

青井 イノベーションを創出できる会社になってきたことかなと思います。残業には、やらされる負担感がありますが、それが減ってきたことで、より主体的・創造的に仕事に取り組めるようになり、やりがいとか楽しさが出てきたからだと感じています。

小室 主体性を感じた変化にはどんなものがありましたか?

青井 僕がずっと目指してきたのは、一人ひとりが手を挙げて自主的に参加する組織風土を作ることです。今、当社は「インクルージョン」をテーマに、「LGBT」「女性活躍」「健康経営」といったことにプロジェクトを通じて取り組んでいます。

プロジェクトは、社員が自主的に手を挙げて参加するんです。面白いことに、健康経営の人気が高く、50人の募集に対して約5倍の260名が手を挙げました。志望動機を書いてもらって、選考したんですけど、ものすごくやる気がある人ばかり集まりました。

小室 健康経営って、どんなプロジェクトですか?

青井 具体的には、睡眠や休息の取り方、運動のやり方、食事の仕方など身体に関することに加え、周囲の活力を高めるための精神性や頭脳、情動との関係性なども学びます。たとえば間食の仕方などが結構面白いんです。ちょうど午後3時~4時ぐらいになってくると血糖値がある程度下がってきて、生産性も下がってくるんですね。

青井 頭がぼうっとしてあまり考えられなくなり、とっさに反応できなかったり、なんとなく茫然と立ち尽くしてしまったりする。そういうタイミングで血糖値を急激に高めないドライフルーツやナッツ類を補給するといいんです。こうしたことを社員皆で学んで、実践していくことを広げるプロジェクトです。

小室 それは面白い! なぜ他社でやっていないのかが不思議なくらいです。海外では、特にエリート層の人たちが、日中の8時間をいかにマックスの集中力で仕事をするかを追求していますよね。

青井 欧米で言うと、P&Gなどに「コーポレートアスリート」というプログラムがあります。アスリートのように心身を万全の状態に整えて仕事に挑むという考え方です。弊社の産業医の先生が、日本でもコーポレートアスリートができないかと考え、勉強会を行っていたというお話を聞き、それならぜひうちでやってみましょうとお願いしました。最初は役員などトップ層からスタートして、今、マネジメント層に広めていくフェーズに入っています。

小室 社員が手を挙げてプロジェクトが進んでいる、自発的な風土が醸成されていることが、本当に素晴らしいですね。

「日本で最も残業が少ない会社」を
どうやって実現できたか?

小室 2008年には有志が集まって「働くプロジェクト(ハタプロ)」をスタートしていますよね。2008年に残業削減に着手したのは、とても先駆的ではないかと思います。私が起業したのは2006年なのですが、その頃は「ワーク・ライフバランス」という社名を言うと、「ああ、女性の育児支援の会社ね」と言われていました。女性の話ではなくて、男性も含めて全社員の労働時間を改善する必要性を、まだ日本企業のほとんどが感じていなかった頃だと思います。そして、現在、社員の平均残業時間はどれくらいになったのですか?

青井 2016年には年間44時間まで減りました。

小室 年間!?

青井 年間です。月間とよく間違われるんですけれども……。なので、「日本で最も残業が少ない会社」と言われているんです。

大企業で月間残業時間を
「4時間弱」にした業務改善策

小室 月間4時間弱……それって1日11分!?ですよね。この規模でそこまで残業が少ない会社はないのではないでしょうか。何千人も社員がいて、月間残業が4時間弱というのはなかなかできないですよ!具体的には、どのようなプロセスで業務改善を行ったのでしょうか?

青井 まずは仕事の段取り、店舗で言えばきめ細かなシフトをきちんと組むこと。商売柄、朝早くお店を開けて、夜遅くまで営業しているので、通し勤務が難しい。だから店長たちがシフト勤務を50パターンぐらい作ってくれたのです。シフトを組むのはすごく大変だと思いますが、きめ細かくマネージしてもらっています。

小室 通常の店舗では、「メンバーの個別の事情に配慮していたら店を運営できないから、わがままは聞かない」というスタンスでマネジメントをしがち。御社では、そこを細かく対応するのがマネジメントだという認識になっているわけですね?

青井 何か方針を出して徹底させるとか、守らなかった人を怒るといった手法は採っていません。「もともと残業をしたい人はいない」というのが僕の発想なんです。だから、店長、部長、役員は、残業しないで回っていくようにファシリテートしてあげればいい。

みんな、時間があれば家族と過ごしたり、友達と会ったり、自分のやりたいことをやったりしたいはず。その思いが実現するように、上司がファシリテーターになってお手伝いするだけ。なので、そんなに大変ではないと思っているんです。

小室 他社でコンサルすると、「うちには残業をしたい人が多いんだよ」という声を聞きますが……。

青井 それは全然ないわけじゃない。当初は、やっぱり残業が長く続いていたので、残業代が給与に組み込まれてしまっていた。残業代を生活費と認識していた中堅社員などは、やっぱり「ちょっと勘弁してよ」という気持ちがあったと思います。