総合ヘッドハンターの仕事:第3回 マッチングの作法
ヘッドハンター、武元康明さん(45)の仕事は、人材を必要とする企業から依頼を受けて始まります。あるメーカーの経営企画室長に「畑違い」の元トップセールスマンをあっせんしたケースなどから、その仕事に迫ります。
◇サーチファーム・ジャパン社長 武元康明さん
武元さんは2003年、勤めていた大手商社系の人材紹介会社から独立して、企業からの依頼を受けて候補者を探す「サーチ業務」を専門とするヘッドハンティング会社、サーチファーム・ジャパンの設立に参加した。ちょうどそのころ、西日本のあるメーカーから経営企画室長をヘッドハンティングしてほしいと依頼が入った。この仕事は、「顧客が抱えている課題の本質」をつかむことがいかに重要かを改めて考える貴重な経験になった。
メーカーが探していたのは「経営企画の経験者でIR(投資家向け広報)の経験もある人材。できれば実務経験豊富な者」だった。しかし、武元さんはこの案件で、経営企画の業務には畑違いの製造業の元営業マンを候補者にリストアップし、最終的に顧客企業もこの人物を新たな経営企画室長に迎え入れた。
会社の中長期の計画を描いていく経営企画という部署は、社長の直属的な組織であり、全社の事業を横断的に見ていく必要もある。社内の隅々まで熟知し、求心力を持った人でないと務まらない。本来なら内部昇格をすべきポジションだ。その要職に外部人材を登用したいという会社は、組織に何らかの課題があるのではないか、と武元さんは直感した。
同社の幹部にヒアリングをすると、会社の経営方針が社内に十分浸透していかないことが大きな課題になっていることがわかってきた。前任者はこつこつ実務をこなし、社外向けのIRもしっかりと果たしていたが、社内では控えめでコミュニケーション能力に欠けているとの評価もあった。社内をとりまとめていく役割も、外部に求めている人材に期待されていた。
社内の求心力を高めたいという課題に必要な能力は何だろうか? 突き詰めて考えていくうち、武元さんは「営業のセンスが役立つのではないか」と思いついた。
「営業経験者で、かつ経営企画をできる能力も備えた人ならピタッとはまる。だけど、そんな虫のいい話はないか−−」と思いながらも探すと、該当しそうな人が見つかった。
東証1部上場企業の営業を経験し、ビジネス誌に「日本の優良企業のトップセールスマン」として紹介されたこともある男性だった。武元さんが声をかけたのは、本人も転職活動を考え始めていたタイミング。「前向きに検討してみたい」という返事があった。「営業だけだと、会社の経営全体が見えてこない」として、経営企画的なポストに就きたいと思い、MBA取得を視野に入れて努力していたところだった。
この元営業マンのほか、銀行員、上場企業の経営企画経験者ら5人ほどを依頼主に紹介した。選ばれたのが、この元営業マンだった。従来の常識にとらわれない人選をした武元さんのひらめきの勝利だった。
企業が個別に抱える課題はさまざまで、求人票だけを見ていても読み取ることはできない。人材のあっせんには成功したものの、その後の経営環境の変化で転職者を厳しい立場に立たせてしまうという苦しい経験もした。
関西地方のある1部上場のメーカーに経営企画、情報システム、生産技術の部門長ら5人をあっせんした案件だった。創業者のオーナーが主導した改革で、社会のデジタル化により主力事業が将来、先細りしていくことを見越し、事業改革と新規ビジネス開発のため人材を求めていた。ところが、ヘッドハンティングから数年後、創業者が亡くなると、事業承継を進める中で投資ファンドが介入、社内の状況がガラリと変わった。
「順調だったんですけど、実は……。これはもう敗戦すると思うので、次(の転職先)をちょっと考えてくれませんか」−−。ある日突然、武元さんが送り込んだ経営企画の役員から電話がかかってきた。
急行して話を聞くと、転職した5人とその採用を担当した上席役員が会社から出されるという。武元さんは彼らを受け入れてくれる会社を探したが、時間が足りず、5人はその後バラバラに転職していった。
武元さんは、ヘッドハンティングした当時、創業者のオーナーが実権を失った場合に問題が発生するリスクに気づいていなかった。しかし、創業者の年齢や健康状態まで十分に配慮できていれば、事業承継の際に起こる問題をある程度、予想できたかもしれない。「事前に見通せていれば、候補者に対してそうしたリスクの情報も伝えてあげることができたのでは」という悔いが残った。
ヘッドハンティングでは、転職を考えていない人にも手紙を出し、アプローチしていく。こちらの送った手紙に振り向いてくれた人が、移った先のごたごたに巻き込まれ、苦境に立たされてしまうのはいたたまれない。「法的な問題ではなく道義的な責任だから、考えなくてもいいという考えもあるだろうが、自分はやはり責任を感じてしまう」と武元さんはいう。
ドライに割り切って選択させるヘッドハンティングのやり方では、そもそも候補者と信頼関係を構築していくことができない。仕事は顧客企業からの依頼があってこそだが、ヘッドハンターの立ち位置はあくまでも中立。双方の立場をバランスをとって考えながら進めていく。「自分の仕事の進め方にはいい面と悪い面がある。自分のやり方がよかったかどうかは、この仕事をまだしばらくやって、その後で振り返りたい」=31日の第4回「医師の世界」に続く


