総合いまどき世代は「お金」より「自分の時間」。トータルリワード(非金銭的報酬)をどう提供できるかを考えよ。
井上 先ほど、動機付け要因が変化しているとおっしゃいましたが、読者の方向けに、少し大くくりの、フォロー型マネジメントのフレームワークを解説していただけますか。
石田 それには2つあって、1つは、すでに話したように仕事を標準化していくということ。具体的な行動で標準化していくということですね。
井上 行動分析マネジメントでは、標準化していく過程で、分析に用いる原理・行動は、できるだけ少なく、シンプルにすることが大事だと聞きます。誰でもわかるマネジメントでなければ効果は上がらないでしょうから、当然そうなるのでしょうね。
石田 例えば、ある会社から業務上の大きなミスが発生したとのことで相談を受けたことがあります。そこで、その会社の社員の行動をデータで調べたら、ミスを防止するために義務付けられていた確認行動が多すぎるんですね。手順も回数も多すぎて、一人が1日に100回以上も繰り返していました。それは忘れるだろうな、と。だから、回数を計測していって、いかに行動を単純化し、少なくしていくかが、効果を上げるためには凄く重要なんです。
井上 もう1つは何でしょうか。

石田 「トータルリワード(非金銭的報酬)」をどう与えていくかということです。わかりやすく言うと、心の報酬を仕事上でどう与えていくのか? お金の報酬以外の報酬をどう与えていくのか? ということです。「感謝」や「時間」「成長」「絆」といった、それぞれが望んでいる報酬を適切に与えていくことが重要です。そういうことがないと、会社に対しての帰属意識も全然生まれませんから。そして、与える際には、相手が本当に望んでいる報酬を与えるということと、部下が望ましい行動をしたらできるだけ早いタイミングで与えることが大事です。
井上 こうした考え方や取り組みも以前はなかったですよね。
石田 僕が『組織が大きく変わる「最高の報酬」 トータル・リワードを活用した行動科学マネジメント』(日本能率協会マネジメントセンター)という本を出したのが10年前ですが、当時そんなことをしている日系企業は見たことがなかった。大手外資系企業は実践していましたが、彼らの取り組みを紹介したときの反応は凄かったですね。「こんなもの! なんで部下をほめなきゃいけないんだ?」とかね。
井上 そうなんですか?
石田 そうです。「ワークライフバランス」なんて言葉もまだ一般的ではなかったですからね。今は本当に変わってしまいましたね。
井上 現在では、日本の名だたる企業が導入しています。
石田 そうですね。部下との関係性はちゃんとつくっていかなければならないし、それこそほめたりとか、仕組みをつくらなければいけないということは、日本企業もだいぶわかってきたようです。
井上 部下のやる気というのは、「出せ!」と言って出るものではなく、今、石田さんがおっしゃったようなことから自然と出てくるということですね。
石田 そうです。“できる”という経験を与えないとできないですよね。モチベーションだけ「上げろ、上げろ」と言われても上がりませんから。走れない人間に、「とにかく走れ!」「気合で走れ!」と言ってもできません。今の時代は、シューズの選び方から始めて、「こう走るんだよ」と教えてあげないと走れないんです。だから、「教え方を教えてほしい」という企業はとても増えましたね。
井上 管理職は、そもそも自分がまともに教わっていませんからね。
石田 本当にマネジメントの過渡期というか、ちょうど曲がり角にきたのだと思います。僕が、初めて行動科学マネジメントの本を出したときにも、全然受け入れられなかったですからね。「マニュアルを作ったり、事細かく教えるなんてあり得ない」みたいに言われたこともありました。でも今は全然変わってきましたからね。
井上 帰結するところは、結局、精神論みたいなところもありましたね。一方で、無料カフェテリアがあるとか、福利厚生施設の充実みたいなことが過剰に賛美された面もあります。それだけで仕事ができるようになるわけないんですけれどね。
石田 現実に目の前に問題が出てきたのでもうダメだということで気づき始めたんですね。仕組みをつくるのは大変ですからね。
井上 昔よりはましになった気がするのですが、今でもメディアも含めて働きやすい会社、やりがいのある会社というと、ヘンに面白い部分とか、無料で御飯が食べられるとか、きれいなオフィスだとかを取り上げる傾向があります。
石田 今の若い人は、「とにかく早く帰らせてほしい」です。彼らにとって一番は時間なので……。

井上 その部分の仕組みをちゃんとつくって、成長させてあげて、生産性が上がれば、定時にちゃんと帰るとか、週末とか休祝日に全部休めるようにもなっていく。それなのに、働き方改革というと、前者をやらずに後者ばかりを言っている気がするから、僕は、日本はまずいんじゃないかと思っています。みんなが、ただ仕事を中途半端にして定時に帰ったら、どうなるのか。そもそも国レベルの比較では、日本の生産性は低いですからね。
石田 そうですね、先進国の中で一番低いかもしれない。よく企業幹部の方に僕が言っているのが、「とにかく普通の人が普通に働いて成果をあげる仕組みを作らなきゃダメですよ」ということです。社員のために、その仕組みをどうつくってあげるかなんですよ。
井上 凡人な人に卓越した成果を出させることが……。
石田 そう、やっぱり仕組みをつくるしかないですよね。そうでないと残らないと思いますよ。
井上 石田さんとしては、そういうところにちゃんと再現性がある工程・仕組みを作る方法を教えてさしあげる、と。
石田 作り方を教えるというか、一緒につくっていくような形をどこかで取り組んでいかないと本当にできない。人に関することは、これからどう考えたってますます大変になりますよね。数はもっと減っていくわけなので。しかも大手企業は採用意欲が異常に高い。誰が聞いても知っている名前の会社でも、コストをかけて、採用に力を入れています。そうすると、中小企業は勝てないですよ。良い人材は根こそぎ持っていかれます。