車業界など引き抜き合戦 IT転職、5割超が異業種に

総合車業界など引き抜き合戦 IT転職、5割超が異業種に

「えっ!? あの電気機器メーカーにお勤めなんですか! それならぜひ弊社にきませんか。」。トヨタ自動車が7月にJR南武線の駅に出した広告が話題になった。トヨタのターゲットは沿線のIT(情報技術)技術者だが、こうしたニーズはトヨタにとどまらない。

民間調査では2017年1~8月に転職を決めたIT人材の5割超が異業種に移った。人工知能(AI)分野などを強化したい企業は高い報酬だけでなく、都心に研究施設を設けたり、私服での勤務を認めたりして、人材獲得に工夫を凝らしている。

トヨタ自動車が7月にJR南武線の武蔵小杉駅に張り出したポスター

トヨタ自動車が7月にJR南武線の武蔵小杉駅に張り出したポスター

■求人倍率3.88倍、「シリコンバレーより南武線」

リクルートキャリア(東京・千代田)によると、17年1~8月に同社の転職支援サービス「リクルートエージェント」を利用して転職が決まった「IT系エンジニア」の54.4%がそれまで働いていた業界とは別の業界に移った。8年前の09年から9.5ポイント上昇した。

同社がまとめたIT系エンジニアの8月の転職有効求人倍率は3.88倍と、前年同月比0.66ポイント高まった。全業種平均の1.90倍を大きく上回る。同社は「自動車、金融、消費財、コンサル業界など幅広い業種で需要が高まっている」としている。IT系エンジニアには自動運転技術などの開発に必要な「組み込み・制御ソフトウエア開発エンジニア」、システム開発を担う「SE」、Webサイトやアプリなどを作る「インターネット専門職」を含む。

AIやあらゆるモノがネットにつながる「IoT」は、幅広い業種にかかわる主要テーマ。特に自動車業界は自動運転の開発に力を入れており、IT人材の採用に積極的だ。冒頭のトヨタの広告は、富士通NECなど電機大手の集まる南武線の駅に出したのがミソ。トヨタが出した別の広告は「シリコンバレーより、南武線エリアのエンジニアが欲しい。」と勧誘している。

■都心に向かう研究開発拠点

自動車大手の研究開発拠点は郊外に置かれるケースが多かったが、最近はIT人材が働きやすい都内に拠点を構える動きも相次ぐ。16年9月、ホンダの研究開発子会社、本田技術研究所は東京・赤坂の高層ビルに研究拠点「ホンダイノベーションラボ東京」を開いた。AIや自動運転に関連する新技術の開発を担当している。

日産自動車は16年10月、コネクテッドカー(つながる車)の技術を開発する拠点を東京・中目黒に設けた。仏ルノー・日産連合でこの分野の開発を指揮する担当役員はこの狙いについて、昨年11月の日経産業新聞のインタビューで「テクノロジー企業にとってロケーションは重要だ。米国でもフランスでも、面白いスタートアップは都心の近くにオフィスを設けている」と説明している。

アイシン精機は17年4月に自動運転に必要なAIなどを開発する拠点「台場開発センター」を東京・江東に開いたほか、デンソーも16年1月に東京・日本橋に技術開発も手掛ける新オフィスを開いた。リクルートキャリアは「IT系エンジニアは情報の最先端である都心での勤務を志向するため、企業は都心に拠点を設けて人材採用の優位性を高めようとしている」と分析する。金融とITを融合するフィンテックの活用を急ぐ大手銀行では、IT企画の関連部門は私服勤務を認める例も出ているという。

■転職時の賃金上昇、異業種が寄与

業界の垣根を越えた採用合戦は転職時の賃金上昇にもつながっている。転職して1割以上賃金が上がったITエンジニアの割合は16年が26.4%と3年前に比べ5.1ポイント上昇した。業界別の寄与度を見ると、製造業1.4%、コンサル業界1.1%、金融業界とIT業界がそれぞれ1.0%だった。

転職仲介などを手掛けるエン・ジャパンによると、大手の消費財メーカーでも年収1000万円以上の厚待遇を提示する例もあるという。エン・ジャパンは「インターネット上での商品販売を強化しており、外注していた開発を内製化する需要が強い」とみている。