VOL.1 加熱する人材市場においていま、何が起きているのか? 働き方改革の本質とは?

総合VOL.1 加熱する人材市場においていま、何が起きているのか? 働き方改革の本質とは?

井上 石田さんのご専門の「行動科学マネジメント」について、最初に簡単にご紹介させていただきます。石田さんからこれまでにお伺いしたことやご著書から、私なりの理解でまとめますと——

行動科学マネジメントとは、①行動そのものを分析する「行動分析学」という学問に基づいていること、②抽象的な概念や計測できない要素を一切排除し、具体的な行動に焦点を当てて物事を見ていくこと。③その状況に応じた最適な行動の集積が成果につながると考えること、といった特徴(あくまでごく一部分ですが)があって、精神論や経験と勘に基づくマネジメントとは決定的に違うということです。
だからこそ再現性があり、どんな仕事にも使える。また、時代が変わり、社会情勢が変わっても、技術的な汎用性というか普遍性があると思います。
一方で、石田さんが行動科学マネジメントを日本に紹介されてからここまで10年ほどが経っていますが、その間の時代の変化に関して、まず石田さんはどんな印象をお持ちでしょうか。

石田 働き方改革の影響は、かなり大きいと思いますね。仕事への考え方がひと昔前とは全然違うのではないでしょうか。新卒の子なども、価値観が全く違いますよね。

井上 リーマンショックがあって、雇用の氷河期があって、震災がありました。そのあと人材需給バランス的には需要が高まって、この数年、人材市場は加熱する一方です。去年からは急に、「こんなに日本人っていなかったんだっけ?」みたいな状況になりましたね。

石田 採用難の会社も多いですよね。それこそ井上さんの仕事も、これからさらに忙しくなるのでは?
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井上
 僕らが支援している幹部人材強化策、特に幹部層の採用・転職については、もともと十数年前、厳密に言うと2000年あたりまでは、日本企業では幹部を外から縁故以外で採るという発想がありませんでした。それが今は当たり前になったので、この17年くらいの変化は僕らから見ても大きかった。まだまだ市場が固まってない所に、そこへきて今度は「人材がいない!」みたいな話になったので、大変は大変です。需要が増大し続けるというのは事業提供側のプレイヤーとしてはありがたいことですが、しかし、だからといって人材の乱暴な紹介はできない。きれいごとではなく、僕らの仕事の矜持として、そこは守っていかなくてはいけないと思っています。
それはともかく、石田さんの話に戻すと、欲しい人材を採り切れるわけじゃないのだから、企業にとっては、今いる人をどう生かしていくかが大事になりますよね。

石田 「営業はやりたくない」という若手もたくさんいますしね。「営業だったら辞めます」と。しかし、仕事なんて大半が営業ですから、それで「やりたくない」と言われたらどうするんだ? という話ですよ。離職率も高いままですし……。

井上 卒業後はとりあえず就職しなければいけないので、「がんばります!」と言って営業職に就くけれども、本当は営業が嫌だから心が疲れてしまう。それで「やっぱり、事務系の仕事がしたい」となるケースも多いですね。

石田 働き方というか、仕事観は、かなり変わってきているのに、それをわかっていない40代、50代の管理職が会社にはたくさんいます。そこのギャップが大きいのではないでしょうか。

井上 いわゆる世代間闘争になっている?

石田 闘争というか、価値観が違う。お互いにそこがわかっていないために、大変になっているところがたくさんあるのではないでしょうか。

井上 それについて、行動科学マネジメントではどんなアプローチをされているのですか? 例えば、課長さんたちに対しては……。

石田 僕は、日経の「課長塾」というところで、大手企業の課長部長クラスの方を対象に年間17回くらい話をしていますが、そこでよく話をするのは、「働き方改革」の本質に関することです。多少残業を減らすとか、会議の時間をストップウォッチで計って短くする――といったことが、働き方改革の本質ではありません。実は、先日も台湾で同じテーマの講演をしてきたんです。今、台湾で私の著書『<チーム編>教える技術 行動科学で成果が上がる組織をつくる!』(かんき出版)が売れているんですが……。

井上 昨年度のベストセラーのトップ10に入ったそうですね。

石田 そうなんです。それにも理由があって、台湾でも今年から、日本の働き方改革と同様の法律が施行されました。残業を減らして売上げを上げるために、どうやって生産性を上げるか悩んでいるんですね。台湾も90%くらいが中小企業ですから、みんな困っている。
で、今なぜ日本や台湾がそういう改革をしているかというと、2つ理由があります。1つは、製造業以外のグローバル企業をつくっていきたいんです。そのためにも、人と仕事を分離させなければいけない。人に仕事をくっつけてはいけないんですね。なぜなら、〝その人しかできない仕事〟をつくっていると、グローバル化することができないからです。
もう1つは、日本は間違いなくそうですが、人口減少社会の中で、いずれ外国人を受け入れざるを得ないこと。そうなると、外国人労働者は、日本人同士の〝阿吽の呼吸〟のようには働けませんから、誰もが同じ仕事ができるような環境をつくっていくことが必要になります。
つまり、働き方改革の本質とは、仕事と人を分離させて誰でもができるような環境をいかにつくるか、ということなんです。言ってみれば、欧米型に近づいていくような感じですね。

井上 <人と仕事を貼り付けない>というのは、多くの日本企業にとっての課題でしょうね。

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石田
 まだまだ中小企業には、マニュアルもないとかチェックリストもないとか、ある社員に辞められたらノウハウが全部消えてしまうということもありますからね。そこがだいぶ変わっていく。変えざるを得なくなっていくでしょう。

井上 以前、この対談シリーズでも話題にしたのですが、僕がたまたま見たテレビ番組で、宮内庁御用達みたいな伝統的な和菓子の木型をつくっている職人さんが、もう5人くらいしかいない、と。そして、皆さん高齢なので、このままだと10年以内に後継者が誰もいなくなるというのです。もちろん、伝統的な文化や技術は大切に守っていった方がいいのですが、その一方で、今は3Dプリンターがあります。木型の風合いが全て再現されるかはわかりませんが、それで代替できてしまいますよね、という話もあるわけで……。

石田 それができれば全然いいと思いますよね。そういう話だったら世の中、大変なことだらけですよ。例えば、醤油メーカーも後継者不足で大変なことになっています。3Dプリンターみたいな機械で代替できるところは、やったらいいと思う。それさえできない業種はまだまだありますからね。

井上 そこを肯定として、技術をちゃんと可視化することが重要ですよね。

石田 絶対に必要です。それこそ、人と仕事を分離させることが絶対に必要になっているんですよ。人と仕事がみんなくっついてしまっているので、社員に辞められたり、倒れられたらアウトになってしまう。
また、先ほども言いましたが、若手層の仕事観がかなり変わってきているので、そのギャップが凄く大きいですよね。管理職の方々の言い分である「仕事なんだからやって当たり前。大変なのは当たり前だ」という理屈が若手には全く通用しません。そのやり方では離職率も下がらないし、何も変わらない。若手層でも仕事ができるような仕組みをどうつくっていくのか、という方向に、だいぶ変わってきた感じはします。