総合労働力不足なのに、サラリーマンの給料は上がらないのか 同一労働同一賃金に近づいている?
「物の値段は需要と供給の関係で決まる」というのが、経済学の大原則です。労働力の値段、つまり賃金についても同様です。しかし、これだけ労働力不足が騒がれているのに、正社員の給料はなかなか上がりません。今回は、その理由について考えてみました。
非正規労働者の時給は、上昇している
アルバイトの時給等、非正規労働者の時給は、すでに労働力不足を反映して上昇しています。非正規労働者を正社員として囲い込もうという動きも出始めていて、非正規労働者の待遇は着実に改善しつつあります。それは、彼らの待遇は経済学の大原則どおり、需要と供給の関係で決まるからです(最低賃金の制約を別とすれば、ですが)。
これは、労働力不足の素晴らしい点です。最も恵まれていない失業者が仕事にありつき、次に恵まれていないワーキングプア(正社員になれず、非正規労働者として生計を立てるが、満足な収入が得られず貧しく暮らしている人々)の生活がマトモになっていくからです。
「釣った魚に餌はやらない」から会社は正社員の給料を上げない
非正規労働者は、時給を上げないと必要な人数が採用できないばかりでなく、今いる非正規労働者もライバルに高い時給で引き抜かれてしまいます。したがって、時給を上げざるを得ないのです。
非正規労働者の待遇が改善しているのに、正社員の給料が上がらないのは、正社員が会社から見て「釣った魚」だからです。正社員は、終身雇用で年功序列賃金ですから、賃上げをしなくても辞めないのです。
年功序列賃金というのは、若い時には会社への貢献よりも少ない給料を受け取り、ベテランになると会社への貢献より多い給料を受け取る(生涯を通じた損得はない)という制度です。したがって、正社員としては、会社を辞めて転職して「転職先への貢献度合いに応じた給料」を受け取るよりは、将来も今の会社にいて「貢献度合いよりも多い給料」を受け取った方が得なのです。だから、賃上げをしなくても辞めないのです。
初任給、中小企業の給料は上昇の兆し
正社員でも、初任給は上がり始めています。採用戦線が超売り手市場となっているため、初任給を引き上げないと優秀な人材が確保できないからです。学生が先輩訪問をしそうな若手社員の給料も、ある程度上げておく必要があるでしょう。
本来ならば、「学生が生涯所得を見て就職先を決めるので、全社員の給料を上げる必要がある」はずなのですが、実際には学生は若手の給料だけしか見ない場合が多いので、若手の給料だけが上昇しているのです。
中小企業にも、賃上げの兆しが見え始めています。中小企業は、大企業と比べて終身雇用、年功序列賃金の制度が明確でありませんし、大企業と比べると給料の水準がだいぶ低いので、賃上げをしないと大企業に労働者を引き抜かれてしまう可能性もあるからです。日本では労働者の多くは中小企業に勤めているので、中小企業の賃上げが本格化してくれば、素晴らしいことですね。
正社員の賃上げが行われなくなったのは、株主重視が原因
昔は大企業も普通に賃上げが行われていました。「会社は家族、会社は社員の共同体だから、儲かったら社員に報いるのが当然」と皆が考えていたからです。
しかし、バブル崩壊後の長期停滞期に「グローバルスタンダード」などという言葉が流行り、米国の真似をして「企業は株主の物だから、儲かったら配当するのが当然」と考える経営者が増えてきたのです。上場企業の株主に占める外国人のウエイトが上昇したことも、そうした流れを加速させたと言われています。
日本企業は、「終身雇用・年功序列賃金」と「儲かったら賃上げ」という二つの点で米国企業と異なっているわけですが、前者が残って後者だけが変化したので、正社員の給料が上がりにくくなってしまったのです。
ちなみに、米国では、全員が「非正規労働者」ですから、釣った魚ではないので、労働力不足になれば素直に社員の給料も上がります。日本の現状が、特殊だというわけですね。
同一労働同一賃金に近づくという意味では、悪いことではない
政府は、同一労働同一賃金を目標に掲げています。一方で、上記は、政府の施策とは関係なく、労働力不足が同一労働同一賃金を実現していく力を持っていることを示唆しています。
ワーキングプアの生活がマトモになり、若手の給料が上がり、中小企業の給料が上がり、大企業のベテランの給料が上がらないからです。これは、ある意味素晴らしいことです。
大企業のベテラン社員にとっても、悪い話ではありません。退職後は再雇用されるにしても転職するにしても、釣られた魚ではなくなりますから、自分の将来の待遇は、周囲の非正規労働者等々の待遇に影響されるわけです。そう考えれば、皆にとって望ましい変化が起きている、と考えることも可能なのではないでしょうか。