総合しまむら、出店計画に誤算 小売り襲う建設人手不足
マンション計画の白紙化、駅前開発の凍結、小売業の出店抑制――。東京五輪特需が沸騰するなか、建設業界で「深刻なリスク」が顕在化した。建設現場で実際に手を動かす職人の人手不足によって需給バランスが崩れ、職人の労務費は上昇の一途。それが建設コストの上昇につながり、建物投資を足掛かりにビジネスを展開する企業などが事業計画を見直す必要に迫られている。職人不足の弊害や実勢コストなどを継続的に取材してきた日経アーキテクチュア誌と日経コンストラクション誌による連載「建設人材危機」。第3回は、小売業などの出店計画に与えている影響をリポートする。
建設費高騰の影響は、小売業にも及び始めている。「2013年下期に予定していた新店舗が1年遅れて、今年ようやくオープンできることになった。最近では役員会で、店舗を建設する工期の遅れの話が頻繁に出る」。しまむらの野中正人代表取締役社長は、新店舗の出店計画における昨今の悩みをこう語った。
しまむらは衣料品などを扱う流通の大手企業だ。グループの店舗数は約1800店。毎年約70店舗の新規出店を計画し、事業を伸ばしてきた。その事業計画が狂った。2014年2月期(2013年3月~2014年2月)の計画では、グループ全体で新規店舗を約70店舗増やす予定だったが、実績は約50店舗増にとどまった。
しまむらグループ全体で、2014年2月時点の店舗数は当初の計画を18店下回った。2015年2月期(2014年3月~2015年2月)は、2015年2月時点で1933店舗を目指す目標を掲げた(資料:しまむらの資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
野中社長は「出店計画に無理があった。工期の遅れなどが要因で出店を見合わせたのは7店舗程度。直近の収益に大きな影響はない」と説明した。2015年2月期(14年3月~15年2月)は、工期遅れも想定した対策を取る方針だ。
■改修工事に職人が集まらない
影響は新規店舗だけにとどまらない。従来の店舗にもじわりと表われている。床を補修するために、一時的に店を閉めることになったある店舗でのことだ。閉店セールを実施し、改修工事に取りかかろうとしたが、職人が集まらない。工事がスタートしたのは1週間遅れだった。「本来ならもう1週間、店舗を閉めずに営業できた」(野中社長)
しまむらの例が特殊なわけではない。「施設の工事に遅れが生じた話を聞くようになった。現状では大きな影響はないが、不安はある。半年や1年、工期が遅れる事態になれば、計画そのものを見直す検討が必要だ」と語るのは、ワタミの介護サービスの広報担当者。介護サービスの分野でも、影響が広がりつつある。
老人介護施設やサービス付き高齢者向け住宅の運営といった事業の場合、施設を建てるオーナーから、運営事業者が建物を借り受けて事業を展開することが多い。そのため、開業日のスケジュールさえ守れれば、建物自体の工事に取り掛かる時期が延びても影響が出にくい。
問題は、当初予定していた工期が守れなくなり、開業自体が遅れてしまうケースだ。介護サービスを展開する学研ココファンの中山省吾執行役員企画開発部部長は、「工期が1週間延びるくらい…と思うかもしれないが、我々にとっては、たとえ数日の遅れでも、1カ月遅れることと変わらない」と説明する。
■開業が1カ月遅れるカラクリ
カラクリはこうだ。同社が運営するサービス付き高齢者向け住宅では、介護保険サービスを提供する。そのため、開業の日程に合わせて自治体に介護保険事業者の申請をして指定を受ける必要がある。その指定日が毎月1日と定められているのだ。
開業準備が間に合わずに1日からスタートできなければ、指定日の都合上、事業は翌月の1日からしか始められなくなる。
サービス付き高齢者向け住宅の収益モデルの例。介護保険サービスを提供するサービス付き高齢者向け住宅などの場合、開業が1カ月遅れると、減収や人件費負担などから、事業計画はマイナスからのスタートになる(資料:取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
予定が1カ月ずれ込めば、当然、その分見込んでいた収益が吹っ飛ぶ。さらに、開業に合わせて雇っていたスタッフの人件費がのし掛かる。「サービス付き住宅の場合、開業初日から満室ということはなく、大抵は赤字から始めて一定期間で黒字化を目指す。開業日が遅れれば、その分、赤字が増えた状態で事業を始めることになる」(中山執行役員)
■半数が「契約変更をお願いする」
サービス付き高齢者向け住宅は、国土交通省が注力している分野だ。2020年ごろに60万戸にまで増やすことを目指している。市場ニーズがありながらも事業リスクが高まれば、水を差すことになりかねない。
サービス付き高齢者向け住宅の棟数と戸数の推移。国土交通省は、同住宅を2020年ごろまでに60万戸に増やす方針だ。施設を新築する場合、1戸当たり上限で100万円を補助するといった整備事業を、2014年度は4月8日から開始。後押しに注力している(資料:国土交通省)
施設建設を発注する事業者にとっては、工事契約後の工事費上昇もリスク要因になりつつある。日経アーキテクチュアが2014年3月に実施した調査では、建築売上高上位30社の建設会社の半数が「工事途中でも契約変更をお願いする」と答えているからだ。
従来は、一度契約を結んだ工事金額を守る建設会社が少なくなかったが、状況は変わった。このような状態が起これば、事業者側は次の手を考えざるを得なくなる。ある事業者は「海外からユニット式の建物を輸入し、建てる方法を検討するかもしれない」と真顔で話す。
■震災前から人手不足始まる
本連載では、3回にわたって人手不足の影響を描いてきた。この「人材危機」を乗り越えるために、どんな手立てが必要か。
その処方箋を考えるには、建設業界の人手不足がなぜ起こっているのかを分析する必要がある。東日本大震災からの復興需要が主因だと考える人は多いだろう。しかし、実は震災前から人手不足は始まっていた。次回は、そのメカニズムを詳しく解説する。
建築売上高上位30社の建設会社に、工事契約締結後に労務費高騰などの影響から発注者に工事金額の増額を求めるかを尋ねた。半数は「お願いする」と答えている(資料:日経アーキテクチュア)




