企業の中で起業家のように働く方法はある。

総合企業の中で起業家のように働く方法はある。

井上 前回は、「ガリガリ君」でおなじみの赤城乳業を例に、社員に任せること、良い関係性の中で、部下が安心してチャレンジできる環境を整えることの重要性を話しました。仮に同社が今後陥るかもしれない罠があるとしたら、「まず今期これだけ売れ」みたいなマネジメントになってしまい、面白い商品を出し続けるカルチャーが失われてしまうことでしょうが、外から見ている限り、今はそんな心配はなさそうですね。


小杉 それで言うと、古典的ですが動機付けの「X理論、Y理論」の話ですよね。現に、有名なところでは、未来工業や伊那食品などのように、社員が自律的に働き、経営者が「社員を幸せにしたい」と語っている会社があるわけですよね。そして、総じてみんな儲かっているわけです。そうすると、「うちの社員はまだまだ自律できないですよ」なんて言っている会社は、「いつになったら彼らに任せられるんですか?」という話ですよね。
結局、社員が自律できるかどうかは、コンサル出身者やМBA取得者を採っているとか、一流大学を出ているとか大学院を卒業しているという話とは何の関係もなくて、上の人間が任せるかどうかの話です。Y理論で任せるから社員は自律的に動き回ることができる。逆に、X理論で彼らを管理すると、結局はいつまでたっても言われたことしかやれない社員と会社にしてしまう。第1回でもお話しした「関係の質」から始めるべきというダニエル・キムの話も、わかりきったことなんです。わかりきったことだけれど、多くの会社でやっていないのが不思議なんですよね。

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井上 ところで、僕が経営者として1つ思うのは、工夫するということに関してはどんどん焚きつけて、社員に任せて、仕事を楽しんでもらいたいと思っている経営者は多いけれど、プロセスの個数(取り組みの数)みたいなところで、非常に不満な部分があるのではないかということです。
いわゆるKPI的な話になってしまうんですが、「10行動してほしいのに、1しかやらないなら結果が出なくて当然だろうという」という不満です。小杉さんはそのあたりどう思われますか。

小杉 プロセスの個数とはどういうことですか?

井上 わかりやすく営業に例えると、営業マンのAさんは、商談での工夫を一生懸命に考えている。そこを楽しむのはとても良いことですが、長い時間をかけてPCに向かって作業をしていて動きが少ない。一方、同業者のBさんは、お客さんのところを毎日のように訪ねて、「この前のことなんですが、こんなのはどうなんですかね?」みたいな仕事を日々繰り返している。成績が良いのはBさんの方です。
工夫を楽しむこと(仕事の質)は大事。でも、プロセスの個数(試行錯誤の行動量)も大事です。両輪が揃った「工夫を楽しむ個数」が多くないと、高い業績は生まれない。経営者や上司としては、個数の方にわりと悩んでいて、それで「100件回れよ」みたいな指示になるケースが多い気がするんです。

小杉 それは新規事業企画が典型だと思います。どこの会社も新しいビジネスの柱が欲しいと「新規事業提案を出せ」と全員の社員に声をかけますが、ほとんど出てこないわけです。出てきたとしても今の亜流みたいなものしか出てこない。そこで経営者は、「お前らもっと頭を使え」とハッパをかけるんですが、やっぱり面白いものは出てこない。
その理由は簡単です。出てきた意見やアイデアを上の人間が叩いてしまうからです。最初から完成度の高い物を求めてしまうと、それはやっぱり安全策しか出ない訳です。
だから、2つのステージを分ける必要があると思うんです。「今何をやっているのか?」という話ですね。今はアイデアを出そうとしているのか、それとも、最終案に絞ろうとしているのか。拡散のフェーズと収斂のフェーズを分ける必要があります。それを同時に求めてしまっている会社がほとんどなんですよ。事業計画としての完成度の高さだとか、将来の有望性だとか、そういったものにまでイノベーティブなものを求めようとしても無理です。イノベーティブなもの、大化けする可能性のあるものは、先ほどの「ガリガリ君」ナポリタン味のように、突拍子もないもの、「何それ?」と呆れられるようなものからしか出てきません。

例えば、サイバーエージェントなどは、新しい事業がどんどん立ち上がっていっていますが、その要因の1つは、新しい事業案を、タイトルだけで、「これこれこういうビジネスだ」と3行くらいの説明で、提案できるようにしたからだそうです。
そして、何百も出てきた案を全役員が3日くらいかけて聞く。ほとんどは箸にも棒にもかからないようなのをじっと我慢して聞くわけですが、そういうプロセスがないと面白いものは出てこない。とにかくアイデア出しの段階では一切叩かないこと。むしろ面白いアイデア出したら、「面白いなあ」と称えてあげないといけないんです。

井上 「何か提案すると頭ごなしに否定ダメ出しされて、嫌な思いをして終わるから」という若い人も多いでしょうね。だから、行動に結びつかなくなる。

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小杉 意欲をなくして、「だったら、言われたことだけやるよ」となりますよね。その点、起業家のように企業の中で働く人たちは違います。例えば、野村証券の塩見哲志さん――社内で「モーニングピッチ」(ベンチャー企業と大企業の事業提携を生み出すプラットフォーム)というイベントを提案、推進し、トーマツ・ベンチャーサポートの斎藤祐馬さんらとともに、今のベンチャーブームをけん引したと言われている人ですが――、彼などは、自分の案が叩かれたら自分の側に非を認めるんですね。「うちの会社の役員はわかっていない」などとは思わない。

先ほどもお話ししたように、経営というのは、「これは次のビジネスの柱になりそうだ」とか「収益を上げそうだな」というものであれば放っておくはずがありません。ならば、提案したものが認められなかったのには何か原因があるはずで、例えば、「案は面白いが、もっと練って来い」という話なのか、「今はタイミングが悪い」という話なのか、それとも、「お前の提案の仕方が悪い」という話なのか、いずれにしても、彼はそういうメッセージとして受け止めるんです。
塩見さんの場合は、もう一度仕切り直して、ネット上で知り合った前述の斎藤ら外部の人たちとアライアンスを組み、マスコミなどを巻き込み、創業経営者たちの協力を得て……とやっていきました。
面白いことは、まっとうに提案しても、これまでと遠いものほどまず弾かれます。そのときに諦めない。塩見さんのように、アプローチ、タイミング、やり方、人間を変える。しつこく繰り返しやるという発想が必要だと思いますね。