総合【視点】リーダーに求められる質問力 「考える人材」育成が持続的成長の鍵
人手不足感を背景に企業の採用意欲は高く、6月の正社員の有効求人倍率(季節調整値)は2004年11月の集計開始以来、初めて1倍を超えた。新卒採用も学生優位の売り手市場が続く。
一方で新卒社員の3割が3年で退職するといわれる。将来を背負って立つ逸材とにらんだにもかかわらず、「向いていない」「おもしろくない」といって去っていく。雇用のミスマッチは双方にとって無駄であり、企業側には採用から始まる社員教育に問題がなかったか検証が求められる。
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山本五十六は「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、誉めてやらねば人は動かじ」といった。さらに続けて「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」とリーダーに人材育成術を説いた。
この教えを守るかのように離職率を大幅に低下させた企業がある。栃木県を中心に4カ所のゴルフ場を運営する鹿沼グループだ。ゴルフ人口の減少で人員削減などの苦しい経営を強いられるゴルフ場が多い中、13年4月~17年7月に入社した大卒15人のうち退職したのは1人、離職率はわずか6.7%だ。高卒も27.3%と低い。
福島範治社長は「責任あるポジションを与えて任せることにしている。新しい企画のコンセプトを伝えても、具体策は現場で考えてもらう」と語る。課題に対し自分から回答を与える指示命令型から、質問を出して答えを引き出すコーチング型に切り替えた。こうして社員に考える力を身に付けさせ、事業への参加意欲を高めていった。
責任を委ねると同時に裁量権も与えるので、自ら考えて行動する面白さを実感できる。もちろん、任せるといっても放置するわけではない。定期的に進捗(しんちょく)状況をフォローし、うまくいっていないと感じたら「もっと良いものはないかな」と質問しステップアップを図るよう促す。成功に導くための情報も提供する。
人事評価も新しいプロジェクトへの参加を加点材料にしたり、顧客の声を反映したりして従業員満足度を高める。社員も「社長は部下を信用してくれる。頑張ろうという気持ちになる」と働きがいを認める。ロイヤルティーの向上にも間違いなくつながる。
同社はメインバンクの破綻・国有化により、04年に民事再生法の適用を余儀なくされた。07年に自主再建を果たしたが、福島社長の従業員第一の姿勢が再生をもたらしたといえる。任せることで「考える部下」が育ったのだ。
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このように人材育成の要諦の一つがリーダーの質問力といえる。「どうしたらいいですか」と問われたら「あなたはどうしたいの」と聞き返す。会社を残すも潰すも経営者次第で、そのためには人を育てるしかない。認めてもらいたい部下に対し「よくやった」とねぎらい、声をかける。
将棋棋士の羽生善治氏は「三流は人の話を聞かない。二流は人の話を聞く。一流は話を聞いて実行する。超一流は話を聞いて工夫する」と指摘した。倒産する会社の社長は「人の言うことを聞かない。勉強しない。社員を信じない」といわれる。任せないと部下は育たない。社員の意気込みこそが会社を成長させるからだ。
だからリーダーは同心円の中心にいてはだめだ。中心にいると社員は最終的な結論をリーダーに求めるようになり、思考停止に陥る。部下の問題解決能力は高まらず、考える力がつかない。依存体質になるだけだ。一方で、リーダーは安易に答えを求めてはいけない。答えを出す力を部下につけさせるのが役割ともいえる。質問力とは聞く力でもあり、企業の持続的成長をもたらす。
前向きでポジティブな社長は質問されることも大事と考える。他人からの質問は視点を変え、創意工夫や成功をもたらすからだ。気づきも与えてくれる。リーダーとは孤独で人に頼るわけにはいかない。とはいえ、逃げるわけにもいかない。意見を聞いても最終的にはすべてを決めるのがリーダーだ。そのためには自分自身への質問力を高める必要がある。