人手不足は好機!賃金上昇と設備投資の呼び水に 戦後最長の景気拡大を反映

総合人手不足は好機!賃金上昇と設備投資の呼び水に 戦後最長の景気拡大を反映

人手不足が大きな問題となっています。厚生労働省がこのほど発表した6月の有効求人倍率は前月より0.02ポイント上昇して1.51倍となり、バブル期のピーク(1.46倍=1990年7月)を上回って、43年4カ月ぶりの高水準を記録しました。

有効求人倍率は、全国のハローワークに登録して仕事を探す人(求職者)1人に対して求人数が何件あるかを示すものです。6月の結果は求人件数が求職者の1.51倍あったわけで、求人側の企業から見ると151人の人材を採用したいにもかかわらず、100人しか集まらなかったことになります。いかに人手不足であるかがよくわかります。

それほどの人出不足は当然のことながら企業活動にも制約を与え、日本経済全体の成長を阻害する要因になることが懸念されます。中長期的に見ても少子高齢化・人口減少が進行する中で、人手不足はますます深刻化する可能性があります。これをどう乗り切るかは間違いなく大きな課題です。しかし見方を変えれば、人手不足は日本経済にとってチャンスかもしれないとの“仮説”が成り立ちます。それを3つの点から見てみましょう。まず第1は、人手不足は企業の雇用意欲の表れであり、景気が着実に回復していることの裏返しだということです。雇用というものは景気に先行するものではなく、景気の動向を反映するもの、または景気変動の結果に応じて変化するものです。つまり雇用改善は景気回復の“証”なのです。

これまで本連載でも何度か指摘してきましたが、現在の景気の回復ぶりは生産、消費や企業業績など多くのデータに表れています。直近では、今年4~6月期の実質GDP成長率は前期比・年率換算で4.0%増となり、6四半期連続でプラスとなりました。6四半期連続のプラスは、戦後最長の景気拡大期だった2006年4~6月期以来、11年ぶりです。また4%増という伸び率は事前の市場予測(平均で2.4%程度)を大きく上回り、プラスが続くこの6四半期の中でも最大の伸び率です。

我が国の景気は、波乱含みの海外経済や消費低迷などの影響で停滞感が強いイメージがありますが、実は着実に回復を続けているのです。これを反映して雇用も改善しているわけです。そして雇用の改善がまた消費を下支えするという循環が起きつつあります。

第2は、人手不足が賃金上昇や労働市場の構造変化をもたらしつつあることです。多くの企業は人手不足に対応するため、非正規雇用から正規雇用への切り替え、パートの時給アップなど待遇改善に動き始めています。それを象徴するのが、正社員の有効求人倍率が初めて1.0倍を超えたことです。厚生労働省は有効求人倍率の調査の中で、2004年から正社員と非正規社員のそれぞれの有効求人倍率を発表していますが、6月の調査で正規社員の有効求人倍率が1.01倍となったのです。これは、従来は非正規雇用を中心に進んでいた雇用改善の動きが正社員にも及んできたことを示しています。

特徴的なのは、正社員の新規求人数が前年同月比で8.7%増加し、非正規を含めた全体の求人数の6.3%増より大幅に上回ったことです。多くの企業が人手不足に対応するため非正規よりも正社員をより多く採用しようとしていることを表しています。こうした動きはさらに広がることが予想されます。バブル崩壊以後、多くの企業はできるだけ正社員の採用を抑え、人員増が必要な場合は非正規雇用でまかなうことが一般的になっていましたが、その構造が変化しつつあると見ていいでしょう。

こうした動きは賃金の上昇を促すことにつながります。すでにパート従業員の時給が上昇し始めていることは以前に指摘したとおりですが、やがて正社員の賃金上昇にもつながることが期待されます。第3は人手不足が省力化投資など新たな設備投資やイノベーションの呼び水になりうることです。かつて設備投資は人員削減につながるというのが一般的なイメージでした。しかしこれからは人手不足を補うためには設備投資が必要という時代を迎えようとしています。

また人手不足を補うための技術開発が不可欠となってきました。近年脚光を浴びているAI(人工知能)などは、そのキーテクノロジーと言えるでしょう。そしてそうした新規技術の導入が、ひいては雇用増加と賃金上昇につながるシナリオが考えられるのです。

この点について、今年の「経済財政白書」が興味深い分析をしています。同白書によると、新規技術を導入・検討している企業に雇用への影響を聞いたところ、全体では「影響を与えない」との回答が最も多かったものの、次に「増加する」との回答が26%を占めました。「大きく増加する」との回答も合わせると29%となり、「減少する」「大きく減少する」との回答(合計19%)を大幅に上回りました。

さらに賃金への影響でも「増加する」「大きく増加する」との回答が31%で、「減少する「大きく減少する」の5倍以上に達しています。賃金が「増加する」「大きく増加する」と回答した企業にその理由(複数回答)を聞いた結果は、「収益増加」が80%、「高スキル労働者の増加」が44%などとなっています。つまり新規技術の導入に前向きな企業では、新規技術が生産拡大をもたらし雇用増加につながる、また収益増加と高スキル労働者増加をもたらし賃金も上昇するという構図が生まれるわけです。

このように見てくると、人手不足はマイナス面ばかりではなく、むしろ日本経済にとって明るい材料になりうる要素を持っていると言えます。ただそれはあくまで「その可能性がある」ということです。可能性を現実にするためには、企業経営者のマインドがもっと前向きなものに変わることが必要です。

しかし現状では、多くの企業は雇用には前向きになってきたものの、賃上げにはまだ慎重です。それを端的に示しているのが、労働分配率の低下です。今年の「経済財政白書」によると、法人企業統計をベースにした労働分配率は2017年1~3月期で60.8%と、2015年4~6月期と並んで26年ぶりの低水準となっています。

労働分配率は、企業が生産した付加価値のうち労働者が受け取る人件費の割合を示すもので、不況時には企業の利益が減るため労働分配率が上昇し、景気拡大期には企業収益が人件費の伸びを上回るため労働分配率が低下する傾向があります。したがって現在の労働分配率の低下は最近の景気回復を反映していると言えるのですが、それでもリーマンショック前の2002~2008年など過去の景気拡大期と比べても現在の低水準ぶりは際立っています。

それほど最近の経営者は賃上げに慎重になっていたことがうかがえますが、逆に言えばその分、現在は賃上げ余地が大きいともいえるわけです。ですから、経営者が賃上げに対するこうした慎重なマインドを変えるかがポイントとなるでしょう。