10年後にはどんな「新しい仕事」が生まれているのか?

総合10年後にはどんな「新しい仕事」が生まれているのか?

新入社員の名刺に10年前にはなかった肩書きが

今年4月に娘がIT系の企業に就職した。6月に新人研修が終わり、いよいよ現場配属に。その時に「自分の名刺ができた」と言いながら、印刷したての名刺を嬉しそうに私に見せてくれた。

受け取った名刺を見ると、中央に縦書きで彼女の名前があり、その右横に「フロントエンドエンジニア」とある。「そんな肩書き、聞いたことがないなあ」と思い、「どんな仕事を担当するの?」と尋ねてみた。

すると、「ユーザーと直接データをやり取りするブラウザやアプリの画面デザインやプログラミングをする仕事」とのことだった。

インターネットの急速な普及に伴い、関連する新しい職種が次々と生まれてきている。フロントエンドエンジニアも、おそらく今から10年ほど前に登場した職種なのだろう。クラウドサービスやスマートフォンが普及しなければ、需要がない仕事だからだ。

新しい技術が登場し普及していくと、その技術を活用して生産性を高めたり、生活をより便利にしようとする人々や企業が必ず出てくる。そして、そのための「新しい仕事」が生まれるのだ。

ここで、これから10年後にどんな「新しい仕事」が生まれているのか、想像してみると面白い。その仕事が登場する理由となる新技術のタネや、斬新なアイデアは、すでに世界のどこかで産声を上げているはずだ。

そういうものを早めに発掘し大きく育てられれば、10年後の成功は間違いないだろう。

『10年後の働き方』 ――「こんな仕事、聞いたことない!」からイノベーションの予兆をつかむ
未来予報株式会社
曽我浩太郎/宮川麻衣子著
インプレス 2017/07 240p 1500円(税別)

本書『10年後の働き方』を著した曽我浩太郎氏と宮川麻衣子氏は、米国テキサス州オースティンで毎年3月に開催されるクリエイティブ・ビジネス・カンファレンス「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」に2012年から参加している。SXSWは、TwitterやFoursquareを世に広めるきっかけを作ったことでも知られる。SXSWに感銘を受けた曽我氏と宮川氏は「未来予報研究会」を立ち上げ、同カンファレンスで発表されたアイデアを日本国内で広めたり、SXSWで発表しようとしている日本人の活動の国内外への発信などを続けてきた。

2016年に2人は「まだ世の中にないモノやサービスを一緒に育てる」をコンセプトに、製品のリサーチ、コンセプト設計、ブランディングを専門に行う「未来予報株式会社」を起業。SXSWの日本で唯一の公認コンサルタントとして活動を続けている。

本書では、「農業と食」「交通とエネルギー」など8つの分野・業界ごとに章を分け、数々の生まれたばかりの新技術やビジネスを紹介している。その多くはSXSWで発表されたものだ。そして、それらの新技術・ビジネスが発展・普及する先に登場するであろう「10年後の仕事」を具体的に示し解説している。

機械やロボットとの“協調”がカギになる未来

「建築と行政」の章には、SXSW2015でも展示された、ドローン型建築用3Dプリンターのコンセプトモデル「マペット」が紹介されている。

マペットはGPSと3Dプリンターのプリントヘッドを搭載したドローンだ。GPSで自身の正確な位置を測定しながら飛行し、適切な場所にセメントを射出してさまざまな形状や大きさの建築資材を出力する「空飛ぶ3Dプリンター」だ。

マペットは、災害時の堤防の修理や避難シェルターの建築など、建築資材を運び込みにくい場所での作業を想定したものだ。

著者らは、将来このようなドローン型建築用3Dプリンターで普通の「家」を建てられるようになると予測する。そうなった時に生まれるはずなのが「3Dプリント建築家」という職種。まずは3Dプリンターで家を設計し、それを元に何機ものドローンを操りながら家を“出力”する設計士兼現場監督のような仕事だ。

3Dプリント建築家は、従来のような人間の手による建築では難しい独創的な新しいタイプの建築を行うだろう。しかも、どんな場所にも建築が可能だ。そのためには、現在の建築家よりも幅の広い知識や技量、そして空間感覚や美的センスが要求されることだろう。

また同じ章では、人間と共同作業をする「コラボレーティブ(協働)ロボット」も取り上げられている。

コラボレーティブロボットは、被災地や宇宙空間など、人間だけでは作業が難しいような極地で、人間と協働作業を行う。人間だけではとても不可能な難作業をこなすことが想定されているのだ。

あらゆる状況に対応し、複雑な作業をこなすロボットに、従来のプログラミングですべての動作を記憶させようとするのは、たいへんな手間だ。そこで、ロボットの腕を手で動かしたり、自分の動作を真似させてロボットに“学ばせる”こともよくあるそうだ。そうすると、“教育係”の「ロボットインストラクター」といった仕事が将来生まれる可能性がある。

今後10年の間に、機械やロボットと人間が協調して仕事をするのが当たり前になるかもしれない。ロボットやAIに仕事を奪われる心配をする人は少なくないが、ロボットの可能性が広がることは、逆に彼らと協調して「新しい働き方」をつくるチャンスとも捉えられるはずだ。

ネットのコミュニティを活用して新たな価値を創造する

「交通とエネルギー」の章では、ITを活用してこれまでにない運行形態のバス交通を実現するアメリカのチャリオット社を紹介。そして今後は、同社のような「スマートバス運営者」がたくさん生まれると予測する。

チャリオット社は15人乗りの小型バスを運行している。利用者は専用アプリでルートマップ上の“乗りたい場所”を選び、バスの乗車予約ができる。停留所などあらかじめ定められた地点以外でも乗れるし、予約制なので確実に座れる。チャリオット社側にも、利用者がおらず通過できる停留所が運行前からわかるのはメリットになる。効率的で環境負荷の低い運行ができるからだ。

さらに、バスの運行ルートも利用者が提案できるのだそうだ。提案したルートに50人が賛同すれば、新しいルートが作成されるというルールだ。

「服飾とウェアラブル」の章に紹介されているアパレルSPA(製造小売)のスタイルセイント社は、コミュニティサイトを活用した商品開発で成功した企業だ。

同社のマーチャンダイザーは、Web上のコミュニティに参加しているファッションに敏感なユーザーと対話しながら、自社ブランドの新商品を開発している。マーチャンダイザーとは、商品の企画から販売、マーケティングまでを一貫して担う仕事だ。

著者らは、スタイルセイント社で成功したような新しいタイプのマーチャンダイザーを「コミュニティ・マーチャンダイザー」と名づけている。そして、今後売れる商品を開発するには、消費者コミュニティと対話しながら商品企画を進める仕事が重要になると予測する。

情報があふれる現代、消費者の嗜好は多様化しており、変化も激しい。アパレル業界で売り手側がその年のファッショントレンドを予測し、それに合わせた製品を投入するという従来のやり方ではうまくいかなくなってきている。それよりも消費者コミュニティとコミュニケーションをとりながら、直接嗜好を汲み取る方が確実というわけだ。

冒頭で触れた、私の娘が担当することになったフロントエンドエンジニアは、Web技術をいかに活用して顧客との接点を作っていくかが問われる仕事だ。技術力やデザインスキルの他に、顧客のニーズをしっかりと理解する深いコミュニケーション能力が要求されるのだろう。

結局、さまざまな仕事がロボットやAIでこなせるようになってきている現代でも重要なのはコミュニケーション能力なのではないか。そのあたりに、これからのイノベーションやビジネス創出のヒントがあるのだと思う。

なお、本書の各章には「未来レポート」という2027年の状況を予測した架空のストーリーが掲載されている。それらをヒントに、自らの業界の10年後を想像してみてはいかがだろうか。