総合ピンチをチャンスに変えた銀行の新しい試みが、「働く人にもやさしい」理由とは?
りそなショックはもう遠い昔のこと。バブル崩壊後、国有化寸前まで追いつめられたりそなはいま、黒字経営を実現している。最近のりそなは、TSUTAYA(大阪・枚方市)の中にあるBOOK&BANK、Tully’sCoffee(東京・上野御徒町)と一緒のCAFÉ&BANK等、銀行のイメージを一新する取り組みを積極的に行っている。銀行を「サービス業」として考えると、まだまだアイディアがあふれ出てくるというりそなのダイバーシティは、日本の企業を救うヒントが満載だ。
現在のりそな銀行は、どこの銀行もまだ行っていない試みをいち早く実行する決断力や改革意識を持ち、働き方にもさまざまなバリエーションを取り入れている。現在に至るまでの試行錯誤も含めて、ほかの業種の企業にも参考になるお話を、人材サービス部ダイバーシティ推進室長の杉本仁美氏【写真】に聞いた(2017年4月取材・佐々木多惠子)
杉本仁美氏(すぎもと・ひとみ)
株式会社りそなホールディングス 人材サービス部 ダイバーシティ推進室長
大学卒業後、大和銀行(現りそな銀行)へ入社。営業店にて融資・法人渉外を経験し、人事部(現人材サービス部)へ異動、りそなショック時は改革プロジェクトにも携わる。本部審査部門、営業店のオフィサー(銀行の副支店長)を経て、2016年4月より現在の人材サービス部ダイバーシティ―推進室へ。女性活躍推進施策に加え、中高年層の従業員、障がい者、LGBTなど、多様な人材が活躍できる組織作りを担っている。
細谷イズムが今なお生きる
2003年5月、経営危機に陥ったりそなの再建の立役者となったのは、当時会長として迎えたJR東日本の副社長であった細谷英二氏(故人)でした。「りそなの常識は世間の非常識」をはじめ、細谷さんから受け継いだ言葉はいまも全従業員が意識し続けており、常に「これはお客様のためかどうか」と原点に立ち返って物事を考えています。
細谷さんは、金融業ではなく「金融サービス業を目指そう」と号令をかけ、様々な改革に取り組んでいきました。プロジェクトチームが立ち上がり、部署を跨いでのミーティングが頻繁に行われ、これまでの常識にとらわれることなく、多種多様な切り口での取り組みを検討し、実行に移してきました。
例えば、営業時間の見直しです。一般的な銀行の営業時間は15時までですが、りそなは全店で17時まで営業しています。最近は一部の店舗で、13時~21時や、年中無休で11時~19時とするなど、これまでの営業時間帯では会えないお客様との接点拡大を目的に、地域の特性やニーズに合わせながら、お客様目線で営業時間を変えています。
また当時、銀行とはまったく業種の違う民間企業等から多くの方が社外取締役に就任し、実際に営業店を回って店頭改革や業務改革に乗り出しました。それまで当たり前だと思い、疑問も持たずに行ってきた業務一つひとつが見直されました。お客様に書いてもらう書類の数が多くないか、受付からお客様に返却するまでの社内の印鑑が多くないかなど、ひとつの手続きにかかる工程が多すぎて、結果的にお客様をお待たせする時間が長くなっているのではないか、という視点でムダの排除を徹底的に行っていきました。根本的なサービスの在り方、待ち時間の考え方、組織の在り方も含めて、「今までこうでしたから」という言い訳がまったく認められず、驚くばかりでした。当時、生まれ変わるりそなを実際に体験してみて、私は「人は、自分がいる環境が常識になってしまう。けれどもそれは思い込みで、自分が理想と思う環境へ自由に変えることができる」ということを学びました。
そのほかにも、役員室をガラス張りにし、銀行特有の「頭取」という肩書きを「社長」に変えました。また、役職で呼ばずに名前をさん付けで呼び合うことで、上司との距離感を縮め、話しやすい職場環境を作りました。社長や役員は頻繁に営業店へ足を運び、タウンミーティング等を開催して現場の声を良く聞いてくれます。
社内では、経営に対し自由に意見が言える風土ができました。そこで吸い上げられた意見については、本部がしっかりと検討を行い、施策に反映されたものも多くあります。新しいことを考えたり、改善できることを探したりすることが当たり前のことになりました。従業員の声を活かして変化し続ける組織であるからこそ、こうした取り組みが仕事のやりがいにも繋がります。
細谷イズムで最も画期的と言われた部分は、「銀行をサービス業として捉える」ことです。素早い決断力や行動力、業務能力の向上を通じて、お客様にとっても社員にとっても魅力のある会社を目指しています。カフェや書店といっしょの事業形態を実施する等も細谷イズムの進化した姿です。「改革を止めない」という細谷イズムは今も続いています。
女性活躍の場の拡大と意識改革
ダイバーシティ推進に本格的に取り組む起点となったのは、まさに2003年の経営危機「りそなショック」でした。当時、早期退職を募りましたが、男性社員が想定以上に辞めてしまい、かつ採用も一時ストップしていました。女性社員やパートナー社員(パートタイマー)に活躍してもらわなければ、業務運営自体が成り立たなくなってしまうという深刻な人員不足に見舞われてしまったのです。残った男性社員にももちろん活躍してもらうわけですが、必要に迫られ、ものすごいスピードで女性活躍推進施策に取り組み、併せて職場環境作りが行われました。
例えば、それまで結婚や育児を理由に退職する女性社員が多くいましたが、制度を整え、かつ制度が利用しやすい職場環境作りを行うことで、結婚や妊娠をしても退職せずに働き続けることが当たり前、という状況になりました。
制度を整えていくことと並行して、女性社員の積極登用を進めました。2004年7月には「総合職・一般職」というコース制度を廃止し、業務範囲の拡大を図っていきました。主に男性社員が担っていた営業に、女性社員を抜擢してみると、男性社員と遜色なくしっかりと成果を上げることができます。例えば、お客様に読んでほしいパンフレットの箇所にインデックスを貼る等、きめ細やかな気配りをしたり、女性ならではの距離感で上手くお客様のニーズを引き出したりしてくるなど、男性とは違った営業スタイルを確立している人も多くいます。今では個人営業部門では多くの女性が活躍しています。お客様の中には、女性の営業担当が来ると軽く扱われていると感じる方もいらっしゃいましたが、女性と男性の仕事内容が全く同じであることを説明していくことで、ご理解いただける土壌ができてきました。
一方で法人営業部門は男性の仕事というイメージが社内ではまだ残っています。他業界では活躍している女性営業職の方も多くなってきましたし、他行でも女性の法人営業担当者が増えてきています。法人営業部門の女性担当育成は当社の今後の課題です。
また、業務範囲の拡大のみではなく、管理職への登用も積極的に行ってきました。人事制度を大幅に変更していった2004年以降、男性社員の反発が無かったわけではありません。「女性ばかりが優遇されている」と女性の昇進を妬む声も実際にはあり、ギクシャクした空気が職場に生じることもありましたが、現在はまったくそのような空気は無くなり、所属上司の推薦で男女平等に昇進のチャンスが与えられています。
女性の管理職登用を進めていくうえで一番苦労したことは、女性の意識改革でした。女性社員は、「上司の立場は男性にお任せする」という考えを持っていることが多く、優秀な人材にもかかわらず、「出世はしなくてもいい」と、上昇志向を持たずに仕事をしている人もいます。上司が「昇進試験を受けてみないか」と声をかけたときに、「私は結構です」と遠慮をしていても、背中を押してあげることが時には必要です。時間を取ってよく話をし、動機付けをすることによって、「頑張ってみよう」と管理職にチャレンジする女性は多くいます。昇進してからの女性社員の仕事ぶりは男性社員の仕事ぶりと差がありません。優秀な人材を適材適所で登用していくことで、より良い形での能力発揮に繋がります。今では女性の管理職の数が増えてきたことから、女性社員の昇進に対する心の壁は大分低くなってきました。中には時間をかけて昇進の打診が必要なケースもありますが、マインドアップやキャリアアップを目的とした各種研修の実施や、セミナー等を活用してロールモデルを積極的に見せていくことで、管理職へ自らチャレンジする女性社員が非常に増えてきました。2017年3月末にはグループ全体の女性ライン管理職比率(部下のいる管理職の比率)は24.5%となっています。
女性だけで経営陣に改革を提案する「りそなWoman’s Council」
2005年4月に女性社員による経営直轄の諮問機関「りそなWoman’s Council」が発足しました。
りそなグループ各社の所属部署や役職の異なる女性社員約20名で構成されており、女性の視点を活かして様々なテーマで議論し合い、経営者に直接意見が言える組織です。発足当初は任期2年としていましたが、現在は1年の活動へと変更しています。毎月1回東京と大阪で交互にミーティングを開催しており、通常業務を行いながら土曜日に集まるというボランティア活動ですので、メンバーにはかなり負担がかかっていると思います。
りそなWoman’s Councilの提言により、これまで様々な施策が実現しました。育児休暇制度の充実や「社員・パートナー社員間転換制度」、「JOBリターン制度」等、女性が働き続けられる労働環境を整えるための制度を多数導入しました。また、出産・復職へのサポートや育児との両立への不安払しょくを目的に「プレママセミナー」や「復職支援セミナー」の開催、「女性リーダー研修」や「メンタリング制度」「ネットワーキングセミナー」等、女性のキャリアアップの支援策もりそなWoman’s Councilの提言から生まれた施策です。
年齢も役職も担当業務も違う女性社員が、対等の立場で喧々諤々と議論し合うことで、お互いの信頼関係が育まれ、必然的にメンター&メンティーの関係も構築されます。私は1期生でしたが、メンバーになって非常に良かったと思っています。十数年が経った今も当時のメンバーとは連絡を取り合っており、お互いの悩みを相談し合ったり、昇進のお祝いなどで集まったりすることも続いています。活動期間中は、お客様のこと、銀行のこと、従業員のことを真剣に考え、理想の会社実現に向けて経営陣へ提言する、というやりがいのある活動だからこそ、メンバー同士の心の結びつきが強くなり、結果的に人生のよき友ができる。「りそなWoman’s Council」は活動をやり遂げた後も仲間との絆が残る良い組織だと思います。
